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 主張の組み立ての重要性(事例)

ここがポイント
 同じ事件(事実関係)でも、裁判の争点が何になるかで、結果は大きく異なりうる
 何が裁判の争点となるかは、事実主張・法律主張を含めた主張の組み立て方で決まり、こちらの組み立て方(主張と証拠の出し具合も含む)で相手の組み立て方に影響を与えうる

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 主張の組み立てによって、裁判の流れ、行方が変わるということがままあります。
 私が経験した労働事件のケースで、少し具体的に説明してみましょう。

事案の概要
 有期契約の更新を繰り返して12年あまり勤続した後に、契約期間満了の際に更新を拒否(「雇い止め:やといどめ」)された労働者から相談を受けました。長らくメーカーの工場で出荷事務を担当していたのですが、雇い止めの半年前に会社はその労働者が担当する業務を外注することにして廃止し、契約期間中なのに解雇を通告しました。驚いた労働者は、まだ契約期間があるはずだと抗議しました。それで会社はその工場の別の部署に配置転換しました。それでホッとしていたらその半年後(契約期間の満期)でその業務はもともと廃止予定だったということで雇い止めされてしまったというのです。

相談時点/提訴時点での判断/見込みと労働者の希望
 相談を受けて、会社のやり方は汚いなと思いました。その会社は一部上場企業のグループ会社ですが、私の経験上は、一部上場企業のグループ会社でも一部上場企業自体でも、労働者、特に非正規労働者に対する対応は杜撰で乱暴なことがよくあります。しかし、相談者の希望は原職復帰で、それは労働者の立場からは当然の希望なのですが、それを実現することは難しく、少し頭を抱えました。1つにはその工場の部署構成、人員配置を考えたとき、これまで配属されてきた部署がいずれも廃止されていることもあり、現実に配属すべきポストが考えにくかったのです。それは、会社側で考えさせるとして、会社側が出してきた雇い止め理由証明書の記載から、実質は整理解雇(人員整理、リストラ)だという主張がなされる可能性が高かったのです。
 契約社員(有期契約労働者)の雇い止めについて、契約の更新を繰り返して雇用継続の合理的期待があるときには雇い止めにも合理的な理由が必要(法律家の世界の用語では「解雇権濫用の法理が類推適用される」といいます)としたことでよく知られる日立メディコ事件の最高裁判決(1986年12月4日)は、その後半で、契約社員の雇い止めの効力を判断する基準は正社員を解雇する場合とは自ずから合理的差異があるとし、事業場やむをえない理由により人員削減をする必要があり余剰人員を配置転換する余地もないときは正社員の希望退職募集に優先して契約社員の雇い止めをしてもやむをえないとしています(この後半部分はものの本やネット情報などで紹介されないことが多いです)。最高裁がそういう判断を示していることもあって、実質的には整理解雇に当たる契約社員の雇い止めのケースでは、裁判で契約社員の雇用継続の合理的期待があるとされても、結論として雇い止めを無効としたものは稀です。この時点では、公刊されている判例集に掲載されているものでは資生堂・アンフィニ事件の横浜地裁判決(2014年7月10日)くらいでした(その後、エヌ・ティ・ティ・ソルコ事件の横浜地裁判決(2015年10月15日)でも契約社員が勝訴しています)。
 私が相談を受けたときの第1感としては、労働審判で賃金3か月分くらいの解決金かなぁというところでした。しかし、相談を続け、本人の復職の希望が強いので、新判例を作る決意で本訴を起こすことにしました。

訴状の作成と労働者側の主張の組み立て
 訴状の段階で、12年あまり勤続しているので契約更新の合理的期待がある(日立メディコ事件最高裁判決などを経て、今では労働契約法の19条に契約更新の合理的期待がある場合は雇い止めに合理的な理由がなく社会通念上相当と認められないときは雇い止めが無効となることが定められています)ことは当然として、本件では整理解雇の要件が満たされないことを具体的に論じました。特に会社の決算書類から見て利益が十分にあり人員整理の必要性がないことを強調しました。実質、ここが勝負だと踏んでいました。

会社側の対応/主張の組み立て
 裁判で、会社側は、本件は整理解雇ではないと主張してきました。こちらが先回りして人員整理の必要性がないことを具体的に証拠を挙げて論じたためか、一部上場企業のグループ会社として人員整理の必要性があること(要するに業績が悪化していること)を認めるのは人聞きが悪かったためかはわかりませんが、私はホッとしました。少なくとも会社側の弁護士は、証拠に反して訴訟戦術上は人員整理の必要性があると主張するという手段は採らなかったのです。

裁判の流れ
 会社側の主張は、12年あまり勤続しても契約更新の合理的期待がなかったということと、会社側は解雇通告をしていないと(虚偽の主張を)した上で労働者が期間満了まで勤めればよくその後は退社すると言ったというものでした。12年あまり勤続しているのに契約更新の合理的期待がないというのは、かなり無理筋の主張です。会社側は長期間勤続しても雇用継続の合理的期待を認めなかった判決をいくつか挙げて主張しましたが、それは例外的な判決で、例外には例外の事情があるものです。そのことをていねいにきちんと反論させてもらいました。労働者側で期間満了で退社すると言ったというのは、解雇通告に対してまだ契約期間があるはずだと言ったもので、少なくとも契約期間中は解雇できないはずと言ったに過ぎず、だから契約期間が満了したら更新せずにやめるということではもちろんありません。労働者が解雇通告を受けて相談に行った記録を取り寄せて私のところに持ってきましたので、それを証拠として提出することで、「解雇通告はしていない」という会社側の嘘が立証できましたし、すでに雇用継続の合理的期待がある労働者が自らそれを放棄したという認定には裁判所も慎重な姿勢を取るはずです。
 そういったことから、裁判の流れとしては、判決ならこちらの勝ちという状勢になっていきました。

和解の行方と解決
 私は、会社側の代理人に、会社としては人員整理の必要性はなかった、本人が期間満了で退職すると言うから雇い止めしたに過ぎないという主張なら、任意に和解で復職させてはどうかと提案しました。会社側からは、元の職場には配置できるポストがないとして、片道2時間かかる部署を挙げてそこなら復職させてもいいと言ってきました。裁判官は会社側の元の部署にはポストがないという説明に納得してしまった様子です。労働者(私の依頼者)はそんな遠くの職場では復職する意味がないと拒否します。会社側の代理人は、判決で負けても同じ配転命令を出す、配転命令拒否ならそこで解雇すると予告してきます。
 判決で雇い止め無効となれば、理屈として、いったんは元の職場に復帰となりますが、会社側には人事権がありますので配置転換を命じることができます。裁判所は解雇には相当な理由を要求しますが、配置転換には会社側の幅広い裁量を認める傾向にあり、元の配属部署がいずれもなくなっていることを考えると、配転命令の無効という判断は期待できません。
 こうして判決を求めれば雇い止めは無効となる(形としては全部勝訴)見込みだけど、原職復帰は実質的には手詰まりとなって、裁判官からも金銭解決が勧められました。そういう状況となったので、労働者(私の依頼者)も相当な金額なら応じるということになりました。結果として、正社員の解雇事例で本訴で勝ち筋の場合の相場を少し上回る水準(和解で守秘義務条項がありますので念のためにぼかします)で和解しました。それまでの経過から一応読んではいたのですが、裁判官の腹案が最初からその水準だったので、内心はやや驚きつつホッとしました。裁判官がそういう水準を示したのは、労働者の事情を察してくれたということもあるでしょうけれど、当然に、判決なら労働者側の勝訴と判断したからでしょう。

まとめ:主張の組み立ての重要性
 この裁判では、労働者が希望していた原職復帰は叶いませんでしたが、相談を受けたときに実質負け筋でわずかな金額の解決金程度と判断した事件が、実質勝訴の解決金額になりました。裁判の主張の構造が、実質的には整理解雇(人員整理の必要性がある)ということで展開していたら、そこは会社の内部事情が絡むのでどのような証拠が出てくるか(作られるか)わからず敗訴のリスクが相当ありました。そのパターンを避けることができたことで、まったく逆に判決なら勝訴の展開となりました。こういったところで、裁判での主張の組み立ての重要性を実感できます。

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