庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  私の読書日記  2015年9月

03.ギャンブル依存国家・日本 パチンコからはじまる精神疾患 帚木蓬生 光文社新書
 諸外国に比べてギャンブル有病者が図抜けて多いのにほとんど対策が取られていない日本の現状について、公営ギャンブルとギャンブル扱いさえされていないパチンコ・スロットをめぐる利権構造などを指摘する本。
 厚労省の研究班が2014年8月に発表した成人4000人に対する面接調査によれば、日本のギャンブル依存の有病者は4.8%(男性8.7%、女性1.8%)に達し、海外の調査ではアメリカが1.6%、香港が1.8%、韓国が0.8%なのと比べて図抜けて多いのだそうです(3ページ)。そして患者の病態はアルコール依存症と似ていて、離脱症状(ギャンブルができなくなると焦燥感や落ち着きのなさ、不眠、動悸、息苦しさ、冷や汗、手の震えなどが生じる)がありそれが1月、2月と続き、多少の金額を賭けるのでは興奮しなくなり次第に大金を賭けるようになり、手堅く本命に賭けるのでは面白くなくなり穴狙いになる、治療の基本は自助グループ参加だが自助グループは2014年9月段階で全国で146グループにとどまり岩手県、岐阜県、鳥取県には1つもないそうです(8〜10ページ、163ページ)。そして精神科医である著者の経験上、ギャンブル有病者のほとんどがパチンコ・スロットによるものだといいます(26〜30ページ)。
 そうか、病気だということなら、医者に行け、自助グループに行けということなんですね。債務整理をした弁護士・司法書士がそのまま放置するのが問題だと指摘されています(216ページ)。今後気をつけます。
 こういうギャンブル障害の実情が、私としては読んでためになる部分ですが、この本の大部分は、ギャンブル障害の実情が公表されず対策も取られない元凶が公営ギャンブルとパチンコ・スロットをめぐる利権構造にあることの指摘になっています。その部分を言いたいのはわかりますが、私の感覚ではそういう仕事はルポライターに任せて、著者は専門領域のギャンブル障害患者の実情の方をもっと詳しく書いて欲しかったなぁと思います。
 ところで、弁護士の目からは、事例Dさんについて、NPO法人の「ひこばえの会」が「ヤミ金の負債のみは返済し、あとは自己破産した方がよい」とアドバイスした(43ページ)というのが引っかかります。ヤミ金に返しちゃダメでしょう。法的にもヤミ金に対する返済義務はありませんし、現実的対策としてもなまじ返すといつまでも付きまとわれますし。

01.02.タラ・ダンカン12 魂の解放 上下 ソフィー・オドゥワン=マミコニアン メディアファクトリー
 魔術が支配する「別世界」の人間の国「オモワ帝国」の世継ぎの18歳(12巻時点)の少女タラ・ダンカンが、様々な敵対勢力の陰謀や事件に巻き込まれながら冒険するファンタジー。
 12巻では、悪魔の惑星ブーリミ・レミを攻撃していた、悪魔の魂を吸い上げてエネルギーとしている謎の彗星が行方をくらましたため、その目的は彗星がまだ破壊されていない悪魔の宝を探しに行ったとみたリスベス女帝が、タラ・ダンカンと仲間たちに先回りして悪魔の宝を回収することを命じ、タラとその仲間たち、同行する悪魔の王アルカンジュらが宇宙船で悪魔の宝の隠し場所に向かい、その先で冒険を重ね…という展開をしています。
 著者は、公式サイトのFAQ(現在はこちら)で「マジスターの正体は最後の巻で明かされるわ。そこでダンヴィウを殺した理由もわかるはずよ」と予告していました。しかし、12巻でも、マジスターの正体は結局は明確にされず、「ダンヴィヴを殺した理由」など、どこにも触れられていません。ストーリー展開から、すでにマジスターの正体など、読んでいてあまり興味も持てませんでしたし、ダンヴィヴの死に関してはすでに7巻で明らかにされていましたから何の意味もないのですが、読者に予告したことを平気で無視する著者の姿勢には、とりわけ子ども向けのファンタジーであることを考えれば、失望を禁じ得ません。訳者があとがきでその点について著者に聞いたところを示して言い訳をし、付録の「別世界通信21号」(12巻下付録)の編集長インタビューでフランスの出版事情の「おおらかさ」を語らせて言い繕おうとしていますが、第1巻時点から10巻で完結と言っていたのを途中で12巻に延長した挙げ句、第12巻で完結したのは「第1期(第1サイクル)」だと言い出したことと合わせ、著者の姿勢には不誠実さを感じます。
 ラストについても、収拾が付かなくなって大きな力を持ち出して全部それで解決できることにしてしまうご都合主義的なもので、ファンタジーなんだから、もともとが論理を超えた設定・展開なのだからということで大目に見てよいレベルなのか、私には疑問に思えます。公式サイトのFAQで「10巻分のシナリオはすでに私の頭の中にある」と言ってきたにしては、緻密さ、論理性を欠き、積み上げてきたストーリーは何だったのかと思えます。
 タラと仲間たちを見守ってきた、12巻を読み続けた愛読者には、それぞれのキャラへの愛着とその成長を読むという点では、そこそこに満足できるかとは思いますが。
 女の子が楽しく読める読書ガイドで紹介しています。11巻は2014年8月分06.07.で紹介しています。

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