庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  私の読書日記  2020年7月

08.新版 英語対訳で読む科学の疑問 松森靖夫、スティーヴ・ミルズ監修 実業之日本社
 宇宙、地球、生物、人体、その他日常生活上の科学に関する疑問79問について、英文と日本語の見開き2ページで解説する本。
 内容が興味が持てて、短く、英文を読む機会を持つにはとてもいい本だと思います。
 ただ英文は、「英語対訳」とタイトルにあるように、日本語から作られたためか、ちょっとくどいというか同じ表現の繰り返しが多く、そこが英語っぽくない印象を持ちました。
 英文の方にも単語や熟語等にアンダーラインを引いて和訳が付いているので助かりますが、 buoyancy という耳慣れない単語に「重力」と振ってあり(52ページ)、重力は gravity じゃないかという疑問に加えて、これを「重力」と訳すとどう考えても話が合いません。日本語訳の方を見ると「浮力」となっていて、そうだよなぁと思いましたが、そういうところチェックが甘いかなと感じました。

07.ボーダレス 誉田哲也 光文社
 高2の夏休みにクラスで群れずに一人ノートに小説を書き続ける片山希莉と希莉に興味を持ち小説の内容と小説の取材で盛り上がる森奈緒、格闘家の父が正体不明の黒ずくめの人物に襲われ視覚障害者の妹圭とともに山中を逃げ歩く八辻芭留、オリジナルのコーヒー「究極の静男」「渾身の静男」「最強の静男」「休日の静男」が評判の喫茶店「カフェ・ドミナン」を経営する市原静男・緑梨夫婦と音大を目指したが果たせず失意の帰郷をして喫茶店を手伝う長女市原琴音と琴音を無視し続ける次女叶音、屋敷内に閉じ込められテラスで読書をしながら近くをよく通る女性に憧れていたらその女性から迫られて知らなかった性愛の世界に溺れる少女らの4つの世界が順番に進行しながら、いずれもカフェ・ドミナンに行き着いて事件になる、サスペンス小説。
 4つの話とも、比較的若い世代の女性がストーリーを引っ張るので、青春小説っぽい読み味です。
 ところで、仕事がら、気になったのは、「1年もあれば、最近は裁判の結果も出る」(316ページ)というフレーズ。被告人が控訴もしなかったという争う気もない被告人の刑事事件なんて、大半が1年どころか1月2月で終わってるのが日本の刑事裁判の実情だと思うのですが。長引くのはごく一握りの事件なのに、その報道に引きずられて日本の刑事裁判は長いって思い込んでいる人が多い。警察小説とか犯罪が出てくる小説を多数書いてるんだから、そこ、もう少し調べて欲しいなと思います。

06.あの夏、二人のルカ 誉田哲也 株式会社KADOKAWA
 バンドをクビになってそのバンド連中を見返してやりたくてメンバーを物色していたドラマーの佐藤久美子が、女子高の同級生の蓮見翔子と隣のクラスの谷川実悠を誘い出して父が経営するスタジオでギターとベースの練習をさせていたら、実悠の同級生真嶋瑠香が練習を聴きに来るようになり、さらに瑠香が転校生の森久遙(ヨウ)を誘い込んでガールズバンドRUCASを結成し、遙の歌唱と歌作りが注目されて演奏は熱狂的に支持されたが…という高校時代の話と、14年後のメンバーたちの話を交差させて進める青春小説。
 「武士道ジェネレーション」(2015年7月)では、青春小説までも「自虐史観」批判の材料とした作者のネトウヨ志向は、それが見られなくなった「歌舞伎町ゲノム」(2017年空き~2018年)と並行して書かれたこの作品でも見られず、その次の「ボーダレス」でも見られないので、卒業されたように見えます。長編第5作「硝子の太陽 R-ルージュ」と第6作「ノーマンズランド」をネトウヨ的政治宣伝に捧げてしまった姫川玲子シリーズも次は更生できるといいのですが。

05.リスからアリへの手紙 トーン・テレヘン 河出書房新社
 手紙を宙に放りあげると風が配達してくれる世界で、動物たちが互いに手紙を出し合うという童話。
 登場する多数の動物たちの中で、哲学的な思索にふけり思い悩むリス君、木に登ったりカタツムリの殻の上で踊りたがる身軽な象さん、ケーキ、特に蜂蜜ケーキを食べることしか考えていない熊君が、印象的で微笑ましく思えました。
 1996年の作品で、訳者が2016年に死亡しているのですが、何故今出版されたのでしょう。あとがきその他の説明がまったくないので、そのあたりの経緯がわかりません。童話の世界の不思議さよりも、そちらが不思議に思えてしまいました。

04.紫式部ひとり語り 山本淳子 角川ソフィア文庫
 紫式部の若き日、結婚、夫の死、源氏物語の執筆、中宮彰子の女房としての出仕、宮廷と彰子の実家(藤原道長邸:土御門殿)での日々等を、「紫式部日記」「紫式部集」等の文献を元に、紫式部自身の独白という形式で綴った本。
 紫式部が源氏物語を書きその文才を評価されて中宮彰子の女房に取り立てられて宮仕えを始めたが、周囲に馴染めず、自身も馴染もうとせずに同僚たちが冷たいと敵視して数日のうちに(正月だったこともあり)自宅に戻って数か月にわたって引きこもった(122~126ページ)後、職場復帰に際して惚け知れを演じておっとりしているという評価を得て周囲に馴染んでいく(126~132ページ)様子、初期にはまわりに煽られてかつて弘徽殿の女御の女房だった左京馬の落ちぶれた姿をからかういじめを実行した様子(238~255ページ)が描かれ、その後紫式部が彰子の女房としての自覚を持ち後宮の体面を保つべく心得る姿(成長する紫式部…)、死してなお高いイメージを保つ定子の後宮へのライバル意識とそれに大きく貢献した枕草子と清少納言への思いなどが興味深く読めました。
 紫式部自身のことだけではなく周囲のことや当時の様子も書かれています。疫病の脅威におののく様子、それに伴う人心の乱れなど、たまたまですが今の世相とも重なる思いがします。
 百人一首で「名にしおわば逢坂山のさねかずら人に知られで来るよしもがな」が取られている曾祖父の三条右大臣藤原定方が、「昨日見し花の顔とて今朝見れば寝てこそさらに色まさりけれ」と詠んでいる(32ページ:この人はエッチの歌ばかり詠んでいるのか?)なども味わい深いところです。
 紫式部日記等からの古文の引用がそれなりにあり(当然ですね)、古文ってなまじ日本語なだけに今の言葉との類似を見て意味を推し量ってしまいますが、全然違う意味のことが多く、あぁやっぱり古文は難しいと再認識してしまいました。

03.逆流する津波 河川津波のメカニズム・脅威と防災 今村文彦 成山堂書店
 津波のメカニズムや性質、特に内陸部への遡上の危険性と被害防止のために何をすべきかについて説明し論じた本。
 津波というと、沿岸部での直接的な被害を想定しますが、この本では、特に東日本大震災のときの津波の実例を中心に、津波が河川を逆流して遡上し、河川上は陸上よりも摩擦抵抗が少ないために速い速度でかなり上流まで遡上し(北上川では50km近くまで遡上した例がある)予想外の被害に遭う危険があることを強調しています。沿岸部から陸上を遡上したり、河川上を遡上して堤防を決壊させたり越流して市街地に流れ込んだ津波が建物の隙間に流れが集中したり複数の流れが合流・縮流して速度を上げるという予想外の動きをして(通常は陸上に遡上すると次第に速度は落ちると考える)複雑な流れ、双方向からの流れで避難が困難になる事態も指摘されています(47~51ページ)。さらに、東日本大震災の際には海底のヘドロを削り取り巻き込んだ「黒い津波」が、破壊力が強く(比重が大きいことで津波自体の破壊力が増す)、巻き込まれた人の視界を奪い生還が難しくなる、吸い込んだときに重度の肺炎を引き起こす(津波が収まった後も粉塵となって舞い上がり同様に肺炎を引き起こす)など、被害の拡大につながったことも指摘されています(52~54ページ)。
 津波に襲われたときの生還には、日頃の備え(現実的で有効な避難場所や避難経路の検討等)、臨機応変で柔軟な判断力と行動力が重要になります。言うは…言うだけでも難しそうですが、実例を示して言われると、被災例も多々あり悲しいところですが、考えておかないと、と思いました。

02.僕はロボットごしの君に恋をする 山田悠介 河出文庫
 AIロボット研究所に勤務して人間と見分けが付かない精巧な人型ロボットを遠隔操作してパトロールし警備する業務に就いている大沢健が、研究所のエリート研究員天野陽一郎の妹の咲に恋愛感情を抱き、業務を装って人型ロボットを佐藤と名乗らせて咲に近づき、ロボット越しに会話をして疑似デートを楽しむが、次第に咲がロボットと知らずに「佐藤」に恋心を抱き、大沢は佐藤に嫉妬し始めて悩み…というSF的青春小説。
 前半、容姿にも体力にも恵まれない大沢健が、ルックスも良く作られ怪力で不死身のロボットを操作して、規則に反して様々なことにロボットを使って得意になるようすは、デジャブ感があります。何だろうと考えてみると、ドラえもんにおねだりして魔法のようなおもちゃを出してもらい得意になって振り回すのび太ですね、これ。それが、のび太の場合のような微笑ましさを感じさせないのは、大沢健が28歳の社会人だから。子どもがやるのなら許せるけれども、大人になってこれでは許されないし、見ていてむしろ不愉快に思えます。ロボットや未来の機械でなくても、何らかの権限を手にすると自分勝手に振り回したくなるプチ権力者(もちろん大人)が世の中には少なくありませんが、そういう存在の醜さをも象徴しているのなら、あっぱれと思いますが。
 後半は、ロボットが恋愛感情を抱けるか、ロボットに恋愛感情を抱かせることが、技術的倫理的にできるかというある種哲学的な問題がテーマになります。
 第2章(「プログラム2」)から第6章(「プログラム6」)の冒頭にメインストーリーとは別立てのほのめかし的な短い文章が入っていますが、これは、ない方がいいんじゃないかなぁって思いました。もうひとつひねりを用意しているからそこは見せておいていいという判断なのでしょうけど、それなしで第6章で一気に展開した方がダイナミックだと思います。

01.魔眼の匣の殺人 今村昌弘 東京創元社
 「屍人荘の殺人」の続編で、屍人荘の殺人の3か月後、明智恭介亡き後ミステリ愛好会会長を引き継いだ葉村譲と奇怪な事件を引き寄せる体質を持ち数々の謎の事件を解決してきた剣崎比留子が、娑可安湖畔事件(屍人荘の殺人)の鍵を握る秘密組織「班目機関」を追ううちに班目機関の超能力研究所の存在を知り、山奥の真雁地区にある「魔眼の匣」と呼ばれる建物にたどり着いたが、これまで予言を外したことがないというサキミが「11月最後の2日間に、真雁で男女が2人ずつ、4人死ぬ」と予言していることを知らされ、その後他地域との唯一の通路の橋が燃え落ちて11人の男女が魔眼の匣に取り残され…というミステリー。
 屍人荘の殺人と同様、設定には無理があり、ややわざとらしくクセのある言い回しも気になりますが、それに慣れてしまえば、謎解きの誠実さ丹念さ、最後までひねろうというサービス精神に感心します。
 この作品でも班目機関の現在の活動に関する情報は得られなかったとした上で、最後に数か月後にまた事件が起こることに言及して続編を予告しています。葉村が大学1回生、剣崎が2回生という設定も考えると、数か月おきに事件が起こるなら、剣崎の大学卒業までに10巻くらい行けてしまいますが、作者はそこまで続けるつもりなんでしょうか。

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