庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  私の読書日記  2020年8月

08.交通事故が労災だったときに知っておきたい保険の仕組みと対応 一般社団法人「ともに」 日本法令
 交通事故が労災にもあたるとき(通勤中の交通事故や業務中の交通事故の多くはそうなります)に、自賠責保険・任意保険による賠償だけでなく労災保険にも請求することのメリットを説き、社会保険労務士に相談しようと宣伝する本。
 治療に関しては、長期の治療継続が見込まれる場合に、自賠責保険・任意保険では保険会社側が打ち切りを言ってくるリスクがあるのに対して、労災保険では治療効果で判断される、労災保険は労働者の故意や重大な過失による場合に支給制限があるが過失相殺はない、事故による負傷後に退職しても休業補償は打ち切られないなどの点で労災保険を利用するメリットがあり、被害者側の過失が50%未満で損害額が120万円までの場合(自賠責で満額保障される)や死亡・後遺障害がある事案(労災保険では慰謝料がないため自賠責保険・任意保険の方が支給額が多くなる)では自賠責保険・任意保険請求を先行させ、その後に労災保険で追加の支給を検討するべきことを論じています。
 交通事故被害者の救済のために労災保険も請求しましょうという趣旨の本のはずなのに、後半3分の1を企業の立場からの自動車・自転車利用管理、言い換えれば企業が従業員の自動車・自転車利用で責任を負わされることをできるだけ回避するための規則規定類の整備に充てています。このあたり、社会保険労務士が企業ニーズを掘り起こしてそこから業務につなげたいという意識・姿勢がとてもよく表れています。
 消滅時効について「加害者に損害賠償を請求できる権利は、損害および加害者を知った時から3年間請求しないと、時効によって消滅します(民法第724条)。」と書かれています(66ページ)。今年(2020年)4月1日に施行された民法改正で人の生命または身体を害する不法行為の時効は5年に変更されています。民法改正施行のすぐ後に出版されたこの本でそのことに言及していないのは、専門家が書いた本としては致命的に思えるのですが。

07.土 地球最後のナゾ 藤井一至 光文社新書
 土の研究を続ける著者が、京都の吉田神社の裏山の未熟土を手始めに、世界各地の12種類の土(世界中の土は大きく分類すると12種類しかないんだそうです)を求め掘り出しに旅を続ける過程を紹介しながら、土の成り立ち、性質等を説明する本。
 岩が風化して砂等になるのはわかるんですが、これが保水力、栄養分を持つ「土」になるのには、植物が(微生物により)分解された「腐植」と粘土と水などが必要で、しかも土があれば肥沃(植物が良く育つ)とは限らず、世界中でも肥沃な土地は少ないのだそうです。日本の土は蒸し暑い夏には植物の根も微生物も土中で呼吸するので膨大な二酸化炭素が放出されて酸性度が高く(pH4とか3だって)、それが岩石を溶かして土に変えるのだとか(58~61ページ)。さらに日本では火山灰が多くその中にアロフェンという吸着力の強い粘土があって、これが腐植と結合して腐植の分解を防いで腐植が多く黒い日本特有の土を生み出しているのだそうです(130~135ページ)。
 著者の関心が、土の性質を活かした農業に向けられているので、アロフェンがリン酸を吸着して植物がリンを吸収しにくい日本の土壌で、根から有機酸(シュウ酸)を出してアルミニウムや鉄を溶かしリン酸を吸収できるソバが黒い土(黒ぼく土)地帯の特産物となった(195ページ)とか、オーストラリアの砂漠でスプリンクラー散水して牛を放牧したのが成功したのは牛の柔らかい糞を分解できるフンコロガシをアフリカやヨーロッパから導入したため(160~163ページ)とかの話も多く掲載されていて、むしろそちらが興味深く思えました。

06.青くて痛くて脆い 住野よる 株式会社KADOKAWA
 人に不用意に近づきすぎないこと、反対意見をできるだけ口に出さないことを心がける大学生田端楓が、懐に飛び込んできた理想を語る純真な秋好寿乃に引っ張られて「秘密結社」的なサークル「モアイ」を作るが、モアイが拡大していく過程でモアイが変質した、あのとき笑った秋好はもうこの世にいないと、現在のモアイを否定し、壊して元に戻すんだと主張して画策する青春独りよがり小説。
 自分自身が、思ってもいない言葉を駆使し演技して就活に奔走して内定を得ていながら、就活のためのパーティーや交流会等を開催する「モアイ」が就活サークルになってしまったと、非難する主人公の立ち位置、端的に言って自分にかまってくれていた秋好が遠くに行ってしまったということに拗ねて自分が抜けて行きながら、遠くからモアイを非難し続ける歪んだ執念深さ、人を不快にさせないようにするという最初に語る信条と現実にすることの乖離など、この主人公の言うことなすことにただ気持ち悪さを感じ、読んでいてずっと居心地の悪さを感じました。
 ネットの匿名性の陰に隠れて昏い悪意を持ち続ける人々には、こういう第三者からは独りよがりの歪んだ考えにしか見えないものが、相手が変質した、相手が悪い、自分が正しいんだと見えているのだろうなと、思わせてくれます。そしてラストには、そういう独りよがりのことをしていても悔い改めれば相手は許してくれるという本人のムシのよさと作者の温かさのハーモニーが待ち受けていて、どう受け止めていいのか悩ましい読後感でした。

05.検証 財界 中西経団連は日本型システムを変えられるか 読売新聞経済部 中央公論新社
 経団連や商工会議所等の経済団体、財閥の組織と現状等を紹介する読売新聞の連載(「解剖 財界」2018年10月~2020年1月)を単行本化した本。
 サブタイトルと「改革を加速する中西経団連」と題するプロローグに象徴されるように経団連の現執行部を「改革派」と位置づけて賛美し持ち上げています。その「改革」の中身は何かと言えば、就職活動の指針の廃止と官製春闘の拒否です。前者は採用等の時期の縛りをなくして企業に自由な、好き放題の採用活動をさせようということ、後者は政府からの賃上げ要請を批判し賃上げについても自由にさせろ(実質的には賃上げを抑え込みたい。日本の大企業は業績がよくても賃上げを抑え込み続けて巨額の内部留保を積み上げてきている)ということです。いずれも企業、特に強者である大企業が自分の都合だけを最優先して好きなようにやりたいというむき出しの欲望(わがままと言ってもよい)を示しているもので、労働者に対する保護(のための規制やこれまでの慣行)を撤廃してさらに労働者をいじめろということを意味しているのですが、読売新聞はそういう点には目を向けずに、大企業のやりたい放題を推進することを賛美しています。その方向性が明確な(露骨な)前半に比べて、後半では経済団体の活動が行き詰まってきている現状に特段の解決策も示さず(示せず)に閉塞感を持つ記述が続いていますが。
 大企業や権力者が自己を縛る「規制」をきらい、好き放題にやりたいから規制を緩和しろ(権力者の場合は憲法を改正しろとか)ということはありがちですが、その規制の多くは弱者を保護するため、あるいは社会を守るためでもあるわけです。それを無視して、大企業や権力者の希望(欲望)を無批判に支持し、反対者を批判することは、規制により守られていた弱者を切り捨てていいという判断を意味しています。この本では、大企業と利害が対立する労働者(従業員)や消費者(お客様)側の視点はまったくと言ってよいほど欠落しています。
 そして、取材対象の経済団体、大企業=財界を、批判的な目で検討していない記事を「解剖」(新聞連載時)とか「検証」と題して出版する神経には驚きます。

04.ほんとはかわいくないフィンランド 芹澤桂 幻冬舎文庫
 フィンランド人と結婚してヘルシンキに住む著者が、フィンランドでの食事や生活習慣、出産や子育てなどを綴ったエッセイ集。
 著者がフィンランドで2人の子どもを出産した経験から、出産関係の話が一番多く、日本よりゆったりと構えおおらかな様子が語られています。次いで、生食も含めて魚がうまいぞとかソーセージなどの食生活関係の話、長期のゆったりした休暇と旅行の話、サウナなどの生活習慣の話が続きます。
 タイトルからしてフィンランドに「かわいい」という印象があることが前提なんですが、日本人がフィンランドを「かわいい」と思うふつうに考えれば最大のファクターのムーミンネタが、ずーっと出てこず、おお敢えてこのネタを外すつもりかと思いますが、ラス前になって出てきます(著者は子どもの頃ムーミンが怖かった、特にリトルミィが怖かったと述べています:196~197ページ。そういう事情から触れたくなかったのかも)。
 フィンランドには「オーロラアラート」があってオーロラが見られそうなときに速報が来る、ヘルシンキでも立派なオーロラが見られるとか(168~173ページ)。日本では、「アラート」はろくでもない遭遇したくない災厄についてばかりですが、こういうアラートがあるといいですね。

03.君の××を消してあげるよ 悠木シュン 双葉社
 4年前の事件のトラウマを引きずる中学3年生の小笠原幸が、地元のテレビ局がバトン部に密着取材を申し込んできたのを機にバトン部を辞めると言い出し、そのことと幸と幼なじみの片桐との関係をめぐって、親友のバトン部長水沢志帆との間に微妙にすれ違い・軋轢を生じ、さらに捉えどころのないクラスメイトの海月が絡んで錯綜する青春小説。
 作中で、幸が聞いた日本語と英語が混じった曲で「♪ アイヒアヨーボーイス」のフレーズだけが思い出せる(102ページ)、英語と日本語の混じった歌詞「♪ I hear your voice ~」(186ページ)という紹介があり、これは Pay money To my Pain というロックバンドの Voice という曲なのだそうです(116ページ)。私は、そのバンドも曲も知らず、当然にこれは ZARD の Get U're Dream のことだと思って読んでいました。世代の違いを感じました。

02.恋愛禁止 長江俊和 角川書店
 高校のときのクラス担任教師と同棲しDVを受け逃げてもつきまとわれ脅された木村瑞帆が、夜間駐車場内でその相手を刺し殺してしまったが、なぜか殺人事件が報道されることも警察に呼ばれることもなく2年が経過して結婚し娘が生まれた後に、「全てを知っている」という者から連絡があり…というサスペンス小説。
 複数の教え子に手を出した挙げ句にDV・ストーカー行為を続けるどうしようもない男に追われた女たちの姿に涙し、救われない思いを持ちます。私には、読後感が悪い作品です。
 そういう女性たちの運命の理不尽さや瑞帆の前に立ち現れる人物の思考の異常さと徒労感も含め、アイディア・展開的には、「容疑者Xの献身」(東野圭吾)をイメージしてしまいました。

01.白馬山荘殺人事件 東野圭吾 光文社文庫
 信州の山奥にあるペンション「まざあ・ぐうす」の客室内でトリカブト毒により死亡した兄原公一が自殺として処理されたことに納得できない大学3年生の腹菜穂子が友人の沢村とともにそのペンションを訪れ、兄の死亡の謎に挑むミステリー小説。
 ペンションの各部屋がマザーグース由来の名前を持ち各部屋にマザーグースの歌を記した壁掛けがあり、それをヒントにした暗号解きと、密室ものを組み合わせたミステリーです。ミステリーとしての仕掛けやツボは押さえられていると思います。マザーグースの歌の暗号は、ちょっと読むのがしんどいかなと思いました。
 殺人事件の謎解きよりも、殺人事件以外を含めた過去のできごとをめぐる人間関係の機微や性を読ませる作品かなと思いました。

**_**区切り線**_**

私の読書日記に戻る私の読書日記へ   読書が好き!に戻る読書が好き!へ

トップページに戻るトップページへ  サイトマップサイトマップへ