庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  私の読書日記  2020年9月

08.京アニ事件 津堅信之 平凡社新書
 アニメーション研究家の著者が、京アニ事件からしばらくの自分のマスコミ対応、他の評論家の対応、アニメ界における京都アニメーションの独自性、過去の事件でアニメ(アニメファン:オタク)が受けてきた理不尽な扱いとの比較、被害者実名報道の是非、国内外からの多額の寄付への驚き等について説明し論じた本。
 事件そのものについては、報道を超える情報はありません。タイトルから、事件そのものについて調査して書かれていると期待すると、不満が残ります。事件に対するマスコミ等の対応を論じ、事件を契機としてアニメ界、京都アニメーションの社会における位置づけを語る本として読むべきでしょう。
 京都アニメーションについては、丁寧な仕事と高いクオリティ、従来のアニメファンの好みを外さない可愛らしい造形のヒロインを数多く登場させつつアニメの新しい楽しみ方を提供し人気を拡大してきた、非正規雇用・業務委託(フリーランス)の過酷な労働に依存する業界の中で京都アニメーションは正社員雇用で福利厚生も充実していたなどと持ち上げています。求人情報では期間1年の契約社員雇用で正社員登用ありとされている(122ページ)のが、実際どの程度正社員として登用されるのか、本当にきちんとした労働条件が確保されているのか、それならなぜに事件前から「秘密主義」で社内のことは表に出さない(58ページ、120ページ)のか、疑問に思えますが。

07.続・日本人はこうして歯を失っていく 日本歯周病学会、日本臨床歯周病学会 朝日新聞出版
 歯周病の恐ろしさ、治療と定期的な歯科受診の必要性を語る本。
 歯周病が悪化すると歯を失うだけでなく、動脈硬化や糖尿病、アルツハイマー病など様々な病気を引き起こしたり悪化させるとして恐怖感を煽り、歯周病の治療とプラークの除去等のために定期的に歯科受診することを勧めています。
 歯科受診以外で自分でできることとしては、第6章で歯磨きについて書かれているくらいで、歯周病が悪化するかどうかについては口の中の細菌の攻撃力の他に、患者自身の抵抗力、生活習慣その他が絡みあっている(39ページ)としながら、生活習慣に関してタバコをやめろ(40ページ等)というのと乳酸菌の一種のロイテリ菌が歯周病菌を抑制する効果がある(70ページ)というくらいです。基本的には、歯医者に来てねという本です。
 「日本歯周病学会」の他に「日本臨床歯周病学会」というのもあるというのは初めて知りましたけど、東京に「東京弁護士会」「第一東京弁護士会」「第二東京弁護士会」があるのと似たような事情なんでしょうか。

06.段取り上手のメール さくさく仕事が進む超速文章術 中川路亜紀 文藝春秋
 ビジネスメールを簡潔で要領よくする、相手に不快感・困惑を感じさせないという観点からのアドバイスをする本。
 記載上の無駄を省いて短くするということの他に、お願いで過剰に遠慮することがメールのやりとりを無駄に多くするという指摘があり、なるほどと思いました。私も、相談や打ち合わせの日程調整をするときに、最初から可能な候補日を挙げておけばすぐに決まるのに、来週あたりどうですかなんてところから始めて無駄にメールの回数を増やしていることがありますし。
 こちらのメールを読んだ相手は何をしようとするかを考えて、そのために必要な情報が欠けていないか、相手の対応をサポートする/楽にできる情報を付けておいた方がよくないかを検討するというのもなるほどです。
 あと、相手が間違っているときでも、相手のメンツを潰さないよう、角を立てないようにやんわりとというのも、耳が痛いところです。
 日頃、基本的に書けるときにできるだけすぐに応答するクセが付いている私にとっては、少しゆっくり検討しようねということでもあります。時間的というか、精神的な余裕の関係で限界がありますが、心がけておきたいと思います。

05.燃える波 村山由佳 中央公論新社
 ラジオの深夜番組のパーソナリティも担当している42歳のスタイリストの三崎帆奈美が、大女優水原瑶子の撮影で中学のとき同級生だった「カメラマン」(フリーランスの女性を主人公にした小説で、今どき珍しいお言葉。作者のか、「婦人公論」のメンタリティか…)澤田炯とともに仕事をしたのを機に、水原瑶子に気に入られて澤田とともに様々な仕事にチームとして呼ばれるようになり、夫との諍い、夫の浮気の発覚を経て、言い寄る澤田と関係を持ちという不倫・離婚・再出発小説。
 主人公の不倫を正当化するのに、仕事に理解のない夫の傲慢な言い草、夫を甘やかす義母との確執、夫に対して自分が譲ることへの不満の鬱積、夫の浮気の発覚、男からの強引な誘いと積み重ね、自分勝手な夫と思いやりがあり自分に理解を示す男との対比をして見せるというのが、読者への配慮というか、読者のニーズなのでしょう。同性のというか、私の目には、夫から愛人との間に子どもができたというメールが来て動揺している帆奈美を、それも高熱を出していることを知り心配してホテルの部屋に訪ねて来たところを、強引に押し倒す澤田は、ずいぶんと小ずるい卑怯な男に見えますし、その澤田が思いを遂げた後の別の機会に拒否されてその日は諦めるという際に「俺が、大人でよかったね」なんていう(289ページ)のは笑えますし、この人物の独りよがり(勘違い)ぶりを示唆していて、いやこの先に暗雲が垂れ込めているようにさえ見えるのですが、そっちはこの際目をつぶるというかまぁいいやってことなんでしょうかね。

04.俺の残機を投下します 山田悠介 河出書房新社
 かつて世界大会でベスト8に入ったことがある自己中でプライドばかり高いプロゲーマーの上山一輝が、盛りを過ぎ好成績を出せず所属事務所でも冷遇されていらだっていたところへ、自分と同じ容姿の3人組と出会い、自分たちは一輝の残機(ゲーム上のライフのようなもので一輝が致命傷を負うと身代わりに消滅する者)だと言われるが信用せずに、容姿が同じことを利用して身代わりにバイトや別れた妻の元にいる息子の世話をさせるなどしていたが、一輝が事故に遭ってその1人が実際に消滅したり、身代わりとしてバイトや子どもの世話をする者が自分より遙かに適切に対応する様子を見るうちに、自己中で破綻した自分の生活を見直していくという人間ドラマ小説。
 一輝のあまりの自己中で独りよがりの思い上がった言動には、読んでいてあきれ果て、途中からようやく思い直していく様には、確かに共感してしまいます。しかし、他方において常人ならぬ突出した能力を持つ者は常識的な思考方法や行動様式に囚われないからこそその能力を獲得するということもままあるわけで、時代の要請とは言え、一律に丸くすることを良しとするというか異端の尖った存在を許さない世の中の傾向/方向性にも大きな不安を感じてしまいます。

03.ホワイトラビット 伊坂幸太郎 新潮社
 誘拐をして人質と交換に何かをさせるなどで利益を得ている組織に所属し誘拐を実行している兎田孝則、その組織の経理を言いくるめて大金を引き出して逃げているコンサルタントのオリオオリオこと折尾豊、経験豊かな泥棒の黒澤と黒澤に依頼した空き巣家業の中村と抜けた弟子の今村、暴君の父親の支配下で悩む高校生の勇介とその母親が、仙台市内の一軒家で出会い行き違い事件が進展するというミステリー小説。
 作者が「あなたの知人で小説版を全巻通じて精読したという方は、無情にも限りなく少ない」と表紙カバー見返しで言及している「レ・ミゼラブル」を読んだことが執筆の動機になっているのか、そこかしこで「レ・ミゼラブル」が引用され、その世界観が語られます。それを心地よく感じるか、うっとうしく思うかが作品に対する評価に影響しそうです。
 兎田の新妻綿子に対する誘拐組織幹部の暴力が、作者自身が言い訳しているように、描写の必要性に疑問を感じ、不愉快ですが、ミステリーとしては、うまく予想をずらす展開が図られ、飽きずに読め感心させてくれます。

02.海の極小!いきもの図鑑 星野修 築地書館
 伊豆大島でネイチャーガイドをする著者が、大島の海で撮影した写真で、海中の岩や砂地で生息する小さな生物たちを紹介した本。
 クラゲやウミウシレベルではなく、もっと小さな、単体では肉眼で探すことが難しいレベルの生物、他の生物に寄生する生物たちを重点的に紹介しています。
 水中写真で、これほどの小さな生物を美しく、明るくカラフルに、ピントを合わせて撮影できることに、技術の進歩と撮影者の技量と苦労を感じます。名前やその生態の解説からはおどろおどろしく思えたり、関心を持ちにくい生物が、写真の美しさで愛らしく思えたり関心を惹きます。
 研究者として給料をもらっているのではなくネイチャーガイドとして生計を立てている著者が、毎日海の小さな生き物を観察し続け水中で写真を撮り続けていることに感心しました。

01.サラリーマン、刑務所に行く! 影野臣直 サンエイ新書
 刑務所での処遇、日常生活、食事、懲罰、仮釈放等の実情について解説した本。
 公式の説明ではわからない受刑者の刑務所内での創意工夫(刑務所側から見れば明らかな違反行為)、隠れて作り食べる「創作料理」や火をおこす方法とか刑務所内でのおしゃれとかが大変興味深く読めました。
 居酒屋でけんかをして傷害罪で有罪となり服役した坂本くんの刑務所暮らしをレポートするというフィクションの形をとっていて、具体的な情報源の記載がなく、他方で著者の経歴で1999年から2002年まで服役したことが書かれているため、著者自身の実体験に基づいて書いているのか、その人脈で最近出所した受刑者を取材して書いているのかがはっきりせず、その結果書かれていることがいつの話なのか、どの程度の信憑性があるのか、今でもそうなのかの判断がしにくいのが難点です。
 13ページに「起訴状」の写真が掲載されているのですが、起訴状の宛先(裁判所名)や、公訴事実の記載から明らかな罪名及び罰条など、隠す必要がまったくないところが墨塗されている一方で、被告人の氏名と生年月日が墨塗されていないというのはいったいどうしてなのでしょう(大丈夫なのか?)。

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