庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  私の読書日記  2021年10月

22.この気持ちもいつか忘れる 住野よる 新潮社
 人生はつまらないし、自分も含めて周囲は全員つまらないヤツだが、自分以外の人間は自分が特別であるかのように勘違いして生きていて、自分だけは人生がつまらないことを意識し、特別なできごと、人生を変えてくれるようなできごとを求めて生きていると自己認識して、周囲とのコミュニケーションを拒絶している田舎町の高校生16歳の鈴木香弥が、廃止されたバス停の待合室で異世界に生きている光る目と爪の先しか見えない18歳女性と交信することになりそれが自分を自分の人生を変えてくれるんじゃないかと期待してのめり込んでいくというファンタジー色を持つ青春小説。
 自分は自分がつまらないヤツだと認識していると思いながらそれ故に他人を見下し自分が特別だと思っているねじくれた傲慢さを持つ主人公の身勝手さと苛立ちに、読んでいて不快感と、読んでいる自分がまたこの人物を見下すという罠にはまっているのかという苦笑感というのかシラケた感じを持たされます。
 主人公の周辺には特に影響はないが日本で最近戦争が始まったという設定が用いられています。その戦争がどうなっているのかへの言及はなく、15年後を描く後半ではその戦争にはまったく言及されないので、何のための設定だったのかよくわかりません。近年の日本の政治と社会への危機感だったのか、主人公の閉塞感と苛立ちを印象づける道具だったのか、週刊誌への長期連載なので後半ではそれを忘れてしまったのか…

21.中小企業のための予防法務ハンドブック 一般社団法人予防法務研究会編 中央経済社
 中小企業の設立、運営、契約(取引)、労務、知的財産の取扱、海外進出、事業承継の場面で法的なトラブル、リスクを冒さないように注意すべき点について説明し、弁護士等の専門家を利用するように勧める本。
 会社の運営に当たってどんな問題がありうるかをざっと眺めるのにはよさそうです。私は会社側の業務(企業法務)はやらないので、ふだんあまり考えないこと(企業側の視点で考えてないので)に関心を持てました。自分が知らない領域ほどそういうふうに思えるので、現実に中小企業にとってどれだけ意味があるのかはわかりませんが、海外進出関係が一番興味深く読めました。基本的には、問題があることまでで、ではどうすればいいかはもっと専門のものを読む必要があるのでしょうし、この本ではそれは弁護士等の専門家に聞いてねと営業を図っているのですが。
 ただ専門家の目で見ると、私の専門分野の労働法でいうと、福原学園事件の最高裁判決を「期間満了時に雇止めをしても、試用期間中の解雇のような厳しい判断はせず、雇止めは有効であるとした事例」と読む(151ページ)ことには疑問を持ちます(この事件では期間1年の雇用契約の最初の満了時に雇止めしたのですがその雇止めは無効とされ、就業規則上の更新限度の3年経過までは労働者の地位があったとされています。最高裁は、3年経過したところで無期契約になったという福岡高裁の大胆な理論を、それは無理といっただけです)し、就業規則の変更による労働条件の変更を労働契約法第10条の条文を紹介するだけでなんだか簡単に認められるかのように書いていたり(164ページ。この問題には長期にわたる多数の判例の集成があり、労働事件を取り扱う弁護士の間では容易ではないという認識があるのがふつうだと思うのですが)、就業規則と異なる労働条件の労働契約について無条件に「労働者の労働条件となる」と書かれている(165ページ。就業規則には最低基準効があって、個別の労働契約で就業規則よりも労働者に不利な労働条件を定めても無効なんですが、それに触れてないって…)とか、大丈夫か?と思ってしまうところがあります。

20.セックス依存症 斉藤章佳 幻冬舎新書
 さまざまな損失があっても性的逸脱行動を繰り返す性依存症について説明した本。
 性依存症の治療を続けてきた著者は、性欲が強くそれが抑えきれなくて性犯罪に走ったという人はごくわずかだと述べています(30ページ)。依存症は、それにより快楽を得られる(正の強化)というよりも、それによって心理的な苦痛や不安を一時的に緩和できる(負の強化)ために生じると、近年では考えられています(38~40ページ)。
 「往々にして依存症者は、根っこでは自分に自信がなく、自己肯定感が低いため、周りの人から嫌われることを極度に恐れています。『助けてと言ったら嫌われるかな』『お前なんかダメなヤツだと否定されるんじゃないか』など不安感を常に抱えています。『助けて欲しい』というメッセージを発信できない。」「さらに『自分から関係を切ってしまう』こともよくあります。」「相手に先制攻撃をすることで、自分の自尊心は傷つかないで済むように思えるからです。」「これは非常にいびつで複雑なメッセージです。いざ巻き込まれた周囲の人にとっては、振り回されるし、しょっちゅう裏切られるし、嘘も多いし、対応が難しいものです。正直、関わりたくないと思ってしまうのもしかたがないことだと思います。」「しかし長年の臨床経験から私がいえるのは、『困った人』というのは『困っている人』という面を必ず持ち合わせています。周囲から『この人と関わりたくないな』と煙たがられている人や『処遇困難例』といわれている人は、口で『助けて』と言えない代わりに、問題行動(症状)をエスカレートさせることで、周りにSOSを出しているのです。」(66~67ページ)。長々と引用してしまいましたが、セックス依存症、さらには依存症の人に限らず、こういう人はいるような、そしてそうは言ってもやっぱりこういう人と関わるのは面倒で嫌だよねと思うことはままあって、自戒というか、自分に言い聞かせるように…

19.百合中毒 井上荒野 集英社
 八ヶ岳の麓で園芸店を営む七竈歌子と長女真希、娘婿の祐一の下に、25年前に蓼科高原のイタリアンレストランのシェフプリシラに迫られてのぼせ上がり出奔した夫泰史が、プリシラがイタリアに帰ってしまったと言って戻ってきて、今さらなんだと激怒する自らは職場の経営者と不倫中の次女遙、歌子と恋仲になり結婚するつもりだったのが目算が狂い動揺する使用人の蓬田厚志、妻に癌の疑いが出て不倫を止めようとする遙の不倫相手池内典明らに与えた波紋や思惑を描いた小説。
 遙、真希、蓬田、池内、祐一、池内、真希、歌子の順にその視点での話が進みます。最初が遙で、自分が不倫中で男が自分を一番に扱っていないこと、妻との関係が悪くないことに不満を持ちながら、妻を捨てた父を許せないと非難し、あまり強く詰らない周囲の母(歌子)や姉(真希)がおかしいと言い立てる様子に、よくもまあ自分のことは棚に上げてと感じさせる展開が、一筋縄ではありません。内心を見せるにつけ、蓬田や池内の小狡さ、厚かましさが垣間見え、結局は、語り手にならず内心が見えない泰史がむしろ善人というかかわいげがあるように見えてきます。
 パートナーの不倫への対応、諦めなのか寛容なのかそこは重要じゃないのか、をめぐる人間関係の綾を考えさせられます。

18.自律神経の名医が教えるココロとカラダの疲れとり大全 小林弘幸 SBクリエイティブ
 自律神経のバランスを維持して健康に過ごすための生活習慣を説明し提案する本。
 緊張したときは「肩の力を抜け」ではなく「手を開け」(90~91ページ)だそうです。「じっと手を見る」がリラックスの方法だったとは…
 朝は自分に合うヨーグルトを見つけて毎日200g食べる(42~43ページ)。以前、明治ブルガリアヨーグルトを毎朝半分食べていたのですが、定期的に行われるディズニーリゾートの懸賞(1デイパスとかぬいぐるみとか)に大量に応募(なんせ毎月15枚くらい応募用マークがたまるので)してもまったく当たらないのに嫌気がさして止めてしまいました。今は、朝はキウイ(ゼスプリの懸賞も当たらないですが)とクリームチーズがマイブームです…
 「怒ることは自律神経に悪い」と心得る(108~109ページ)、ネガティブな感情を引きずらない(194~195ページ)、先の心配をせずに今のことに集中し楽しむ「心配することで何か問題が解決するなら、いくらでも心配したらいいと思います。でも、実際は心配しても用意されている結果は変わりません」(190~191ページ)、「なんとかなるさ」を口ぐせにする(98~99ページ)、空を見上げ、「ま、いいか」と一息つく(70~71ページ)。至言です。闘うことを生業とし、なんとか「する」のが仕事の身には、そうも言ってられないのですけれども。
 ゆっくり話せば自律神経は安定する「大企業のトップや名医といわれる人に早口な人はほとんどいません」(96~97ページ)…気をつけたいとは思いますが…長年の習い性なんで。

17.どんとこい労働基準監督署Part2 知って得する憲法と行政法 河野順一 日本橋中央労務管理事務所出版部
 使用者側のコンサルタントにして社会保険労務士・行政書士の著者が、労働基準監督署から未払い残業代を2年分遡って支払うよう是正勧告を受けても従う義務はない、労働基準監督官の臨検も突然やってきて使用者の許可もなく入り込んだら拒否して追い返してよいなどと使用者を煽る本。
 表紙に「労働基準監督署の権限と是正勧告、そして臨検調査について、この1冊で面白いほどわかる」と書かれていて、労基署の臨検・調査・是正勧告の実務、実情が解説されているのかと思って読みましたが、まったく期待はずれでした。
 書かれているのは、憲法や行政法の一般的な解釈・講釈で、大部分は何のために書かれているのかよくわかりません。行政法の解説部分が多いのですが、こう言っては悪いかも知れませんが、どこかの教科書を十分に理解しないまま引き写している感じです。「たとえば『100万円支払え』としか訴えないのに税務署長が間違って『110万円支払え』と言ってきたような場合、これは違法な行為であるが、この行政行為に公定力が働くため、原則として違法であっても一応有効となる」(95~96ページ)と書かれているのですが、税務署長が誰から「訴えられて」課税処分をするんでしょう。「審査請求に対する応答は『採決』と呼ばれる」(99ページ)、「取消訴訟は、裁判所に違法な行政処分の取消を求める手続きで、処分を知った日から60日以内に提起すべきものとされている(行政事件訴訟法第14条)」(104ページ)とか、読んでいて頭がクラクラします(いうまでもなく、前者は「裁決」、取消訴訟の出訴期間は6か月)。ちなみに行政不服審査の不服申立期間についても「原則として処分を知った日の翌日から60日以内に申し立てなければならない(行政不服審査法第14条)」(104ページ)と書かれていますが、2014年の改正で3か月以内に延長され、条文も行政不服審査法第18条になっています。この本の「法令は2021年4月1日現在による」とされています(7ページ)が…
 著者の目からは労働者に支払う必要がない残業代を労働基準監督署が支払えと言うことは企業の財産権に対する侵害だとか営業の自由の侵害だとか、そういう労働基準監督官は労働者の奉仕者だから全体の奉仕者であることを求める憲法第15条第2項違反だ(46~47ページ)というような、粗雑な論理で労働基準監督署と戦えるんでしょうか。現場での交渉は勢いや迫力も大きな要素になるので、人によってはこういう調子で追い返せることがあるのかも知れませんが、ふつうの人がこんなこと言ったら相手にされずにやけどするでしょうね。
 著者は、臨検に来た労働基準監督官に事業主が帰ってくれと言っても居座る場合は、「事業主が監督官を実力行使で退去させたとしも、それは正当防衛になり、公務執行妨害罪にはあたらない」としています(181ページ)。暴行または脅迫を加えないとそもそも公務執行妨害罪に当たりませんから暴行・脅迫によらずに平和的に帰ってもらうのなら問題ないですが、臨検に来た労働基準監督官に暴行・脅迫を加えても「正当防衛」だというのでしょうか。著者は犯罪捜査のためではなく行政監督上の立ち入りの場合は妨害しても公務執行妨害罪にならない(193ページ)などとも言っていますから、公務執行妨害罪について根本的な勘違いをしているのかも知れません。いずれにしてもこれを読んで、臨検に来た労働基準監督官を、自分の目には必要性のない臨検だと思うからといって帰れと言いそれで帰らなければ実力行使で引きずり出しても罪に問われないと思い込んで実行する事業主がいたら不幸なことです。

16.ネルソン・マンデラ 分断を超える現実主義者 堀内隆行 岩波新書
 ネルソン・マンデラの「ハンディな評伝」を目指すとして、政治家としてのマンデラが一貫した思想を説き続けたわけではなく、現実主義者でありプラグマティストであったことを強調する本。
 ネルソン・マンデラが現実主義者でありプラグマティストであることはある意味で当然のことだと思います。ガンジーであれ、キング牧師であれ、大きな成果を上げた政治家・運動家はみな現実主義者でありプラグマティストでした(思想的な一貫性を重視する者、原理主義者が広汎な民衆の支持を集めたり、権力者たちとの強い交渉力を持ちうるほど、政治や現実の闘いの場は甘くありません。なお、ガンジーとキング牧師への私の思いは、私のサイトの小説「その解雇、無効です!ラノベでわかる解雇事件」第11章の3で触れています)。そのことをテーマにあげて書くのであれば、単にマンデラの発言や態度・政治姿勢が過去と矛盾していたり変転したことを指摘し、それが誰に向けたものかなどを推測するだけではなく、マンデラ自身がどのように考えてその発言をしたのか、態度を変えたのか、それをめぐる周囲の力学等をマンデラ自身や側近・知人の証言等もっと踏み込んだ取材・材料で検証・分析して書き込んで欲しいなと思います。新書では望むべきではないことかも知れませんが。
 著者はあとがきで「本書には、マンデラへの愛が足りず、それもあってマンデラの『偉大さ』が強調されない難もあるだろう」と書いています。マンデラの現実主義者・プラグマティストとしての面を強調しその思想・姿勢の一貫性のなさを描くことは、マンデラへの愛を欠くことでも偉大さを損なうことでもないと思います。その一貫性を捨てても実現しようとしたその目標を評価し、その判断の事情と背景と苦悩を理解し共感するためには、もっと事実を掘り下げる必要があり、踏み込む必要があったのではないか、マンデラへの愛が足りないかどうかはそこにどれだけの努力が注がれたかで判断されるのではないでしょうか。

15.現代色彩論講義 本当の色を求めて 港千尋 MEI(インスクリプト)
 写真家で、多摩美術大学情報デザイン科教授の著者が、2020年に多摩美大で行った講義を元に作成された本。
 体系的に色彩論を学ぶということではなくて、さまざまなことがら・エピソードを題材にして、色彩について多方面から考えてみるという趣の本です。あまり知らないことがらで、たぶん高度な話が展開されているのだと思うのですが、あまりテクニカルな感じではなくて、いかにも難しいという雰囲気でもなく(といってわかりやすいわけでもないんですが)、読んでいて、あ、私「カルチャー」してるって思えるしゃれたセンスの本だと思います。判型も装丁も外で持ち歩いて読むのに適していますし。
 特定の「場所」から始まる話と、特定の歴史的事実や研究、アーティストから始まる話があって、後者の方が多いのですが、私には場所からの話が入りやすく思えました。レインボー・ビーチ(オーストラリア東海岸)の崖に露出するオーカー(赤土)に朝日・夕日が当たる輝き(38~39ページ)とか、タンジェ(ジブラルタル海峡に面した古都)の旧市街の水色の壁(64~65ページ)とか、見たことがなくてもなんだかうっとりしてしまいます。

14.原子力村中枢部での体験から10年の葛藤で掴んだ事故原因 北村俊郎 かもがわ出版
 日本原電に38年勤務し退職後はその頃に「完全な業界団体になり電力会社の代弁者となった」(68ページ)日本原子力産業協会(元日本原子力産業会議)の参事を務めていた著者が、福島事故で自らが避難者となり、その立場から福島事故とその後の原子力とエネルギー政策等を論じた本。
 第1章と第2章は電力会社とその中での原子力部門の位置づけ、体質などを指摘して、福島事故に至る安全対策の先送りについて語っています。その中で、日本原電はとりあえずできる津波対策をして東海第二原発では津波に対応できたとちゃっかりアピールしていますが。これらの話は、電力会社に在職していた著者ならではの視点があるのでしょうけれども、具体的な事実・エピソードの紹介はなく一般論なので、「原子力村中枢部での体験から掴んだ事故原因」などと大仰に言うほどのことかは疑問です。
 タイトルに沿った話はこのあたりまでで、後はむしろ避難者の立場から国の復興政策の場当たり性や不均衡・不公平を批判しています。自分たちに利益にならない復興施策について税金や電気料金を原資に無駄遣いするなと非難しているところは、正しい指摘で傾聴に値するのかも知れませんが、それ以前は原子力と電力会社が税金と電気料金を原資に思い切り優遇されていたことにほおかむりしてそう言われてもね、と思ってしまいます。

13.米兵はなぜ裁かれないのか 信夫隆司 みすず書房
 アメリカ駐留軍の軍人と軍属(米軍が雇用する米国籍の民間人)が日本国内で犯罪を犯したときの日米地位協定の規定と運用について、NATO、ドイツ、アイスランド、フィリピン、韓国等の場合と比較しつつ説明し、著者としての改正・改善案を提案する本。
 著者の説明によれば、日米地位協定上、アメリカが第1次裁判権(優先的裁判権)を有するのは①米軍要員間の犯罪、アメリカの財産・安全に対する犯罪、②公務の執行から生じる犯罪に限られるが、公務の認定はアメリカが行うので通勤時の交通事故も全て公務犯罪とされアメリカ側が処遇している、その他の犯罪は日本が第1次裁判権を有するが日本政府は「実質的に重要な事件」以外では裁判権を放棄するという密約(形式は日米合同委員会裁判権小委員会刑事部会代表である法務省刑事局総務部長の「一方的陳述」として議事録に記載されたもの)により日本側はほとんどの場合起訴せずに来た、被疑者の身柄拘束は、日本に第1次裁判権がある事件でアメリカが身柄を確保している場合は起訴まではアメリカが身柄拘束を続け、起訴後日本に身柄を引き渡す、日本が身柄を確保した場合は、「正当な理由と必要性」があれば日本が身柄拘束を続け、それ以外のときはアメリカに身柄を引き渡すこととなっているが、これについても日本の当局が犯人の身柄を拘束する場合は多くないであろうという「一方的陳述」による密約のため結局日本が米兵の身柄を拘束することは事実上ないとのことです。
 著者の説明によれば、アメリカは、NATO諸国など他国に対しても、地位協定上は受け入れ国が一定の場合米兵に対する刑事裁判権を行使できることになっていても、公務犯罪の認定権は手放さず、また各国と裁判権放棄の密約を交わして事実上米兵を刑事訴追させない政策をとり、身柄拘束に関してはむしろ起訴後もアメリカが拘束する例が多いとのことです。そうすると、米兵の犯罪を裁けないことは、日本政府の弱腰という側面も多々あるとは思いますが、アメリカ側の狡猾さ・横暴さと交渉勝ちの結果ということになります。
 表向きの法令(協定)の規定と密約によるそれとはまったく異なる運用(実体)の落差は、手続の適正を強調するアメリカの価値観とは相容れないはずですが、政治は理念じゃないってことですかね。

12.楽園のアダム 周木律 講談社
 600年前に「大災厄」と呼ばれる疫病と混乱により絶滅の危機に瀕した人類が、島嶼部に住み島ごとに分業しつつ「カーネ」と呼ばれる人工知能の決定と指示に従い安定した暮らしを享受しているという遠未来において、知の探求を生業とする「珊瑚の島」に生まれたアスムと思い人である幼なじみのセーファが、大学内で連続して発見された惨殺死体とその対応をめぐる学長らの不審な様子に翻弄されていくという展開の小説。
 男と女、雄と雌の関係性、あり方、性と生殖についての問いかけ、投げかけをする作品だと思うのですが、平等を言いつつステレオタイプに思える男女・男女関係の描写、暴力を嫌悪しつつ暴力への寛容と憧憬を感じさせるところがあるのは、あえて問題提起をしているのか、抜きがたい性差意識の所産なのか、読んでいて、戸惑いとスッキリしない感を残しました。

11.計算力 鍵本聡 PHP文庫
 日常生活で時々出てきそうな計算を暗算で速く行うための方法論を解説した本。
 加減乗除(足し算、引き算、かけ算、割り算)の他に、確率とか概算も入っているのが、使えるかもって、思わせます。
 いろいろ書かれているのですが、十和一等(10の位の和が10で1の位が同じという2つの数のかけ算:a+b=10のときの(10a+c)×(10b+c))、十等一和(10の位が同じで1の位の和が10の2つの数のかけ算:a+b=10のときの(10c+a)×(10c+b))が、言われてみれば、その条件なら必ず下2桁は1の位のかけ算になって、上側の桁は前者がab+c、後者がc(c+1)になって、暗算が簡単(こういうふうに記号で書くと直感的には簡単に見えないですが、数字であてはめると楽勝)ですが、なかなか気がつかないし、いつまで覚えていられるか…後者の応用で1の位が5の数の2乗は100の位以上が10の位(以上)の数とその次の数(つまり+1)のかけ算で下2桁は25になる(45の2乗は2025、55の2乗は3025、65の2乗は4225、75の2乗は5625、85の2乗は7225とか)というのはたぶん、頭に収まりましたが。
 円周率の概算に22/7を使えというのも概算で速く出すには実用的です。3.1415を掛けた結果を答えろと言われたときには使えませんけど。
 公約数を求めるときには2数の差の約数を考えろというのも、言われてみればそのとおりです。日常生活で公約数を求める必要に迫られる場面はあまりなさそうですが。

10.ドローン飛行許可の取得・維持管理の基礎がよくわかる本 佐々木慎太郎 セルバ出版
 ドローン(重さ200g以上の無人飛行機)の飛行許可申請について説明した本。
 国土交通省のホームページに掲載されている機種(著者は世界シェアナンバー1のドローンメーカーDJIのドローンを勧めています)で、国土交通省のホームページに掲載されているドローンスクールが行う国土交通省の確認を受けた技能試験に合格した者が操縦者となって、国土交通省航空局作成の標準マニュアルに基づいて操縦するという申請で、業務目的で1年間日本全国の包括許可を得るというパターンが比較的容易に許可を得られるけれども、それを外すと面倒になるということのようです。84ページからの実際の申請書の説明、書き方を読んでいると、それでもずいぶんとあれこれうるさく面倒に思えますが。まぁ、お役所に出す文書がそういうものだからこそ、著者の仕事である行政書士がやっていけるわけですけど。
 風速毎秒5m以上になると標準マニュアルでは飛ばせない、人口集中地区内での目視外飛行(双眼鏡での監視やドローンのモニターでの監視制御は目視ではないとされます)も標準マニュアルでは飛ばせないと、実際には業務として(空撮業者として)飛ばそうとしたら許可がさらに厳しく面倒になるようで、やっぱりプロの行政書士に任せてくださいってことになるんでしょうね。

09.家族と刑法 家庭は犯罪の温床か? 深町晋也 有斐閣
 DV被害者の反撃による加害者の殺傷、児童の性的虐待の処罰、親による児童ポルノ製造・公表、児童の受動喫煙、家族間の財産犯と刑の免除(親族相盗例)の当否、子どもの奪い合いと誘拐・監禁罪、死体の放置と家族の葬送義務、「赤ちゃんポスト」と遺棄罪、体罰の暴行罪処罰、妊娠中絶の広告の処罰(ドイツ語圏)、予防接種の義務化と違反者の処罰を採り上げて、家庭内の行為・家族間の行為について国が介入し処罰することの是非等を論じ、併せて民事法上の問題等を説明する本。
 刑罰、刑法について論じる際には、被害者側の視点から加害者の処罰を求める方向と行動の自由の観点から刑罰の適用を限定・抑制する方向のバランスが求められ、私のような古い世代では、国家権力への警戒感が強く、市民の行動の自由を確保するためにも、刑事罰は最終手段であり限定すべきというのが学生時代の感覚では主流であり優勢でした。今自分が弁護士だから、その観点が強く残っているということはあるかも知れませんが。しかし、近年は、国家権力はお友達と考えているのか、国によって守られているという感覚を持ち、被害者保護を主張して犯罪者の処罰・重罰を求める声が優勢です。そういう声は被害者保護をいうのですが、被害者は加害者を処罰して欲しいという感情は持つでしょうけれども、すでに被害を受けており加害者を重く処罰してもそれで被害がなくなったり回復するわけではありません。実際には、(自分は加害者に/あるいは被告人に、なり得ることは想定せず)自分が同じような被害を受けることは避けたいという感情を被害者にこと寄せして声高に叫ぶ人が多いということだと思います。そういうお上に守ってもらいたい/権力は自分の味方だと思っている人たちの重罰化を求める声に押されて重罰化が進んだ結果困ったのが、最初のテーマのDV被害者の反撃問題(明らかに同情すべき反撃が、法定刑が重くて執行猶予にできない)です。これを最初に採り上げた著者の姿勢は、重罰化への反省というか、重罰化・処罰一辺倒ではうまくないという方向かと思ったのですが、著者は、すでに導入された刑事罰化・犯罪化はほぼ全面的に肯定・推進し、未導入のさらなる犯罪化は一部は不要だとも言っていますが、やはり多くの場面で推進方向の意見を述べて行きます(処罰するのは行き過ぎだと言う場面は少なく、処罰できないのはけしからんと言う場面が多く感じられます)。刑法学者も、国の政策、重罰化に流れる世論に棹さそうなどと思う時代ではないということでしょうか。4歳の子どもが飲食店内でいたずらなどをしたため店を出た後自動車内で注意するために父親が自分の方に顔を向けるように言ったが言うことを聞かないので左頬を引っ張るために1回つまんだ(つねったということでしょうね)のを有罪(罰金5万円)とした判決が紹介されています(203ページ)。私の感覚では、これを起訴する検察官も有罪判決を言い渡した裁判官も異常でやり過ぎとしか思えません。著者は、この判決を紹介しつつ、裁判所はこのように評価したものと解されるという検討はしていますが、明確な批判は避けています(とっても慎重な及び腰な回りくどい言い方で批判的な姿勢を示しているつもりなのかも知れませんが)。刑法学者が、権力や裁判所に忖度して法律や裁判を批判しないというのなら、世も末だと思います。

08.宇宙を解く唯一の科学 熱力学 ポール・セン 河出書房新社
 熱力学の科学史。
 蒸気機関の改良に始まり、ホーキングの宇宙論に至るまで、実用的な技術・機械の考案や純粋の思考実験・理論物理的な手法などさまざまな形で熱力学の発展に貢献した科学者たちの研究と人生を紹介しています。熱力学自体の体系的な解説ではなく、それぞれの科学者による学問的な成果の説明よりもそれを生み出した科学者の発見・検討の経緯の方に重点を置いていて、著者も科学者ではなくてドキュメンタリー作家であるため、専門書的な難しさはそれほどは感じず、読みやすい本です。前半は。終わりの方になるにつれて、理論的に複雑になり、1章のページ数も増え、難しくなり、読むのがしんどくなっていきますが。
 電磁気学分野で有名なマクスウェル、6歳年上の嫉妬深い妻と生涯仲睦まじく暮らしたようですね。映画俳優を話題にすると、その人は不倫したの離婚したのどういう相手とどうなったのと、私の知らない私生活上の情報を披露してその側面からの評価を聞かせてくれるカミさんと話しているような新発見をさせてくれる本でした。

07.緊張を味方につける脳科学 茂木健一郎 河出新書
 ここ一番というときに、あるいはそうでもない日々の場面であれ、パフォーマンスを上げるための心がけなどについて、さまざまな側面・観点から語るエッセイ。
 各章ごとにタイトルが定められ、それだけではなく章末にはその章の「キーポイント」がまとめられており、内容としては著者の専門領域の脳科学の話・説明、達人、特にスポーツ分野の成功者の話などがちりばめられているのですが、今ひとつテーマに向けて順を追って論じていき論証していくという感じよりも、関連することを思いつくままに並べているエッセイ(集)という読後感を持ちます。著者自身が、「私は無理をせず、自然体で、練習即本番という生き方を続けていくことに決めました。」(96ページ)、「これまでは、練習と本番は別物だと考えられてきました。準備期間があって、その準備期間は人に見せるものではなく、本番を迎えたときに、本番でのパフォーマンスだけを見せるのがよいとされたきた。しかしもう、そんな悠長なことをやっていられる時代ではないのかも知れません。」(96ページ)、「私は、自分の書くテキストは、個人的なメールを除いて全て公開されるものだという意識を持っています。練習のために書くものはないし、密かに練習しているという状態がないのです。」(102ページ)、「書き下ろしている本の原稿は、ツィッターに比べて、完成させるまでに多くの時間がかかるけれども、やはり公開することを前提で書いています。文章の長さや深さは違えど、本番であることについては、本とツィッターで差がないのです。」(102ページ)と述べているように、ツィッターよりも多くの時間をかけ深さは違えど、そう詰めて書いたものではないと見るべきでしょうか。
 無理をせずに自然体でといってみたり、綿密・周到極まる準備を勧めたり、無意識の境地を誉め讃えたかと思うと必死さや合理性を超えた精神論・根性論を持ち上げるといった具合で、1つの方法論ではなく、たくさんのポケットを持つことが大事だという観点でのチップス集だと読み取るべきなのでしょう。

06.患者のための最新医学 パニック障害 正しい知識とケア 改訂版 坪井康次監修 高橋書店
 パニック障害の症状と診断・治療法、日常生活上の注意と家族の接し方などを説明した本。
 パニック障害は、「何の理由もないのに」不意に強烈な恐怖や不安におそわれ、激しいパニック発作が起こる、パニック発作には、息がつまる、心臓が破裂しそうになるといった身体症状(自律神経症状)が伴う(15ページ)ということですので、ピンチや危険にさらされてパニックになるのとは違い、また「気のせい」ではないのですね。と言ってもパニック発作の判定基準は、動悸・心悸亢進または心拍数の増加、発汗、身震いまたは震え、息切れ感または息苦しさ、窒息感、胸痛または胸部の不快感、吐き気または腹部の不快感、めまい感・ふらつく感じ・頭が軽くなる感じまたは気が遠くなる感じ、冷感・悪寒または熱感、異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)、現実感喪失、コントロールを失うことに対する恐怖または気が狂うことに対する恐怖、死ぬことに対する恐怖のうち4つ以上の症状を伴う強い恐怖や不快感の急上昇ということだそうです(58ページ)ので、実際には問診でそう答えればそう診断されることになりそうです。
 「パニック障害の人がうつ病(非定型うつ病)を併発するようになると、自己中心的でわがままな行動をとることがあります。」(31ページ)、「パニック障害に非定型うつ病を併発すると、非常に攻撃的になる場合があります。攻撃性は、『怒り発作(アンガーアタック)』となってあらわれます。」(31ページ)、「怒り発作は攻撃性をともない、大声を上げて相手を非難したり、暴力的になって手あたりしだいにものを壊したりします。」(32ページ)って、周りはこれじゃたまらないですね。「しかし、発作がおさまると、患者さんは『申しわけないことをした』と自己嫌悪におちいり、うつ状態が悪化します。」(32ページ)。なるほど、発作が治まれば反省する場合は病気、発作的な怒りが過ぎ去っても相手が悪いと思い続けそう言い張っている場合は性格の悪さということですね。
 規則正しい生活と適度な運動、飲酒・喫煙・コーヒーを避ける、と健康な生活を心がけるように勧められていますが、「米国の研究によると、パニック障害の患者さんの約7割が、コーヒー1日5杯でパニック発作、または類似した不安症状を引き起こすと報告されています。」(104ページ)って…

04.05.イチケイのカラス 上下 蒔田洋平 扶桑社文庫
 元弁護士で東京地方裁判所第3支部第1刑事部の裁判官となった入間みちおが、定年近いこれまでに30件の無罪判決を書いた部長の駒沢裁判官に試みとして裁判長を任され、新人のエリート裁判官坂間と合議を組んで、気になる事件では次々と職権を発動して検証や尋問を積極的に進めて事件の真相に迫るという2021年春期のテレビドラマを小説化したもの(ドラマの原作は漫画)。
 敢えて戯画化しドラマとして面白くしているんでしょうけれども、法律監修を受けていないんでしょうね。業界的には、おいおいというところが多々見られます。入間裁判官みたいな裁判官いないでしょう、というところは、ドラマだから構わないと思うんです。法律上不可能かというと、刑訴法上、裁判所が職権で証人尋問をしても、所在尋問をしても、検証をしても別に構いません。刑事裁判の構造とか役割というもっと大きな制度というか枠組みでは問題はありますが。それよりも、入間裁判官、毎回「職権を発動します。裁判所主導で捜査を行います」っていうんですが、これを「捜査」っていう必要ありません。起訴後なんですから、単に証人尋問を行います、検証を行いますっていえば済むのに、どうしてわざわざ変な概念というか間違った概念を持ち込むのか。むしろ、裁判所が職権で行う尋問等について当事者を立ち会わせないことの方が不公正で許されないはずですが、これをエリート裁判官で入間のやり方に批判的なはずの坂間が第1話から1人で聞き込みして実行しています(上巻57~58ページ)。ドラマだから別にいいんですが、最初っから坂間の方が法律上はど外れたことやっているという設定、作者わかって書いてるんでしょうか。被告人質問での被告人の答が気に入らないって反論するのに「異議有り!」っていう検察官(上巻24ページ、下巻162ページ)もありえない。単に検察官からも質問しますといって聞けばいいだけの場面でしょう。高裁の再審開始決定に対して検察官が「即時抗告」って(下巻11ページ)。高裁の決定に対しては抗告はできなくて、「抗告に代わる異議申立」(刑事訴訟法第428条:まぁ、このあたりはマニアックだから、知らなくても許してあげていいかとも思いますが)。そして高裁が再審請求を受けて再審開始決定したのなら再審も高裁のはずなのに、何で地裁で再審が始まるのか(下巻9~16ページ)。入間みちおが弁護士時代に挫折を味わった「12年前の事件」の黒幕の1人中森検事は、次長検事(最高検、検察全体のナンバー3)のはずですが(下巻33ページ、35ページ、38ページ等)、なぜか「次席検事」(地検・高検のナンバー2)とも度々書かれています(下巻11ページ、44ページ、45ページ)。ドラマなんだから敢えて現実とは違う設定にしますというんじゃなくて、単純に刑事裁判の仕組みとか運用自体がわかってない感が強くて、業界人としてはもっと調べて書いてよと思ってしまいます。
 テレビドラマ最終回を見ての感想→イチケイのカラス最終回に思う

03.改訂版 自治体職員のための災害救援法務ハンドブック 中村健人、岡本正 第一法規
 災害発生時に自治体職員が行うべきこととその法的根拠、国の通達やガイドライン、市町村と都道府県、国の役割分担と財政負担等について説明した本。
 部外者の立場で読んでも、災害時には自治体が行うべきことや、被災者が直面する苦労・苦痛・不便がたくさんあるのだなということを実感できます。また、弁護士として、こういった行政法的な分野はふだん扱わないので、多くの法律や通達や取り決め、その改正があること、そして自分がそういうことをまるで知らないことを痛感しました。弁護士であれば法律を知っているなどというのはまったくの幻想だと日頃思ってはいるのですが、やっぱり事件として業務として取り扱わない分野のことは本当に知らないのだと改めてわかりました。知らない分野は怖くて手が出せないなと思い直します。
 法律の分野でも特に行政法規では、条文がすごく複雑で、括弧が入れ子構造で長く続くものが多いのですが、著者がそういう領域を見慣れているせいか、この本でも根拠引用の長~い括弧が多く、とても読みにくい。括弧内をポイントを落として少し小さな字にするとかできないのかなと、自分が書くときにはあんまり考えないんですが、つくづく思いました。
 「災害協定」というのが自治体が弁護士などの専門士業と被災した住民や事業者の再建等に資する法律や制度の情報提供・各種相談活動の実施のための協力要請の取り決めだ(24ページ)というのを初めて聞きました。災害対応の中で弁護士、法律相談の役割がそんなに大きいのか(単に「災害協定」という普遍的な用語でそういう意味なのかという驚き)と…まぁ、この本のタイトルが災害救援「法務」ハンドブックだし、著者が2人とも弁護士だから法律が重視されるということかもしれませんが。
 「東日本大震災後に避難所の状況を視察した海外有識者たちは、日本の避難所は国際的な難民支援基準を下回るという厳しい指摘をした。」(55ページ)って、考えさせられますね。
 被災者の安否確認や行方不明者の氏名公表(40~45ページ)、被災者台帳の作成(88~97ページ)あたりの記載を見ていると、災害時で人命優先なのでそうだろうと思う反面、個人情報の目的外使用なんて法令の根拠さえ作ればやり放題という感じで、やはり役所に個人情報を取得させたら国・行政のさじ加減でどうにでもできるのだなと思います。行政の甘い言葉にご用心、ですね。

02.娘からの相続および愛人と息子の相続の結末 川井れもん 幻冬舎
 夫と離婚し、バツイチ子なしの娘直美と息子雄二夫婦と孫智也と同居している薬師ひろみが経験した、娘を交通事故で亡くした後の元夫赤羽光夫との諍い、元夫死亡後のその妻(元愛人)江藤金子と雄二の相続争いでの心労を描いた小説。
 ただ世の中には酷いというか常識や良識がないヤツがいるということをアピールする、作者が何かうっぷん晴らしをしているという感じのもので、小説として読んだときの面白みや味わいというものが感じられませんでした。
 テーマが離婚、相続なのに、今どきこれほどまでに法律的にあり得ない間違いだらけのものが堂々と出版されていることは驚きです。経験もなく知らないことなら、きちんと調べて書くなり、法律監修を頼むべきだと思いますし、作者がまったくの素人なら、出版社の編集者が弁護士に見せてみるくらいのことはすべきだと思うのですが。
 弁護士をしている姉がDVの話を聞いて、証拠がないからといって「離婚できる確率は非常に低いと思う」(26ページ)…今どきこんなことをいう弁護士がどこにいます?
 弁護士の姉が離婚調停を成立させて「確定証書」(そんな言葉はなく、「調停調書」のはずですが)を持ってきて、内容は後でゆっくり確認しなさい(31ページ)…依頼者本人の意向を確認せずに弁護士が調停を成立させて事後承認なんて言ったら懲戒ものですし、未成年子の親権の指定がない離婚調停なんてあり得ません。
 妻が離婚して復氏したときに、未成年子は妻の氏に変更できない(32ページ)…まったく初耳です。民法第791条を見てください。
 「地方裁判所に遺産相続の調停を申し立てなければならない」(54ページ)→「家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てなければならない」
 夫死亡後に妻が前妻との子を無視して単独相続の手続を済ませてる(56ページ、62ページ等)って…妻に全財産を相続させる遺言があるのでない限り、どうやったらそんなことができるんですか?しかもそんなおよそあり得ないむちゃくちゃな主張を調停委員が認める(66ページ、72ページ)、別居している相続人は無視して相続手続ができると調停委員がいう(73ページ)、弁護士の姉もそれをしかたがないという(75~80ページ:この説明の中でいわれている「休眠口座」の「トリック」もでたらめで、休眠口座を使ったからそれ以外の遺産を勝手に相続手続をして有効になるなどあり得ません)…
 この人が書いていること、弁護士の目からは頭を抱えたくなるようなでたらめばかりです。こんなの読んで信じる人がいたら困ります。

01.睡眠専門医が考案したいびきを自分で治す方法 白濱龍太郎 アスコム
 いびきを治す/軽減するための「いびき解消メソッド」を紹介・推奨するとともに、いびきを放置することの危険を述べる本。
 冒頭のテストから、いびきをかく状態を放置すると、突然死などさまざまな危険があることを強調し、日本人の5人に1人が睡眠時無呼吸症候群を患っているといわれていますと繰り返しています(4ページ、94ページ)。うつ病やED(勃起不全)に加えて禿げるって…睡眠時無呼吸症候群になると酸素が取り込まれにくくなり、その結果血流が悪くなり、毛髪に十分な栄養素が届きにくくなるとか、血流の低下でホルモンバランスが悪くなってとか(103~105ページ)いってるんですが、なんだか、風が吹けば桶屋が儲かるみたいな話で今ひとつこじつけっぽく思えます。
 ただ、この本はいびきをかく状態を放置するとさまざまな危険があるから医師に診てもらえと言ってはいるのですが、自分でできるメソッドをとにかくやれと言っているので、医者の営業が主目的の本ではないようです。
 著者が推奨するのは、舌の筋トレ、横向きに寝る(妊婦のように:シムスの体位)、朝食時に味噌汁を飲むの3つです。舌の筋トレは眠ったときに舌が気道に落ち込んで気道を狭めないように、仰向けで寝て気道を狭めないように、味噌汁は味噌に多く含まれるトリプトファンが体内で14~5時間かけて睡眠ホルモンになり深く眠れるように、だそうです。歯磨きは寝る直前ではなくもっと前に(157~158ページ)、入浴は寝る1時間半~2時間前に(171ページ)、風呂の中で脚のストレッチやマッサージを(175~176ページ)、寝る前は水は飲まずトイレに行くように(158~159ページ)ということも勧められています。このあたりはとにかく安眠しようということですね。いろいろ気をつけても、中高年男は夜トイレで目が覚めるんですが…

**_**区切り線**_**

私の読書日記に戻る私の読書日記へ   読書が好き!に戻る読書が好き!へ

トップページに戻るトップページへ  サイトマップサイトマップへ