庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「8月の家族たち」
ここがポイント
 大人になり長く別々に暮らす家族の関係と思惑、感情のもつれ、見たくないような気もするし考えさせられる
 正論を唱える長女バーバラが嫌われ孤立気味に描かれるのは悲しい
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 父親の失踪を機に久方ぶりに集まった家族の思惑のズレ・対立・感情のもつれを描いた映画「8月の家族たち」を見てきました。
 封切り2週目日曜日、新宿武蔵野館3(84席)午前11時の上映は7〜8割の入り。観客の年齢層は高め。

 認知症気味で大量の薬を服用する舌癌の妻ヴァイオレット(メリル・ストリープ)と2人暮らしの元教師ベバリー(サム・シェパード)は、先住民のジョナ(ミスティ・アッパム)を住み込みの家政婦として雇い、その数日後失踪した。それを聞いて、姉マティ・フェイ(マーゴ・マーティンデイル)とその夫チャールズ(クリス・クーパー)、長女バーバラ(ジュリア・ロバーツ)、別居中のその夫ビル(ユアン・マクレガー)と14歳の娘ジーン(アビゲイル・ブレスリン)、次女アイビー(ジュリアン・ニコルソン)、三女カレン(ジュリエット・ルイス)とその婚約者スティーブ(ダーモット・マローニー)が次々と駆けつける。数日後、ベバリーは湖で死体で見つかり、自殺と判断される。ベバリーの葬儀を終え、全員で食卓を囲む中、ヴァイオレットは次々と議論をふっかけ、険悪になり…というお話。

 長く別々に暮らしていた家族・親族が集まり、疎遠になっていた関係を反映して互いの近況を知らず批判し合うという、ありがちなシチュエーションに、中心となるヴァイオレットが毒舌を吐きつつ、次第に家族の秘密を暴露していくという展開を合わせることで、ミステリー的な色彩も持たせた人間関係ものになっています。大人になってしまえば家族もこうなるかもしれないという思いとそうなりたくないなぁという思いが頭をよぎる作品です。
 最初は薬呆けでジョナを「インディアン」と呼んで毛嫌いするヴァイオレットが、ストーリーが展開するにつれて(バーバラが薬を全部捨てさせ、医者のところに乗り込んでこれ以上処方したら訴えてやると一喝したためですが)落ち着き、いつのまにか頭もシャープになっていく様子が、秘密が明らかになっていく過程と重なってうまく作られているように思えます。

 エコロジストで正論を唱えるバーバラが、夫にうんざりすると言われ若い女と浮気されて別居し、娘にも父とともに去られ(もっとも、バーバラもお父さんっ子で、父ベバリーが失踪したと聞くとすぐに駆けつけて、ヴァイオレットから「私が舌癌になった時には来てくれなかったのに」と泣かれますが)、一族の中でも孤立気味なのが悲しい。清く正しく生きようとする姿を、いかにも肩肘張って、まわりに受け入れられない存在と描くのは、私にはそこはかとない悪意が感じられていやな感じがします。
 カレンの若作りの痛々しさも、ちょっと見ていて辛い。
 伯母の息子のリトル・チャールズ(ベネディクト・ガンバ-バッチ)と密かに交際を続けるアイビー、子宮頸癌で子宮を摘出したから子どもはできないからいいでしょと言い切ります。近親者間の肉体関係の問題が子どもの遺伝子問題だけとしたら、子どもができなければ誰としてもいいということにもなります。そこ、ちょっと考えさせられました。大人同士なら、いいような気がしますけど… 
(2014.4.29記)

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