庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

    ◆たぶん週1エッセイ
  弁護士の日常

 弁護士の一日を紹介して欲しいというリクエストがありました。弁護士も人によっていろいろですので、他の人はまた違う日常を送っているとは思いますが、私のある週(あっさり白状すると、書いた日の前の週ですが。それより前だと思い出せないし)の状況をレポートしてみます。ただ、私生活部分は、基本的に非公開ですのでご容赦願います。
○月×日月曜日
 朝9時頃事務所着。私が破産管財人(はさんかんざいにん。破産事件で裁判所から選任されて破産者の財産や破産の経緯を調査したり財産を売却してお金に換えて債権者に配当する仕事)をしているAさんの関係で裁判所に提出する書類を準備。先週の土曜日に破産申立書類を作成して事務員にコピーと印紙・郵券等の準備をお願いしてあったBさんとCさんの書類を持って10時に事務所を出て裁判所へ。BさんとCさんの破産申立をして、その場で破産部の裁判官と面接。ついでに破産部に破産管財人としてAさんの関係で書類を提出。弁護士会館に行って第二東京弁護士会の法律相談センター運営委員会の相談部会の会議に出席。午後1時過ぎ会議が終わって事務所に戻り、留守中にかかってきた電話への対応をしているうち午後2時に債務整理中の依頼者Dさんが来て打ち合わせ。私が破産管財人をしているEさんの事件でこちらが過払い金の返還を求めているクレジット会社と返還額を電話で事実上合意し、和解契約書案を作成してFAX。この日来たFAXと郵便をチェックしているうちに時間が来て3時半に事務所を出て再度裁判所に行き、4時からAさんの債権者集会。この破産事件は債権者が来てその場で意見がいろいろ出されたので続行。終了後、出席した債権者に破産管財人として手続についてさらに説明。その後事務所に戻って留守中にかかっていた電話に対応、Aさんの破産申立代理人の弁護士事務所に破産管財人としての要望を伝言。6時に自己破産希望の相談者Fさんと面談。終了後、六ヶ所村再処理工場の裁判の書類作成の下準備のデータ検討。8時半過ぎに事務所を出て帰宅。(この日、電車中での読書は、「理由」:宮部みゆき)
○月△日火曜日
 朝9時30分頃事務所着。翌日にクレジット会社から起こされた裁判の口頭弁論があるBさんのために「昨日破産申立をした」という書類を作成して、クレジット会社と裁判所にFAX。すでに案を作成して依頼者に意見を求めていた来週口頭弁論のある労働事件の準備書面を最終チェックして裁判所と相手方の弁護士にFAX。10時30分に自己破産の相談者Gさんと面談し、法律扶助協会(お金のない人のために弁護士費用を立て替えてくれる機関)を使うことにして、扶助協会の審査を電話予約。途中、日弁連の事務局から電話で委員会がすでに始まっているがどうしたのかと督促の電話。私は自分の手帳(予定表)にはこの日の委員会は午後からと書いていたので、あわててGさんの関係の扶助協会に提出する報告書作成後、弁護士会館へ。夕方まで日弁連公設事務所・法律相談センターの正副・事務局会議(私は副委員長ですので・・・)。終了後第二東京弁護士会事務局で、労働相談の資料を準備してもらい、5時30分から東京3弁護士会と裁判所(労働部)の2006年4月から開始される労働審判制の準備のための協議会の準備会合に出席。終了後7時頃事務所に戻り、私が破産管財人をしているHさんの債権者集会の進行予定メモを作成して裁判所破産部にFAX。翌々日に口頭弁論がある消費者金融相手の過払い金返還請求訴訟について、消費者金融から昨日FAXされてきた答弁書への全面反論の準備書面を一気に作成して、8時過ぎにそのまま裁判所と消費者金融にFAX。本当は六ヶ所村再処理工場の裁判の準備書面作成に入らねばと思いつつ、ぐったりして帰宅。(この日、電車中での読書は、「住宅購入学入門 今、何を買わないか」:講談社+α新書)
○月□日水曜日
 朝10時少し前に事務所着。昨日昼以降ずっと留守だったので集中する電話に対応しながら先日過払い金取り戻しが終わったIさんに報告書を書いていると、11時に名誉毀損の事件の相談者Jさんが来て面談。終了後、Bさんの相手方のクレジット会社の担当者に電話して、相手方が(破産申立を確認して)訴訟を取り下げたことを確認。破産部の裁判官と昨日送ったFAXをもとにHさんの債権者集会の進行を電話で打ち合わせ。午後1時に債務整理の相談者Kさんが来て面談。相談が長引くうちに午後2時に破産者のAさんが来たので少し待ってもらって事情を聞き取り。一昨日の債権者からの指摘について確認し、今後の資料提供を要請。裁判所から一昨日破産申立をしたBさんとCさんについて破産手続開始決定が送られてきたので債権者と本人に通知。その後、債務整理をして支払中だけど病気がちで仕事を変わり予定通り払えなくなっている依頼者Lさんと午後3時から面談。Lさんの債権者(貸金業者)に対して事情を説明し今後当分の間約束の6割しか払えないことを通知。夕方、弁護士会館へ行き、第二東京弁護士会の労働審判部会の会議に出席。昨日の裁判所との準備会合をふまえて翌々日の東京3会協議の打ち合わせ。終了後7時頃事務所に戻り、六ヶ所村再処理工場の裁判のデータ検討。10時頃事務所を出て帰宅。(電車中での読書は前日と同じ)
○月◇日木曜日
 朝10時頃事務所着。六ヶ所村再処理工場の裁判の準備書面の原稿に着手。昼頃その相手方(国)からの準備書面が送られてきて、私の担当分野についての反論だったのであわてて斜め読み。12時30分頃事務所を出て裁判所に行き、消費者金融に対する過払い金返還訴訟の口頭弁論に出席。すぐ事務所に戻り、六ヶ所村再処理工場の裁判の相手方からの準備書面についての対応を弁護団長と電話で協議、今回は予定していた書面作成を中止して次回に相手方の書面への反論と併せた書面を出すことに決定。柏崎刈羽原発の裁判の上告受理申立理由書の原稿に着手。2時30分頃事務所を出て裁判所に行き、私が破産管財人のMさんのヤミ金融への過払い金返還請求訴訟の弁論準備手続。終了後弁護士会の図書館で相続問題で継続相談中のNさんのケースについて判例を調査。夕方弁護士会館で2006年4月1日から実施される公益通報者保護制度のための特別相談態勢についての東京3会の協議会に出席。終了後7時頃事務所に戻り、柏崎刈羽原発の裁判の書面作成続行。8時30分頃事務所を出て帰宅。(電車中での読書は前日と同じ)
○月▲日金曜日
 朝9時頃事務所着。昨日の弁論準備でヤミ金融から証人申請されたMさんに報告書を書いて発送。私が破産管財人のOさんの来週の債権者集会の進行予定メモを作成して裁判所にFAX。Hさんの債権者集会の書類を作成。10時30分頃事務所を出て裁判所に行き、Pさんの建築代金の裁判の弁論準備手続に出席。終了後事務所に戻り、電話とFAXに対応しているうち午後の債権者集会への準備中にEさんの件で月曜日にFAXした和解契約書案に相手のクレジット会社が内諾が取れたと連絡してきたのであわてて裁判所の和解許可申請書を起案。午後1時30分頃事務所を出て裁判所に行き2時からHさんの債権者集会。債権者が出席し多数の意見があり30分くらいかかり、続行。債権者に今後の進行を説明し、弁護士会館へ行って3時からの第二東京弁護士会の法律相談センター運営委員会全体会議に少し遅れて出席。4時で中座して東京3弁護士会の労働審判制推進協議会に出席。5時40分から東京法律相談連絡協議会主催の労働相談研修会の講師打ち合わせに入り、6時からの研修会に主催者側として参加。8時に終了し、そのまま帰宅。(この日、電車中での読書は「プロが教える住まいと防犯住宅」週刊住宅新聞社)
○月○日土曜日
 午前中、自宅近くの図書館に行き借りている本の返却と新規借入。昼頃事務所着。電話、FAXには一切応答せずに柏崎刈羽原発の裁判の書面作成。午後7時頃帰宅。(この日、電車中での読書は「ちゃんと話すための敬語の本」:橋本治)
 こうして振り返ってみると、標準的な弁護士(現実にそういう者がいるかはわかりませんが、何となくそういう感じのする弁護士)と比べて、私の場合、破産管財人の仕事が多い、弁護士会の委員会の仕事が多い、原発訴訟を抱えているという点でかなり違った日常を送っていると思います。
 破産管財人について言えば、実は、現時点で私の最大の依頼者は東京地裁破産部です。過払い金の取立の必要な案件がよく回ってきます。先日、大学のゼミでお世話になった鈴木茂嗣先生(刑事訴訟法)にゼミ会でその話をしたら、「伊東君が権力を行使する側になるとは思わなかったな」と言われてしまいました(大学のゼミで私は徹底して反権力の立場でしたからね)。「裁判所の力を背景にものを言うのはヤミ金への取立の時くらいですよ。少なくとも弱い者いじめはしてませんから」と言い訳しましたけど。
 弁護士会の委員会(すべて無償奉仕ですよ)は、現在、現実に出席ししているのが、日弁連公設事務所・法律相談センター(弁護士の少ない地域に法律相談センターや公設の弁護士事務所をつくる運動をしているところ)、関東弁護士会連合会弁護士偏在問題委員会、第二東京弁護士会法律相談センター運営委員会、東京法律相談連絡協議会(東京3弁護士会の法律相談センターの協議会)の労働相談プロジェクトチーム、その出向で労働審判制と公益通報者保護関係の各種の部会・協議会といったところ。名前だけの所属はまだ他にいくつかあるんですが・・・
 弁護士会の委員会活動と原子力関係の事件をすべてぶん投げられれば、きっと楽な生活になれると、思うんですけど。普通の弁護士に戻りたい!
(2006.1.27記)
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