庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「Coda あいのうた」
ここがポイント
 家業のために自分の希望を抑えキレも拗ねもせずにいるルビーの健気さに涙する
 ルビーの両親のおおらかな性生活が微笑ましい(ルビーがどう思っているかはわからないが)
  
 フランス映画「エール!」のリメイク版にして2022年度アカデミー賞作品賞ノミネート作品「Coda あいのうた」を見てきました。
 公開9週目日曜日、WHITE CINE QUINTO(108席)12時40分の上映は6割くらいの入り。

 アメリカ東海岸の漁村で両親と兄がいずれも聴覚障害者の家族に生まれたただ1人の健聴者の高校生ルビー・ロッシ(エミリア・ジョーンズ)は、毎朝午前3時に起きて父(トロイ・コッツァー)と兄(ダニエル・デュラント)とともに漁に出て捕れた魚を業者に売る際など父と兄の通訳を務める毎日を過ごしていた。高校で合唱部に入り、音楽教師に才能を見いだされて同期生で音大志望のマイルズ(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)と発表会でデュエットするように言われたルビーは、マイルズと一緒に部屋で練習するが、2人の仲を誤解した父親が「コンドームは着けろ」と大仰な手話で繰り返し、それが高校でうわさ話として広まったため、マイルズを避けるようになる。謝罪するマイルズを呼び出した日、ルビーが乗船していないところに監視員が現れ、健聴者不在での操船を見とがめられた父は…というお話。

 家業の漁業が自分なしには回らないという環境の下、毎日午前3時起きで漁に出て、捕れた魚の売りさばきなど父と兄の通訳を行い、その後高校に通うという多忙というか激務をこなし、学校では魚臭いと囁かれたり、居眠りを叱責され、音楽教師のレッスンに家業の都合で遅刻するたびに怒られるなどの嫌な思いもしながら、ブチ切れたり拗ねたりせずに対応し続けるルビーの姿は、それだけでもう(特に娘を持つ親には)鼻がツンとするくらい切ない。音楽教師からバークリー音楽大学への進学を推薦され、行きたいと家族にも宣言してみたのに、自分がいないと家業ができないことを見せつけられるやすぐさま諦めてみせる、アメリカ映画では考えがたいほどの孝行娘ぶりには、その健気さに涙してしまいます。

 聴覚障害者の家庭というと、静かな様子をイメージしてしまいますが、ロッシ家ではうるさくても気にならないということで、父親はトラック運転中その振動が心地よいとしてラップを大音響で流し続けます。ルビーがマイルズとともに部屋で合唱の練習をしていても気がつかない父フランクと母ジャッキー(マーリー・マトリン)は、ベッドをギシギシいわせ大音声を上げてセックスに励み、ルビーを困惑させます。そうか、そういうものかと思いました。もっともそれがまた別のステレオタイプの思い込み/先入観でなければいいのですが。
 高校生の娘にセックスを見られても悪びれず、あっけらかんとしているルビーの両親が微笑ましい。インキンタムシで医師から2週間のセックス禁止を言い渡されるや妻と顔を見合わせて、そんなことできるわけがないという(それもいちいちルビーに通訳させる)フランクとそうだそうだという顔のジャッキーの様子も好感が持てました。もっとも、医師の「2週間」を敢えて通訳せず、父にいつまで?と聞かれていったんは「一生」と答えたルビーは、両親のおおらかな性生活を好感していなかったのかもしれませんが。
(2022.3.20記)

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