庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「クローバー」
ここがポイント
 凡庸なOLがイケメンエリート上司に告白される、さらにイケメン俳優にも言い寄られるという少女漫画の王道の会社版
 上司が部下に交際を求める今どきのビジネスシーンでは禁じ手が堂々と正当化される、こういう文化状況がいつまで続くのか

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 エリート上司と凡庸なOLの社内恋愛コミックスを実写映画化した映画「クローバー」を見てきました。
 封切り2日目日曜日、新宿ピカデリースクリーン3(287席)午後4時10分の上映は8割くらいの入り。観客層は圧倒的に若者層で、カップルと女性同士が中心。

 従業員7000名だが同族企業で専務筒井義道(上地雄輔)が実権を握るホテル東洋に勤める新人OL鈴木沙耶(武井咲)は、中学時代に今は人気俳優となっている樋野ハルキ(永山絢斗)と軽井沢に駆け落ちしたが警察に保護されて仲を引き裂かれたことを引きずり、恋愛に積極的になれないでいた。仕事上のミスが続き、直属の上司のエリート柘植暁(大倉忠義)に罵られ続けていた沙耶は、ある日柘植から俺とつきあわないかと誘われる。沙耶は柘植の真意をつかみかねていたが、樋野ハルキを招いたバレンタインイベントを任され、その準備中に女性タレントの忘れ物をホテルの部屋に届けた時部屋の中に裸のハルキがいることに気づき、柘植の申し出を承諾し、肉体関係も持つに至る。しかし、職場では相変わらずつれなく厳しい態度を取る柘植に沙耶は不安と不満を募らせる。専務からパリでのホテル立ち上げの責任者に抜擢された柘植はパリに単身赴任し、専務の妹栞(夏菜)は柘植に猛アタックを続ける。他方、柘植と会えない状態が続き柘植からの連絡が少ないと不安に思う沙耶はハルキと逢瀬を続け、それが芸能誌を賑わせてしまい…というお話。

 ごくふつうのこれといった取り柄がない女性が、イケメンで能力がある男性に告白され、美人で性格の悪い女性が敵役で登場して攪乱するがイケメン男性はその美女を振って主人公を選ぶという昔の少女漫画の王道を、職場を舞台に堂々と作って見せたという作品だろうと思います。さらにやはりごくふつうの女性主人公が2人のタイプの違うイケメンに告白されて、あぁこんなにもててしまういけないわ・た・し…状況を創出する、「白馬の王子様」+逆ハーレムというゴージャスな妄想付きでお買い得というパターン。制作側にとってはうけるからやるというだけでしょうけど、いつまでもこういうパターンが続くものでしょうか。
 直属の上司で、厳しく叱責を続けている柘植が、その部下に対して、俺とつきあわないかというのは、昨今のビジネス環境を考慮すれば、交際の強要、セクハラ以外の何ものでもないというべきでしょう。イケメンエリートだからこれが許され、セクハラじゃない、真剣な愛だとか描くのは、イケメンなら部下に交際を要求してもセクハラじゃない、主観的に「愛情に基づく」ならセクハラじゃないとかいう言い分を正当化し、多くの勘違い上司による職場でのセクハラを誘発することになりかねません。今どき、こんな描き方をする制作側の神経を疑います。
 同じく、柘植の言動はパワハラそのもの。確かに沙耶の仕事ぶりの注意力・真剣度の低さ、さらに言えば仕事に対する姿勢の甘さは、上司としてみれば目に余ります。仕事ぶりについて叱責を受けるのは当然だと思います(その部分まで柘植が「ドS上司」だと描く姿勢は甘えだと思います。もっとも、実社会ではこういう人は重要なイベントを任されないはずですけど)。しかし、それでも「お前の脳みそは犬以下か」は紛う方なきパワハラ発言で、発言が立証できれば裁判所でも不法行為と認められるレベルです。こういう発言も、イケメンエリートなら許されるとか、主観的に「愛情に基づく」なら許されるという描き方をするのであれば、やはり制作側のセンスを疑います。
(2014.11.3記)

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