庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「ダークナイト」
ここがポイント
 ジョーカーのキャラで見せる映画。おかげでバットマンは影が薄い
 愚民意識の強さに辟易するが、爆薬を仕掛けた2隻の船の行く末に少し爽やかさが感じられる

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 バットマンシリーズの最新作「ダークナイト」を見てきました。
 公開初期の興行収入の全米記録をいろいろ塗り替えた大ヒットだそうですが、日曜日朝9時台というアドバンテージ(人混みが嫌いな私にとっては)のためか、封切り2日目でもけっこう空いてました。

 テーマがけっこう重いんですが、悪役がしっかりしてて(ちょっと戯画的ですけど)アクションが続き画面展開もテンポがよくて、あぁ映画見たなぁって気になれる映画です。
 前半、ジョーカーが暴れ回った挙げ句にではありますが、意外とあっさり捕まってしまったのは驚きましたが、それから先にまだ大展開があり、またビックリ。ジョーカーの看護婦姿とか笑えました。
 「ダークナイト」(闇の騎士)ってジョーカーのことかと思っていたんですが、違うんですね。

 この作品はやっぱり、ジョーカー(ヒース・レジャー)です。人の命を何とも思わずそして人の心をもてあそぶ冷酷さと、自らの危険も気にせず自ら最前線で犯行を重ねる大胆さを兼ね備え、どこかおちゃらけながら、犯罪とバットマンへの挑戦をそれ自体楽しむこのジョーカーというキャラクターがあってこそ、この映画が成り立っていると思います。バットマンがマスクを脱ぐまで毎日市民を殺害する(実際は一般市民じゃなくて司法関係者ですが・・・)とか、複数の人質のどちらを殺すかは選択させてやるとかの人の心をもてあそぶような宣言付きの犯行も、自分の裂けた口の傷について口からでまかせの話をして楽しみながら相手の口を切り裂くというような多弁で楽しみながら犯罪を実行するこのキャラクターだからこその展開と言えるでしょう。
 それに引き替えブルース・ウェイン=バットマン(クリスチャン・ベイル)は大富豪のハンサムボーイという設定もあり、影が薄い感じ。私はどうもこの設定、こち亀の中川みたいな感じがして・・・。バットマンとしては、いろいろと苦渋の選択を迫られるのですが、その場面はマスクをしているためその表情の演技が見えないので、印象が弱くなるんでしょうけど。
 さらに、今回のストーリー上のキーパースンになる「光の騎士」と呼ばれる地方検事ハーベイ・デント(アーロン・エッカート)。スター・ウォーズで言えばアナキン・スカイウォーカーのような、ちょっと難しい役回りですが、やはり同様に転向の心理は今ひとつ描き切れていない感じがします。復讐に燃えるのは、まぁわかりますが、どうして相手がそうなるんだか・・・。最初からことあるごとに自分や人の運命をコイン(の表裏)で決めるあたりの心性は、どこかジョーカーと共通点を感じさせてはいますが・・・
 そして、全体を通じては、ジム・ゴードン警部補(ゲイリー・オールドマン)の地味目ですが渋い演技が光っています。ブルースの秘書アルフレッド(マイケル・ケイン)もかなりいい味出してましたが。

 この作品で考えさせられるのは、ジョーカーが次々と繰り出す恐怖の選択肢に人がどう対応するかです。バットマンがマスクを脱ぐまで毎日市民を殺害すると言われ、それまでバットマンのおかげで犯罪を減らして来れたのに、掌を返したようにバットマンを引き渡せという市民と、夫はバットマンのために殺されたと言い募る遺族たち。2人の人質のうち助かるのは1人、どちらを助けるかは選ばせてやると言われ、助けられなかった「最愛の人」は警察が見捨てたのだと警察への復讐を企てる「光の騎士」。人の心をもてあそぶジョーカーの策略にまるまる乗せられ踊らされる人々。冷静に考えれば、悪いのはバットマンでも警察でもなく殺害を計画し実行したジョーカーなのに、明確な悪よりも身近なターゲットを憎みがちというありがちな人の心根を描いています(納得できるほど描ききっているようには思えませんでしたが)。
 そしてさらに考えさせられるのは、「光の騎士」の復讐心への屈服・悪への転向を一般市民に公表したら人々が希望を失い悪がはびこるとし、真実よりも正義が行われているという確信の方が大事だとして事実を隠蔽し「光の騎士」は最後まで正義を貫いたと発表する結末。一面の真理ですし、メディアの現状を見るとむべなるかなとも思えますが、愚民意識の産物でもあります。
 その中で、ジョーカーが仕組んだ2隻のフェリーに爆薬を仕掛け相手の船の爆薬の起爆装置を渡して、先にスイッチを押した船は助けてやるという罠に、囚人の船で囚人代表が起爆装置を海に投げ捨てた決断と、パニックになってスイッチを押せと言い募る乗客たちの前でスイッチを押そうとした代表が最後に決断できなかった姿が、市民の良識への信頼を示し、爽やかさを吹き込んでいます。
 そういう人間の心根の部分で、難しい問題だけど、全然解決できないというわけでもないよというメッセージ(エンディングからするとむしろ、解決できないことばかりじゃないけど簡単じゃないという方があってるでしょうね)と受け取っておきたいところです。

(2008.8.10記)

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