庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「マダム・フローレンス!夢見るふたり」
ここがポイント
 フローレンスとシンクレアの間合いと心情に夫婦関係のあり方を考えさせられる
 金持ちのわがままの話がメリル・ストリープのとぼけた味とヒュー・グラントの表情の演技で奥行きある物語に化けている

Tweet  はてなブックマークに追加  マダム・フローレンス!夢見るふたり:庶民の弁護士 伊東良徳

 音痴の歌手フローレンス・フォスター・ジェンキンスがカーネギーホールでコンサートを開いた実話に基づく映画「マダム・フローレンス!夢見るふたり」を見てきました。
 封切3週目日曜日、TOHOシネマズ新宿スクリーン1(86席)午前8時50分の上映は3割くらいの入り。

 父親の莫大な遺産を相続したマダム・フローレンス(メリル・ストリープ)は、初婚の夫からうつされた梅毒の治療のため左手にマヒが残りピアニストの道をあきらめて歌手を目指してレッスンを受ける。事実婚の夫シンクレア(ヒュー・グラント)は、フローレンスの音痴ぶりを知りつつも、妻の夢をかなえるため、協力する伴奏者コズメ・マクムーン(サイモン・ヘルバーグ)を見出して高額の報酬で釣り、好意的な観客を集め、記者を買収し、小さな会場での公演を続け、好意的な論評を得ていた。しかし、フローレンスは、それに飽き足らず、レコードを録音し、さらにカーネギーホールでの公演を希望し…というお話。

 初婚の夫から17歳の時に梅毒をうつされ、その治療のために髪の毛が抜け左手にマヒが残るマダム・フローレンスと、マダム・フローレンスの離婚後に知り合い事実婚状態となったシンクレアの夫婦関係。肉体関係は最初から控え、別の女性キャサリン(レベッカ・ファーガソン)と暮らし愛人関係を保ちつつ、フローレンスの夢を包み込むように支え、献身的に尽くすシンクレア。肉体関係はなくても、また不倫相手と同居しながらも、フローレンスを愛し心が通いあうという様子・描写に、夫婦関係のありようを考えさせられます。
 明らかに音程を外しているけどそれと気づかないフローレンスに対して称賛するシンクレア。「ほめて伸ばす」は、どこまで通用するのか。真実を直視させるのが愛情だと言いたくなりますが、人々の気持ちに訴えるのは歌唱力だけではなく、下手でもそれを聞いて喜ぶ/癒される観衆もいて、現実のフローレンスのカーネギーホールでの公演が記憶に残り愛されていることを考えれば、一概には言えないという気持ちになります。
 距離を置いて見れば、大金持ちの夫人が、金にものを言わせて道楽をし、身勝手な自己満足をごり押ししていくのを、財産目当ての後添えが愛人と暮らしながら夫人の財産を駆使して助けていくという、金持ちのわがまま話と考えられるのですが、メリル・ストリープのとぼけた天真爛漫さとヒュー・グラントのフローレンスを見つめるまなざし・表情の演技がそういった俗っぽさ・いやらしさを消し、むしろ奥行きを感じさせる人情ドラマになっています。
(2016.12.18記)

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