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たぶん週1エッセイ◆
福島原発全交流電源喪失は津波が原因か(その3)

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 2012年7月に「福島原発全交流電源喪失は津波が原因か(その2)」を書いてから10か月経過した2013年5月10日、東京電力が突然、福島原発1号機の「過渡現象記録装置」によって記録されたデータで2011年3月3日11時から記録採取終了時(3月11日15時36分59秒)までの1分周期のデータがあったとして、1号機A系の非常用電源喪失に関して、1号機の交流母線(1C)が非常用ディーゼル発電機1Aより先に機能喪失していたことが判明した、「1号機の非常用ディーゼル発電機(A)は交流母線(C)の機能喪失前に地震で機能喪失することはなかった」という発表をしました(発表資料はこちら)。
 東京電力と、非常用電源喪失の原因はあくまでも地震ではなく津波としたい人々(例えば原子力規制委員会の「東京電力福島第一原子力発電所における事故分析に係る検討会」とか:原子力ムラの村人の寄り合い)は、これに飛びついてよく検証もしないで1号機についても非常用電源喪失の原因はすべて津波と結論づけることでしょうけど、この発表でそう見ることには無理があります。

東京電力の発表は本当か/なぜこれまで出さなかったのか
 1号機については、福島原発事故時(2011年3月11日)の運転データとしては、コンピュータデータは「過渡現象記録装置」のデータしかなく、それは15時17分までのデータしかないとされてきました。コンピュータからの打ち出し記録としてアラームタイパの警報等の記録が地震後10分程度で紙詰まりを起こしてそこまで、各種の運転パラメータのチャートが電源喪失まであるだけとされています。その結果、1号機については、コンピュータによる記録は、15時17分以降電源喪失(15時37分)までの記録としてはチャートのみということでした。
 国会事故調の調査の際に東京電力から受けた説明では、「過渡現象記録装置」のデータはトリガー(この場合、地震による揺れが一定レベルに達したとき)から前5分間後30分間のデータだけが保存され、現にそれ以外のデータはないということでした。国会事故調では、本当にそれ以外のデータはないのかと質問しましたが、他にはないと回答され、東京電力が持っている事故時のコンピュータデータ全部の提出を求め、かなりの抵抗がありましたが最終的にこれが全部であるということで、1号機については「過渡現象記録装置」のデータの提出を受けましたが、そこには15時17分03秒までのデータしかありませんでした。今回発表された15時18分(正確に言えば15時17分59秒)から15時37分(15時36分59秒)までの1分周期のデータは、その存在が否定されていました(もちろん、こちらはそういう想定はしていなかったのでそういう聞き方はしていませんでしたが、東京電力では他にはないということでした)し、国会事故調にも提出されませんでした。
 なぜ、15時17分03秒以降のデータはないはずだったのに、事故から2年2か月もたった後に、突然、実はこういうものがあるなどといって新しい、それも東京電力に都合のいいデータが出てくるのでしょう。

 まず、今回発表されたデータは本当に記録されていたデータなのでしょうか。
 私も、そこまでは疑いたくないのですが、東京電力という会社は都合が悪くなると平気でデータの捏造をする会社です。東京電力自身が認めているケースで前科を紹介しましょう。
<2002年に発覚した東京電力の前科>
 2002年に発覚したひび割れ隠し問題、これは1970年代に沸騰水型原発で多発して原発の将来が危ぶまれた「応力腐食割れ(SCC)」について低炭素鋼の採用や応力除去工法の開発で対策は十分とされていたのに1990年代にその対策が施された部分でまたもや応力腐食割れが多発したのを東京電力をはじめとする電力会社が行政(当時の通産省)にさえも報告せず勝手に工事したり隠したまま運転を続けていたという事件です。これはアメリカの原発メーカーGEの従業員の内部告発から発覚に至ったのですが、従業員の内部告発段階では東京電力も通産省も握りつぶし続け、GE本社が東京電力は虚偽の報告をしていると通産省に通告して初めて東京電力も事実を認めて報告書を提出したというものです(東京電力の報告書はこちらから入手できます)。
 そのうち福島原発2号機の炉心シュラウドのひび割れ隠しでは、1994年6月〜1995年1月の点検で炉心シュラウドにほぼ全周にわたるものを含むいくつかのひび割れを発見しほぼ全周の割れについては行政当局に報告し修理を行ったがそれ以外の割れについては行政当局に知らせなかった、1995年12月〜1996年4月の点検で前回修理済みのものとは別のほぼ全周にわたるひびが発見されたが行政当局に知らせなかった、1998年7月匿名の報告により通産省運転管理専門官が炉心シュラウドの過去の点検記録を確認することになったのでGEに依頼して点検記録からひび割れの記載を削除させた、1998年8月〜1999年8月に「予防保全」(つまりひび割れがあるからではなく、ひび割れが生じる前に念のために)として炉心シュラウドの取替工事を行ったが1998年10月に運転管理専門官から取り替えて廃棄予定の炉心シュラウドの溶接線を確認すると連絡があったので炉心シュラウドは水中保存されているので直接確認できないといってビデオで確認することにしてビデオ撮影の際にひびが見えないように金属板を立てかけて撮影した、炉心シュラウド取替工事の際にシュラウドサポートにもひびを発見したが行政当局には報告せず工事計画認可・届出を行わずに修理した、取り替えた炉心シュラウドのひびについては詳細分析もしなかったということが、東京電力自身が調査して認めている報告書でも書かれています(2号機炉心シュラウドについての報告はこちら)。このように、東京電力は、都合が悪いことがあり隠してもばれないと思ったときは記録の廃棄や捏造も平気で行うのです。
 国会事故調に対しても、1号機の原子炉建屋4階の調査をしたいといったら、建屋の中は今は真っ暗と虚偽説明をして調査を断念させています。通産省の運転管理専門官に対してさえ捏造ビデオを見せる会社ですから、その程度のことは当たり前かもしれませんが。

 そういう東京電力が、これまではずっとないと言ってきたデータを、突然、東京電力に都合のいい内容で出してきたという経緯を考えれば、これが捏造である可能性も、簡単には否定できません(「今は真っ暗」でこの会社に騙された伊東は疑い深くなっています)。
 東京電力は、少なくとも、なぜこれまではないと言ってきたデータが今はあるのか、その経緯をきちんと説明すべきです。

今回の発表でも1号機電源喪失は津波到達前
 東京電力の今回の発表は、1号機の全交流電源喪失が津波によるものかという議論、より端的には国会事故調報告書とこのサイトでの私の主張との関係でどういう意味を持つでしょうか。
 今回の東京電力の発表が正しいデータに基づくものである場合、1号機A系の非常用電源喪失は直接には非常用ディーゼル発電機(1A)の停止によるものではなく、交流母線(1C)の電源喪失が先行したものであり、電源喪失時刻は「過渡現象記録装置の時計で」15時35分59秒から15時36分59秒までの間(データは1分周期なのでその間のデータはない)ということになります。他方、東京電力は指摘していませんが、運転日誌上電源喪失時刻が15時37分とされているB系については、15時36分59秒時点でディーゼル発電機の電圧と母線電圧には異常がないけれどもディーゼルの電流が大幅に低下してこの時点で既に非常用電源に異常が始まっていることが読み取れます。
 そうすると、非常用電源の喪失(A系)・異常発生(B系)時刻は、いずれも15時36分59秒より前(15時35分59秒から15時36分59秒までの間)ということになります。

 1号機A系について、非常用電源喪失が、非常用ディーゼル発電機の停止ではなく母線の機能喪失によるということで1Aと1Bがほぼ同時に機能喪失したとすると、ほぼ同じ場所に並んで配置されていたA系のMC(非常用高圧電源盤)とB系のMCが、津波でほぼ同時に浸水して電源喪失したというパターンを想定しやすくなります。
 しかし、それはやはり、電源喪失時刻が1号機の敷地への津波到達(遡上)後であって初めて成り立つ議論です。

 他方、1号機A系の電源喪失の直接の原因が非常用ディーゼル発電機の停止ではなく、また1号機B系の非常用ディーゼル発電機が15時36分59秒時点でも動き続けていたということからは、東京電力や保安院、政府事故調の報告書が可能性として残していた津波第1波による海水ポンプ被水による非常用ディーゼル発電機停止という可能性は消えることになります。
 その結果、私がかなり気を遣って論証した第1波問題は議論する必要がなくなり、この問題は津波第2波の到達時刻(敷地遡上時刻)と電源喪失時刻の前後関係だけで済むことになります。

 1号機敷地への津波遡上は、「福島原発全交流電源喪失は津波が原因か(その2)」で詳しく説明したとおり、15時37分より遅く、おそらくは15時39分頃です。
 そこが動かない限り、A系の非常用ディーゼル発電機が15時37分(正確には15時36分59秒)時点で動き続けていたとしても、そして非常用電源喪失の直接の原因が交流母線の喪失であっても、非常用電源喪失の時刻が津波の1号機敷地遡上前であることに変わりはなく、津波によると考える余地はありません。

 今回発表された1号機の過渡現象記録装置の時計の時刻は、自動校正されている2号機のプロセスコンピュータと連動しているので、時刻の正確性について東京電力が文句を言う余地はありません。新潟県技術委員会に提出した資料(直接みたい方はこちら)の中では、東京電力もそのことを認めています。
 波高計の時計も大きな狂いがあるとは考えられず、もし時計の狂いがあっても数秒レベルと考えられます(その点については岩波書店発行の雑誌「科学」2013年9月号1053〜1054ページに書きました)。
 ですから、今回の発表データを前提にしても、1号機の全交流電源喪失が1号機敷地への津波遡上より前である(従って1号機の全交流電源喪失の原因は津波ではない)と考えられることには変わりない、むしろこれまで運転日誌や運転員の証言といった供述レベルでしか確認できなかった1号機の非常用交流電源喪失の時刻がコンピュータデータによって裏付けられたことでさらに確実な「動かぬ事実」になったと、私は判断しています。

このテーマについて2013年10月4日、原子力資料情報室のUstream番組で詳しく話しました。
こちらこちらでアーカイブ視聴できます。

東京電力の反論に対する再反論のニューヴァージョンを作成しました。
福島原発全交流電源喪失は津波が原因か(その4)
福島原発全交流電源喪失は津波が原因か(その4)短縮版
福島原発全交流電源喪失は津波が原因か(その4)解説
さらに2014年4月28日の新潟県技術委員会でのプレゼンを経て最新版を作成しました。
福島原発全交流電源喪失は津波が原因か(その5)

(2013.5.11記、2013.8.27更新)

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