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たぶん週1エッセイ◆
映画「ハゲタカ」

 日本の自動車メーカーの買収をめぐり中国系投資ファンドと日本の投資ファンドが攻防を繰り広げる経済ドラマ映画「ハゲタカ」を見てきました。
 封切り2週目土曜日午後、満席に近い入りでした。

 大手自動車メーカー「アカマ自動車」に対し中国系投資ファンドブルー・ウォール・パートナーズが公開買い付けを宣言、日本のマーケットに絶望してリゾートで失意の日々を送っていたファンドマネージャー鷲津(大森南朋)に、アカマ自動車の敵対的買収対策に雇われていた柴野(柴田恭兵)が助けを求め、MGS銀行が2.5兆円の援助を約束して、鷲津ファンドはアカマのホワイトナイトとして公開買い付けを宣言して対抗します。しかし、ブルー・ウォール・パートナーズは信じがたい高額の買い付け価格を次々と提示し、鷲津ファンドも対抗して価格をつり上げますが、資金繰りに窮します。ブルー・ウォール・パートナーズの裏には中国政府が付いていることが発覚、さらにブルー・ウォール・パートナーズの代表劉一華(玉山鉄二)は、アカマの派遣社員をたきつけてアカマの派遣使用の脱法行為を取りあげて抗議集会を画策、資金力で鷲津が勝てないと踏み労働争議に困ったアカマ自動車社長は鷲津を切ってブルー・ウォール・パートナーズとの資本提携を発表します。窮地に陥った鷲津は・・・というお話。

 取りあげたテーマが時宜を得ていること、ストーリー展開の巧みさ、特に鷲津の搦め手からの戦いぶりなど、映画としての面白さは認めます。
 しかし、日本を代表するメーカーを中国系ファンドに買収されることが、日本経済の危機だとか、そういうナショナリズムの煽り方には疑問を感じます。この映画のストーリーからすれば、本業の物作りをおろそかにして財テクに手を出して失敗したために苦境に陥った自動車メーカーが、外国資本に買収されるというだけのことです。それを、アカマは日本そのものだとか、「日本が中国に買い叩かれる!?という未曾有の危機」とかいうのはあまりにエキセントリックだと思います。バブル期に日本の企業がそれこそアメリカを代表する企業を次々と買収したとき、日本のマスコミと多くの日本人は快哉を叫んだのではなかったでしょうか。最近でもアメリカを代表する企業の1つウェスチングハウスを東芝が買収しましたが、批判的に報道するマスコミは見あたりません。それが、日本の企業が買われるとなったら、突然日本経済の危機なんでしょうか。相手が中国系だからでしょうか。もちろん、映画では中国系ファンドの意図は陰謀めかして描かれています。しかしそういう捉え方自体、差別意識のあらわれではないでしょうか。かつてアメリカで日本人がジャップと蔑まれ、それに対して日本人は不満に思っていたはずですが、それと同じことを今中国に向けているだけなのではないでしょうか。
 映画では、劉一華に中国がアカマを買収してどこが悪いのかと語らせ、劉一華を中国の農村でアカマの車に憧れて育った青年と描き、鷲津が柴野に「劉一華はあんただ」(柴野と同じようにアカマの物作りを愛している)と諭すシーンを作ることで、私と同じような見解も示しているのだと思いますが、それでも全体としてのイメージは中国への反感と経済ナショナリズムに傾いているように思えます。
 それから、アカマの派遣労働者の労働運動をも劉一華の陰謀として描いていることも含め、すべてが企業側経営者側使用者側からの視点です。企業買収がテーマの作品ですからそうならざるを得ないかも知れませんが、日本人の勤勉さや物作りの大切さや夢と希望を語るなら、労働者と生活者の視点にも目配りして欲しい気がします。

 アップになることの多い鷲津の目が実に様々なことを語り味わい深く見えました。眼鏡越しの視線、眼鏡のフレームで隠された目、眼鏡を外した目の切り替えが効果的に使われていたと思います。言葉できれいごとをあまり語らない鷲津の、苦悩と迷い、怒りと哀しみの目が、経済論理で割り切れない部分を語っていたような気がします。

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