庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「her 世界でひとつの彼女」
ここがポイント
 人工知能との恋愛がテーマだが、恋愛に必要なものは何かが問われていると思う
 セオドアとサマンサのコミュニケーションは、経験がリアルタイムで共有される点は別として、電話で話すだけの関係に近いのでは?

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 Ai(人工知能)との恋を描いた映画「her 世界でひとつの彼女」を見てきました。
 封切り2週目日曜日、全国22館東京4館の上映館の1つヒューマントラストシネマ有楽町シアター1(161席)午後0時15分の上映はほぼ満席。

 妻キャサリン(ルーニー・マーラ)と別居1年、弁護士を通して離婚交渉中の手紙代筆者セオドア(ホアキン・フェニックス)が、最新型の人口知能型OSを起動させると、会話をし感情を持ち自らインターネットで知識を学んで成長する人工知能(スカーレット・ヨハンソン)がセオドアと会話を続け、セオドアが名を聞くと人工知能はサマンサと名乗った。カメラ付きの携帯端末にサマンサをインストールして外の世界をサマンサに見せながら、イヤホンとマイクで会話してサマンサと「デート」を繰り返すセオドアは、サマンサに夢中になるが…というお話。

 恋愛の要素とか、恋愛に求めるものについて考えさせられる作品です。
 セオドアがサマンサに恋愛感情を持ちサマンサに求めるものは、結局のところ会話であり、会話を通じて共有する現在の経験と想い出であり感情です。
 肉体のない相手との恋愛ですので、会話での疑似セックスはしていますが、基本はプラトニックな関係です。サマンサが一計を講じて人間と人工知能の恋愛に共感した若い女性を誘い込んでセオドアとその女性の間でセオドアとサマンサの会話を共有しその女性の肉体を通じてセオドアとセックスしようと試みますが、セオドアは途中でそれを拒否します。それ以前に友人の紹介でデートした「虎」女(オリヴィア・ワイルド)にも「真剣な交際」を性急に求められてベッドインする前にリタイアし、10年連れ添った夫と離婚して相談する友人エイミー(エイミー・アダムス)の流し目もそらしてサマンサを選び、というように、サマンサと知り合った後のセオドアは、サマンサとの会話のみの恋愛へとのめり込んでいきます。
 この作品では、実は、感情を持つ人工知能との恋愛というテクノロジー面の問題よりも、「草食系」を押し進めた先の恋愛の観念化、あるいは感情とリアルタイムでの経験や想い出が共有できれば恋愛に必要なものは双方向の情報(会話)だけとなりうるかということが問いかけられているのではないかと思うのです。
 セオドアとサマンサの会話はもっぱらイヤホンとマイクを通じた音声で行われますので、2人の関係は、カメラとマイクを通じて経験がリアルタイムで共有できるという点では違いがあるものの、共通の経験・想い出がある者同士であれば電話で話すだけの関係に近いものです。近未来社会を背景にして、ホログラムっぽい立体型ゲームとか感情を持つ人工知能など進んだテクノロジーに囲まれているのですが、実は求めているコミュニケーションはアナログというか昔ふうです。サマンサの声も人工音声っぽくなく、ややかすれた声が、コンピュータと会話しているよりは人間と電話しているような感じがしますし。セオドアの仕事も「手紙」(電子メールじゃなくて、プリントして郵送してる)の代筆で、コミュニケーションはアナログの方がいいというニーズの高さを示しています。

 ヌード写真には興味を隠せず、寂しい夜にはチャットセックスにも耽るセオドアですが、その相手の要求/妄想の「猫の死骸で首を絞めて」って、いったい…
 人工知能と恋愛する若者が多数派になったら、その人工知能がある日バージョンアップされて、「お国のために戦ってね」「戦うあなたって素敵」なんて一斉に言い出すような事態が生じるんじゃないかと、私のようなひねくれ者はつい思ってしまうのですが。 
(2014.7.6記)

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