たぶん週1エッセイ◆
消費者金融との包括和解協定
朝日新聞の報道
 2013年3月24日の朝日新聞朝刊に、一部の弁護士・司法書士が消費者金融との間で、過払い金の返還額を本来の返還額から大幅に減額して和解するという内容の「包括和解協定」を結んでいることが報じられました。
 以前から特定の消費者金融が、相手かまわずこの種の働きかけをしていて、私も電話でそういう話を聞かされたり事務所にやってきてそういうお願いをされたことはあります。しかし、お話にならない内容なので、拒否し、「こんな協定に乗る弁護士がいるはずないでしょ」というと、いや「大手の事務所」とこういう内容で協定しているとかいわれて半信半疑でいました。同様の経験をしている弁護士が多数いるために、債務整理・過払い金返還請求をちゃんと行っている弁護士のメーリングリストでも、以前からそういうことがあるようだと囁かれていましたが、やはり真偽のほどはわかりませんでした。そういうことが白日の下にさらされたというわけです。
 報道内容と消費者金融の態度から、どの消費者金融かは見当がつきますし、またどういう法律事務所かも予想はできますが、もし間違っていたら名誉毀損になりますので、特定はせずに説明します。

「包括和解協定」の理論上のメリット・デメリット
 こういう協定は、消費者金融側には、過払い金返還について、裁判対応するコストを減らし(協定を結んだ弁護士・司法書士との間ではそのコストをなくし)、返還する過払い金を大幅に減額するというメリットがあります。
 では、これに応じる弁護士・司法書士側には何のメリットがあるのでしょうか。法律事務所側には、理論上は、@裁判をしなくても交渉で決まった金額を回収できるので、労力と時間がかからず、特に大量処理の必要がある法律事務所にとってはさまざまな意味でコストを減らすことができる、A消費者金融側で過払いでない(利息制限法に引き直しても債務が残る)ものについて債務を減額してくれるならばそういう依頼者の事件の解決が有利になるの2点が考えられます。
 ここで、法律事務所側のと書きましたが、依頼者にも、回収の速さを特に重視する依頼者もいますから、金額が低くてもいいから早くしてくれという依頼者にはメリットになることもないではありません。また、残債のある依頼者にとってはその協定のために有利な条件で和解できるなら、もちろんメリットがあることになります。
 そういう意味で、私は、およそこういう協定を結ぶこと自体が弁護士に許されないとは考えません。

でも、現実の「包括和解協定」は納得できない
 しかし、裁判の手間といっても、弁護士は裁判をするのが仕事なわけですし、過払い金返還請求の裁判は通常の民事訴訟と異なり依頼者の負担がほとんどないのが普通ですから、そのために裁判をやれば取れるはずの金額から大幅に減額するというのは、私にはまったく理解できません(依頼者に大きな負担がかかるのなら依頼者とのご相談となりますけど)。もっとも、過払い金返還請求の裁判は、最近では消費者金融側も支払を減らすために弁護士をつけて徹底的に抵抗するケースも増えてきて、こういう協定を結ぶような手抜きの実務をやっている弁護士・司法書士は裁判をしてもきちんとした判決を取れないかもしれませんが。
 利息制限法に引き直して債務が残る依頼者について有利に解決できるとすれば、弁護士にとってはそれは魅力があるといえますが、第一にほかの依頼者の犠牲の下にそれをやっていいのかという疑問は当然にありますし、問題の業者は手当たり次第にそういう電話をかけてきていますから私も電話で言われたことはありますが言われた内容はたいして有利でもありませんでした(過払い金は何割も負けろというのに残債ありのときは当時ある意味で当然だった将来利息・経過利息のカットくらいで、私の感覚ではおよそ検討の余地なしのレベルでした)。こういう内容で、協定に応じる弁護士がいるというのは、私には理解できません。現実にそういう協定を結んでいる弁護士・司法書士の協定内容が私が聞かされたものと同じかどうかはわかりませんが、朝日新聞の報道では「借金の金利免除や分割での返済を認める」とあるので、私が聞かされた程度の内容と思います。

「包括和解協定」を結んだ人たちの問題点
 私は、内容次第では(依頼者に十分なメリットがありうるのであれば)、消費者金融と「包括和解協定」を結んでもいいと考えています。例えば、過払い金請求を本来の額から5割カットしてくれというのなら、残債がある事案も5割カットするという条件ならやってもいいかなと思います(あるいは過払いのときに総返済額よりも総借入額が多いときは過払い金請求は遠慮してくれというなら、残債ありのとき総借入額より総返済額が多いものは債務免除してくれとか)。
 私が、もしそういう協定を結んだら、その後のその消費者金融に対する過払い金請求の相談者には、「私はその業者とはこういう協定を結んでいるので、その業者については本来取れる過払い金の5割しか回収できないがそれでもいいか」と相談段階で聞くことになります。そして、それでも早く回収できるのならそれでいいという人からだけ依頼を受けることになります。そういうやり方をする限り、残債がある依頼者については有利に解決できるし、過払いの依頼者についても本人が事情を理解した上でそれを選択しているのならその人に犠牲を強いているわけでもなく問題はないはずです。
 しかし、報道で問題となっている「包括和解協定」の内容は、残債がある依頼者との関係でのメリットもそれほどなく、通常の弁護士の感覚ではその協定を結ぶことに合理性があると考えにくいものと思われます。
 そして、おそらくはこの点が一番の問題だと思いますが、その「包括和解協定」を結んでいる弁護士・司法書士が依頼者にそれを説明していないとすれば、その消費者金融に対する過払い金請求の依頼者との関係では、依頼者に対して十分な説明をしていないという意味でか、依頼された事務を誠実に遂行していないという意味で、契約上の義務に違反していることになります。
 消費者金融と「包括和解協定」を結んだ弁護士・司法書士は、その事実を決して認めないでしょうけれど、もし協定を結んでいるという事実が立証され、それが事件依頼の時点か和解をする時点で依頼者に説明されていないのであれば、単なるスキャンダルにとどまらず法的な問題にもなりかねません。

 なお、私が過払い金返還請求の依頼を受けた場合の和解の考え方については「過払い金返還請求と和解」を見てください。

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