たぶん週1エッセイ◆
映画「ジュリー&ジュリア」
ここがポイント
 実は「夫婦愛」がテーマで、料理は、生き甲斐とともに、うまく行かない時でもおいしいものを食べると気持ちが和らぐという小道具のように思える

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 1950年代にパリでフランス料理を習いアメリカ人向けのフランス料理本を出して人気者となったジュリア・チャイルドと、50年後の現代のアメリカでジュリアのレシピの料理を続けてブログを書いて人気を博したジュリー・パウエルの2人の女性の生き様を描いた映画「ジュリー&ジュリア」を見てきました。
 封切り2週目日曜日、午前中でしたがほぼ満席。東京では新宿武蔵野館とTOHOシネマズシャンテ2館だけの上映ということもあってでしょうけど、ちょっと上映館少なくてもったいない感じ。

 1949年に外交官の夫ポール(スタンリー・トゥッチ)とともにパリに住むことになった主婦ジュリア・チャイルド(メリル・ストリープ)が、英語で書かれたフランス料理の本がないことから、フランス料理を習って英語のフランス料理の本を出版しようとするお話と、50年後の現代のアメリカで公共団体の苦情窓口を務めるジュリー・パウエル(エイミー・アダムス)がストレス発散のためにジュリアのレシピ524を1年365日で制覇してブログに書くことにして夫のエリック(クリス・メッシーナ)にも励まされながら実現するというお話が、並行して展開されます。

 料理学校でうまく行かなかったりいじめられたり、夫がマッカーシー旋風でマルセイユやドイツやオスロに飛ばされたり査問されたり、出版が難航したりしても、持ち前の負けん気と朗らかさで乗り越えていくジュリアと、おおらかに妻のやることを見守っているポールの夫婦。ここでは、おばさんになりきったメリル・ストリープが、そのパワーを発揮して、何があっても動じないで図太くしかし朗らかに乗り切っていく姿を快演しています。現代のジュリーは、泣き言もいい、八つ当たりもし、夫と喧嘩したりもしますが、エリックと喜びを分かち合いながら目標に向かって進んでいきます。時代と性格、置かれた境遇も違う2人ですが、料理をすることに生きがいを見出し、温かく見守り励ます夫との愛情に満ちた暮らしを全うする点で共通しています。
 料理がテーマの映画で、料理シーンや食事のシーンが当然にたくさん出てきますが、私はむしろこの映画は「夫婦愛」の映画だと感じました。料理は、むしろ、2人の生きがいの面とともに、うまく行かないときでもおいしいものを食べると気持ちが和らぎ暖かくなるという小道具という側面を持っている感じ。そして、ジュリアとポールはたぶん50代、ジュリーとエリックは30代の夫婦の設定ですが、ごく普通に当然にHしている姿が描かれている(ストレートな絡みのシーンはなく、示唆しているだけですが)のが微笑ましい。50代夫婦のセックスライフをこれだけあっけらかんと肯定的に暖かく見ている作品は、珍しいと思います。
 破綻した家族や不倫が描かれる映画が多い昨今、こういう夫婦が普通に愛し合い暖かく結ばれている作品は、むしろ貴重になっています。そういうほのぼのとした暖かみを安心して感じられる映画として、評価したいと思います。

 ところで、ジュリアの語りで「バターは多いほどいい」って言っていますが、ジュリアが習った料理は台詞では「ヌーベル・キュイジーヌ」(字幕では単に「フランス料理」って訳してましたが)とされていました。ヌーベル・キュイジーヌって、伝統的なフランス料理の重い味付けを避けて軽い味付けにするというコンセプトだから、「バターは多い方がいい」なんて言わないはずじゃあ・・・そもそも「ヌーベル・キュイジーヌ」って1950年代にはなかったはずでもありますが・・・

(2009.12.20記)

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