庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「鑑定士と顔のない依頼人」
ここがポイント
 エスタブリッシュメントの老いらくの恋の切なさと哀れ
 謎めいた期待を高めた挙げ句に登場した依頼人はただ気まぐれなふつうの女性
 でもそういう女性に夢中になってしまうのがまた老いらくの恋の哀しさか

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 美術界のカリスマ鑑定士が顔を見せない謎めいた依頼人に翻弄されるミステリー映画「鑑定士と顔のない依頼人」を見てきました。
 封切り4週目金曜日三が日、新宿武蔵野館1(133席)午前10時10分の上映は9割くらいの入り。観客の年齢層は高め。

 美術品の真贋を見分ける審美眼に優れ美術品オークションでも高い人気を誇るオークショニア(競売人)ヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)は、人付き合いを嫌い、邸宅の秘密の部屋に自らが主催するオークションで友人の画家ビリー(ドナルド・サザーランド)に安く落札させて手に入れた肖像画のコレクションを飾り付けて1人悦に入っていた。死んだ両親の家具や絵画類を査定して売却して欲しいという依頼を受けたヴァージルは、次々と口実を付けて姿を現さない若い女性の依頼人に業を煮やすが、その地下室に落ちていた機械部品を友人の技術者ロバート(ジム・スタージェス)に見せると、ロバートはそれが歴史的に有名なカラクリ人形師の作品の一部だという。現場での作業中の電話の背景音から依頼人がその屋敷の隠し部屋にいることを突き止めたヴァージルは、依頼人クレア(シルヴィア・ホークス)から広場恐怖症で15歳の時から12年間人に会っておらず両親とも顔を合わせなかったと告げられる。ロバートの助言を受け、帰ったふりをして屋敷内に隠れたヴァージルは、隠し部屋から出て来たクレアの顔を見るが…というお話。

 美術品の鑑定士として優れた実力を持ち、巨万の富を築きながら、人付き合いを嫌い高級レストランで独り手袋をはめたまま食事をし豪華ホテルのような邸宅の秘密の部屋で肖像画コレクションを見つめて悦に入る生活を続けている、孤高のエスタブリッシュメントが、「初めての女性」との老いらくの恋に溺れるというのが、メインテーマであり、ミステリーのキーポイントとなっています。
 前半顔を見せないことで、依頼人クレアの正体に謎めいた期待が高まりますが、登場してみると、気まぐれではかなげな、しかしごくふつうの女性で、ちょっとがっかりします。顔が見えてからももう少しミステリアスな奥深さを感じさせて欲しかった。老いらくの恋となると、ただ若さということに引きずられて、気まぐれでジコチュウで脅えたふつうの女性に夢中になって周りが見えなくなってしまうということでしょうか。気まぐれなところが恋の駆け引きめいて、情緒不安定で脅えたところが「守ってあげたい」本能をくすぐるということかとも思いますが。
 引退間際になって初めて女性と寝たというヴァージルの初心さ加減、クレアへのまっすぐな思い入れと最後までクレアへの思いを断ち切れない姿が、切なく哀れです。
(2014.1.3記、2014.2.16更新)

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