たぶん週1エッセイ◆
利息制限法改悪はあまりにひどい
 2006年9月19日、自民党政務調査会の「貸金業法の抜本改正の骨子」が発表されました。
 今回、表向きは、最高裁が事実上みなし任意弁済の適用の余地をなくした判決を出して(それについてはこちら)、それをきっかけに貸金業者への規制強化の方向で法改正が議論されたわけです。でも私は、最高裁判決が出たときから、かつて最高裁が利息制限法違反の金利を支払っていた場合返還請求できるという判決を出していたのを、出資法(高金利の刑事罰)改正で刑事上違法となる上限金利を下げたりするのと引き替えに「みなし任意弁済」の規定を作って過払い金返還請求を難しくしたように、また政治家と役人と貸金業者の画策で最高裁判決が台無しになるような動きが出てこないかと心配していました(それについてはこちら)。その意味では、やっぱりという気もしますが、それにしてもひどい。
 自民党案によれば(金融庁案も同じですが)、まず利息制限法そのものの金利が引き上げられます。利息制限法は、元本が10万円未満の場合年20%、元本が10万円以上100万円未満の場合年18%、元本が100万円以上の場合年15%を超える金利を無効と定めています(利息制限法についてはこちら)。これを元本の区切りを変えて50万円未満は年20%、50万円以上500万円未満は年18%、500万円以上は年15%にするというのです。消費者金融からの借入はほとんどが1業者につき10万円以上50万円未満です。この場合、現在は利息制限法の上限金利は18%なのにそれが20%に引き上げられるのです。また、自営業者などが商工ローンから借り入れる場合の多くは1業者につき100万円以上500万円未満です。これも現在は上限金利が15%のものを18%に引き上げることになります。つまり、現実の借入の大部分について利息制限法の上限金利を引き上げることになるのです。これはとんでもない改悪です。この改悪の理由は物価上昇と説明されていますが、利息制限法が制定された頃と比較して銀行の貸出金利は大幅に下がっています。消費者金融の調達金利もかなり下がっているはずです(消費者金融連絡会発行のタパルス白書2005年版によれば、2005年3月期の大手5社の期中平均調達金利はアコムと三洋信販が1.61%、アイフルが1.67%、プロミスが1.74%、武富士が2.22%、ちなみに平均貸付金利は武富士が21.74%、プロミスが22.71%、アコムが23.55%、アイフルが24.60%、三洋信販が24.82%です)。そもそもこの低金利時代に現在の利息制限法の年18%の金利自体高金利と考えられます。これを下げる議論をするのならわかりますが、どさくさ紛れに利息制限法の金利を引き上げてしまおうというのですから、あきれます。
 そして、「少額短期」の特例金利です。私は、特例金利の報道を見て、特例の金利が何%とか何年とかいうことよりも、その範囲の金利の法的効果の方が気になっていました。特例金利が民事上違法刑事上合法の「グレーゾーン」なら、それほどの影響はないと考えてきました(でも、そう言ってしまうと、グレーゾーンをなくせと運動している日弁連と消費者側の弁護士の足を引っ張りかねないので黙っていました)。でも、自民党案を読んではっきりしました。特例金利は「グレーゾーン」ではなく民事上も合法(「シロ」)とされるのです。自民党案の文言では「少額・短期基準又は少額短期利率の要件に反する貸付は利息制限法上の上限金利を超える部分を民事上無効とするとともに、刑事罰対象とする。」とあります。これは要するに少額短期に当たれば利息制限法の上限金利を超える部分も民事上無効でないということです。これも明らかに利息制限法の改悪です。
 現状では弁護士に依頼したり裁判を起こす一部の人だけが利息制限法の金利を超える部分を取り返せて、他の多くの人は利息制限法の恩恵を受けないというのは正義に反するというのが、「グレーゾーン」をなくせという、(表向きの)改正の動機だったはずです。しかし、少なくともこの2点の利息制限法改悪で、現在弁護士に依頼したり裁判を起こせば(ほぼ確実に)過払い金を取り戻せる人も、その部分は取り戻せなくなってしまうのです。
 これを利息制限法改悪と呼ばずに何と呼びましょうか。
 法改正とは別に、金融庁は、貸金業規制法の施行規則を改正しています。2006年1月の一連の最高裁判決は、期限の利益喪失約款(支払が滞ったら月々の支払額だけでなく残額を一括ですぐ払えという契約条項)がある場合には事実上強制されて支払うことになるので、借り主が利息制限法の上限金利を超える部分を払わないと期限の利益を喪失するという誤解がないような「特段の事情」がない限りは任意性がないとしてみなし任意弁済が成立しないとしました。これを受けて、金融庁は、契約書に期限の利益喪失約款が「(利息制限法1条1項に規定する利率を超えない範囲においてのみ効力を有する旨)」と書かせることにしたのです。
 こんなことを書かれても、普通の人は何のことかわかりません。そもそもたいていは契約書の裏側に薄い小さな文字でぎっしり書かれている中にこういう言葉があること自体気がつきもしないでしょう。それに気がついて意味がわかったとしても、消費者金融から借入をする人のほとんどは何度も繰り返して借りる必要があって返してはまたすぐに借りることを繰り返しているわけですから、そんなことを言って約束した高金利の一部(利息制限法の範囲内)しか払わなかったら消費者金融が追加の貸付をしてくれないことを恐れて消費者金融の言いなりに払うしかないでしょう。
 それでも、こういうことが契約書に書いてあると、裁判官が、それをわかって支払ったのであり任意だったと判断することになる可能性がかなりあります。この改正によって、裁判所の判断が(みなし任意弁済の規定ができたときのように)大きく後退して、消費者側の弁護士が、裁判所を説得しなおさなければならない(それにまた何年もかかる)危険性があります。このあたり、目につかないところで事実上貸金業者をサポートする役人の悪知恵という感じがします。
 こうして、最高裁判決を後退させようとする政治家・役人・貸金業者の策略がすでに出てきていますが、法律の改正はこれからです。利息制限法の改悪・消費者金融の火事場の焼け太りを許さないよう、監視し、反対の声を上げていきましょう。
追伸:報道によれば10月24日の自民党金融調査会の幹部会で、利息制限法改悪となる特例高金利と金利区分の変更の2点については撤回という方針を固めたとのことです。
 2006年10月31日、与党合意を受けた貸金業規制法等の改正案が閣議決定され、国会に提出されました。それについてはこちら
 2006年12月13日、貸金業規制法等の改正案が全会一致で可決され、法律となりました。

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