庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「聖の青春」
ここがポイント
 名人で既婚者の羽生に、自分の夢は名人になることと一度でいいから女を抱きたいという聖の心境は?
 この映画、吉野家から製作費を出してもらっていないのだろうか?

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 早世した棋士村山聖の生涯を描いた映画「聖の青春」を見てきました。
 封切2日目日曜日、新宿ピカデリースクリーン3(287席)午前10時55分の上映は、9割くらいの入り。

 子どものころネフローゼ(腎臓疾患)と診断され入院生活中に覚えた将棋に夢中になり、森信雄(リリー・フランキー)を師匠として大阪でプロの棋士になり活躍していた村山聖(松山ケンイチ)は、24歳の1994年、対局に赴く途中で道に倒れるほど腎臓が悪化していたが、頂点を極めつつあった1つ年下の羽生善治(東出昌大)のそばで将棋を指したいと、東京に転居する。病状が悪化し膀胱がんも発見されて医者からは手術を強く勧められながら麻酔をしたら脳に響く、将棋が弱くなりたくないと拒否し、対戦成績5勝6敗で迎えた羽生との対局で、聖は控室が驚く一手7五飛から羽生を追い込み勝利する。懇親会の席から羽生を居酒屋に誘い出した聖は、羽生に夢を語るが…というお話。

 東京の名人に対してライバル意識を燃やす大阪の野性的な棋士という構図は、私には、「王将」、阪田三吉をイメージさせるのですが、そのアナロジーは避けてあくまでも現代的に、不器用で不健康な生活を送る野性的な棋士と健康的で上品な天才棋士のマナーに則った対決の物語として描いています。
 聖が羽生を誘い出して居酒屋で語るシーンが2人の関係、人柄を印象付けています。少女漫画は?競馬は?と聞く聖に対し、読まない、やらないとあっさり答える羽生、趣味が合いませんねぇ…と、私生活の対比を見せつつ、会話にも行き詰まる2人。そこで聖が、自分には2つ夢がある、名人になって将棋をやめること、一度でいいから女を抱きたいと語ります。すでに名人を含め4冠を保持し、元歌手の畠田理恵と結婚している、つまり聖の夢をどちらも実現している羽生に、それを語る聖はどういう心境だったのでしょうか。普通に考えると、ライバルに対して、屈するような、うらやむような、弱みを見せる発言、意地でもするものかと考えると思うのですが、それを卑屈にならずに直球でぶつける聖と、答えようもないけれど反発することも諭すこともなく淡々としている羽生。他の棋士には憎まれ口を聞きダメ出しをする聖が、羽生にはなぜかあまりに素直に心を開き、負けて死にたいと思うほど悔しいという羽生が優しい(線が細いとも)気持ちでいるところが、従来のライバルものと違う関係性を示しているように思えます。
 この聖が勝って対戦成績を五分にした一戦、映画では雪国で行われたという描写です(雪原で松ケンなので、単純に青森かと思ってしまいました)が、史実としては1997年2月28日の竜王戦(予選)での対局で、場所は東京の将棋会館。念のため調べるとその日の東京は最低気温が6.7℃でもちろん降雪なし。ドキュメンタリーじゃなかったの?聖が前泊して見つけた鄙びた居酒屋、主人が有名人とわかっていても話しかけてこない、わかっていてもそぶりも見せないって、ただ知られていなかっただけだし、聖が気にいったのも、たぶん、店の名前が「よしのや」ということでしょうし…
 この作品で、聖が繰り返す、「牛丼は吉野家、シュークリームはミニヨン、お好み焼きはみっちゃん…」。ミニヨン、みっちゃんは特定の店の名前で全国的な影響力はありませんが、吉野家はタイアップかと思うほど。松屋やすき家の関係者は歯噛みして悔しがっているのではないかと。
(2016.11.20記)

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