庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「新聞記者」
ここがポイント
 問題提起は明確だが、それを意識しなくてもエンターテインメントとしてテンポと展開がいい作品だと思う
 最後の告発が本来は資料にアクセスできない杉原の手によってなされる設定に今の日本の重苦しさを見るべきか
  内閣官房vs女性記者(公式サイト)の闘いを描いた「前代未聞のサスペンス・エンターテイメント」映画「新聞記者」を見てきました。
 公開2週目日曜日、新宿ピカデリースクリーン9(127席)午前11時45分の上映は、ほぼ満席。観客の多数派は中高年層。年齢を問わず2人連れ・3人連れが多数を占め、1人客は目に付きませんでした。1人で楽しむのではなく、話題にしたい映画なんだと思います。

 東都新聞の記者吉岡エリカ(シム・ウンギョン)の下に匿名の人物からサングラスをかけた羊のイラストを付けた大学新設計画に関する文書がFAX送信されてきた。その頃内閣情報調査室では、上司の多田(田中哲司)の指示を受けて、外務省から出向中の若手官僚杉原拓海(松坂桃李)が、退職した文科官僚の野党女性政治家との密会写真撮影に成功し、新聞各社にリークする業務を遂行していた。吉岡は、その元文科官僚にFAXを見せ、文科省が拒否した案件を内閣府が引き取って特区に開設を目指していることを確認する。ジャーナリストだった父親がかつて政府の銀行私物化のスキャンダルをすっぱ抜き、それが誤報だと攻撃される中、父が死亡し、自殺だとは信じられず今もなおその真相を追い続けている吉岡は、この内部告発の真相を知りたいともがくが、上司の陣野(北村有起哉)から社にこのネタを報じたら誤報になると圧力がかかっていることを知らされる。杉原の下に外務省時代の上司神崎(高橋和也)から連絡があり、杉原は世話になった先輩との懇親に喜んで応じるが、神崎は「お前は俺のようになるなよ」と言って、後日霞が関のビルから投身自殺してしまう。問題の大学新設の担当者都築(高橋努)を追った吉岡は、自分は引き継いだばかりだ、前任者に聞いてくれと言われ、その前任者が神崎であったことを知り…というお話。

 この作品の成り立ちからして、現政権とその下で変容した日本社会の暗部・閉塞感を読み取ることが予定されていますが、あれこれ考えなくても単純なサスペンスとしてスッと引き込まれ、最後まで引っ張っていってくれます。エンターテインメントとしてテンポと展開がいい作品だと思います。
 内閣情報調査室が、照明を落としモノトーンで描かれているのは、ステレオタイプだという批判もあるでしょうけれども、「モモ」(ミヒャエル・エンデ)の灰色の男たちのようで、まぁわかりやすくていいかなと、私は思いました。

 主人公を日本人の父と韓国人の母を持ちアメリカで育ったと設定し、韓国人女優をキャスティングしたのは、気に入らない存在は誰でも「在日」認定したがるネトウヨ与党サポーターズへの皮肉なのか、今や同調圧力に屈しないのは日本社会外から来た者だけということか、あるいは制作サイドの意図ではなくて若手日本人女優で受ける者がいなかったのか…

 最終的に吉岡に記事を書く決意をさせる証拠が、大学新設の担当者なりその資料にアクセスできる権限を持つ者からではなく、担当者ではなく本来は資料にアクセスできない杉原の手から提供されるという設定、そこで誤報攻撃が来たときには杉原の実名を出してよいということの意味、新聞記者はそれをどう位置づけてどう評価すべきなのか、そこは見ていてちょっとあれっ?と思ったのですが、「ペンタゴンペーパーズ」などと比べて、日本の現状は、そうでもしないと…という、より暗いものと見ておくべきでしょうか。
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(2019.7.8記)

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