庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「TENET テネット」
ここがポイント
 大がかりなアクション、「第三次世界大戦」という言葉と、結局は一個人が鍵を握る展開のギャップが大きい
 時間に沿って進む者と時間を逆行する者が併存するというアイディアだが、両者は会話ができるのか、疑問に思う
    
 時間の流れを逆行して未来から来る人類滅亡の危機を阻止すべく主人公が奮闘するSFアクション映画「TENET テネット」見てきました。
 公開3日目日曜日、新宿ピカデリーシアター3(287席/販売135席)は、販売部分で見ると9割くらいの入り。コロナ後初めてと言っていいハリウッド超大作に観客の期待が集まりました。

 満員のキエフのオペラハウスを襲ったテロ事件の際に特殊部隊の装いで突入した主人公(名前は示されない:ジョン・デイビッド・ワシントン)は、テロリストに拘束されて拷問されるが仲間を売らずに服毒し、気がつくと船上で、キーワードはTENETというだけの特殊任務を告げられた。連れられて訪問した研究所で研究員バーバラ(クレマンス・ポエジー)から未来から送られてきた物質と時間を逆行する弾丸を示され、任務は第三次世界大戦を防ぐことと伝えられた主人公は、仲間となったニール(ロバート・パティンソン)とともに、弾丸の出所を追って忍び込んだ富豪の家で実権を握る妻プリヤ(ディンプル・カパディア)からプルトニウムを狙う武器商人セイター(ケネス・ブラナー)が鍵を握ると知らされ、セイターと接触するためにその妻キャット(エリザベス・デビッキ)に近づく。美術鑑定士であるキャットが愛人と疑われる男の贋作を本物と偽ってセイターに高額で買わせていたことを掴んだ主人公は、キャットの関心を惹くためにセイターがその贋作を保管している空港の保税地域(未通関地域)内の倉庫に航空機を突入させて火事を起こして贋作を消失させようとしたが、そこで未来から逆行してきた男と格闘するハメになり…というお話。

 非常にゴージャスな映像作品であることはわかる(本当にジャンボ機1機燃やしたらしい)のですが、見ていてわかりにくい作品です。
 通常のタイムトラベルものでは、未来から来た者は、登場してからは他の人物と同様に時間に沿って行動するのですが、この作品では、時間を逆行する者が度々登場します。しかも、挟み撃ち作戦ということで、未来からやってきた者がある者は時間に沿って(順行で)動き、ある者は時間に逆行して動くという場面があります。時間を逆行する場面では、車の進行や地雷の爆発、銃弾の発砲等が逆回しになり、その中で人は通常の動きをしたりして、斬新な映像ではありますが、やや気持ち悪く思えます。
 そもそもタイムトラベル、時間の逆行ということ自体が(量子レベルの議論はさておいて、人間の生活レベルでは)非現実的な設定ですが、そこを置くとして、時間を逆行する者と順行する者が併存するとき、両者の間に会話や格闘その他のコミュニケーションが可能でしょうか。逆行する者が発した言葉は順行する者の耳には逆さに聞こえるはず(逆行する者が後に発した音声が、順行する者のより前の時間の時に届く)ですから、逆さにしゃべらないと会話が成り立たないはずなんですが。

 主人公のミッションは、第三次世界大戦を防ぐことだったはずなのですが、その危機は、いつのまにか、一個人の怨念・信念、一個人の生死が鍵を握ることになってしまいます。その点も、ストーリー展開として、竜頭蛇尾というか、肩透かしっぽく感じてしまいます。

 見ていて疑問に思ったのは、冒頭のオペラハウスのテロの際、主人公がいかなる立ち位置で何を目的に突入したのかです。
 公式サイトのSTORYでは、「特殊部隊が館内に突入する。部隊に参加していた名もなき男」と紹介されてます。主人公はどこの国の特殊部隊に所属していたのでしょうか。ウクライナ政府でしょうか。待機していた車両中で、駆けつけた他の特殊車両のマークに合わせたワッペンを配って付けていたところからすると、政府の特殊部隊を偽装した部隊と見えます。また、「アメリカ人を起こせ」という発言があったことからして、CIA等のアメリカ政府のものでもないと思われます。そして、主人公は、合い言葉をやりとりし、何かを探している様子があり、後で登場するものに似た四角い金属ケースも登場していました。また、単に対テロ制圧のために突入したのであれば、拷問されて聞き出される秘密もないでしょう。最初の方で記憶がはっきりしない部分が多いのですが、私には、主人公は最初の時点から特殊な任務、たぶん後で従事することになっている任務にすでに従事していたのではないかと思えてしまうのです。勘違いかも知れませんが、ふつうに解説されている以上にあれこれ入れ子構造がある複雑な話なのかなと感じます。
(2020.9.20記)

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