たぶん週1エッセイ◆
映画「ゼロの焦点」
ここがポイント
 暗く辛い過去を引きずりながら女たちが苦界に身を沈めなくてよい社会を作ろうと奔走する室田佐知子のりりしさが際だち胸を打つ
 重い映像、シリアスな表情の映画でヒロスエのナレーションだけが浮き、違和感を与える

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 松本清張生誕100年記念映画「ゼロの焦点」を見てきました。
 封切り2週目土曜日午前、3〜4割の入りといったところ。客層は中高年というか高齢者層中心。

 過去を語りたがらない広告会社社員鵜原憲一(西島秀俊)と見合い結婚した禎子(広末涼子)が、新婚7日にしてこれまでの勤務地の金沢支社の引継のために出張したまま失踪した夫の謎を解くために金沢に赴き、夫の担当していた取引先の室田耐火煉瓦の社長(鹿賀丈史)、社長夫人佐知子(中谷美紀)、受付嬢田沼久子(木村多江)を訪ねて話を聞くうち、金沢に来ていた憲一の兄宗太郎(杉本哲太)、事件を調べていた憲一の後任者(野間口徹)が殺害され・・・というお話。

 戦争と戦後の貧しさ・占領下の暗く辛い過去と決別して新しい人生を歩みたいと考える登場人物の葛藤・生き様と、初の女性市長の誕生に向けて運動を繰り広げる女性たちを重ね合わせて、物語が進行していきます。そのあたりのテーマ展開からして、戦後の貧しい時代の日本の記憶なり思いがあるかによって、映画に入り込めるかが左右されそうです。私は、年の割に古い貧しい時代への思いを持ちがちなものですからどっぷり浸ってしまいましたが、そうでない世代には、ミステリーとしての興味が持てなければ辛そうです。だから客層が高齢者中心なんでしょう。
 暗く辛い過去を引きずりながら、だからこそ日本に民主主義を根付かせよう、女たちが苦界に身を沈めなくてよい社会を作ろうと奔走する室田佐知子のりりしさが際だち、胸を打ちます。そして、そのために多くの人々が払った犠牲に、献身の精神に、打たれました。
 ミステリーですから、具体的には書きませんけど、ラスト付近での愛憎劇には涙を禁じ得ませんでした。とりわけ田沼久子の語りと最後の行動には感動を覚えました。そして、選挙運動に奔走する妻に批判的に見えた室田社長が最後に見せた妻への愛も、驚き涙しました。

 多くの登場人物が暗い過去を引きずりそこから脱却しようと努力している中、主人公の禎子一人が、何の苦労も知らないお嬢さんで、重い映像、シリアスな表情の映画でヒロスエのナレーションだけが甘えた舌足らずの語りで浮き、違和感を与えています。ただ、最後まで見ていると、益太郎が、マリーが、望んだ「新しい人生」や、金沢の女性たちが目指した日本初の女性市長が実現する新しい日本とは、こういう何も知らないお嬢さんがのほほんと生きていけるような社会をも意味しているわけで、そこにこそ、ヒロスエが主役に置かれた狙いがあるのかも、とも、こじつけっぽいですが、思いました。そうでなかったら、もっとシリアスな語りができる人を選びますよね、ふつう。
 それと、世間知らずのお嬢さんのヒロスエが、突然スラスラと事件の真相を語ってしまうのも、進行上仕方ないんでしょうけど、違和感が残りました。

 どうでもいいですが、益太郎の久子へのおみやげの三越の包み、中身は何だったんでしょう。

(2009.11.21記)

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