庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

女の子が楽しく読める読書ガイド
氷の心臓 (原題:FROSTFEUER)
カイ・マイヤー作  2005年
 1893年のロシアのサンクトペテルブルグのホテル・オーロラを舞台に、ホテル・オーロラで生まれ育った12歳の少女マウスと、雪の女王、雪の女王の暗殺をもくろむ魔女タムシンを中心に、ホテルの人々、ロシア皇帝、秘密警察らが繰り広げる騒動を描いたファンタジーです。
 マウスは、無政府主義者の母がロシア皇帝暗殺グループの一味として逮捕される直前にホテル・オーロラで生まれ、連行され処刑された母に会えないままホテルで育てられ、ホテルから一歩も出ることなく、少年の身なりで靴磨きをする「メイド・ボーイ」として生活しています。マウスは冒頭では、ホテルから雪の戸外に出ることを極端に怖がり、エレベーター・ボーイから嫌がらせを受けて閉め出され玄関まで回ることさえ一人ではできない存在と描かれています。そのマウスが、ホテル・オーロラを訪れた雪の女王とタムシンに翻弄され、親しみと反発を感じながら、恐怖を克服し、雪の女王に囚われて少年の姿に変えられたトナカイのエルレンの救出や暗殺の阻止のために前進していきます。物語の第1の軸は、このマウスの成長物語として進行します。
 物語のもう一人の主役、魔女タムシンは、雪の女王に支配された民から雪の女王の暗殺を頼まれ、雪の女王に返り討ちにあった父親の遺志を継いで雪の女王の「氷の心臓」を盗み取って雪の女王の力を弱め、「氷の心臓」を取り戻すためにタムシンを追って来た雪の女王にホテル・オーロラでとどめを刺そうとします。
 そして雪の女王は、弱りながらも、吹き出す「原初の寒さ」と魔法の力でタムシンとの戦いを続けます。
 このタムシンと雪の女王が、言葉と策略でマウスの心を奪い合い、さらには魔法と武器で繰り広げる力づくの死闘が物語の第2の軸です。
 物語の第3の軸としては、後半、ロシア皇帝の暗殺計画、次々と暴かれるホテル・オーロラの人々の秘密とマウスの出生の秘密、という展開があるのですが、どちらかと言えばタムシンと雪の女王の虚々実々の駆け引きと死闘、それに翻弄され惑いながらがむしゃらに進むマウスの方に目が行って秘密関係は脇に押しやられる感じです。

 3人の主要な女性キャラの存在感、とりわけタムシンの怪しげな魅力と、マウスの成長ストーリーといったあたりが、女の子が楽しく読めるという観点からはプラスです。
 しかし、マウスの最初の怖がりぶりの書きすぎ、全体として明るさを感じにくい設定と展開、タムシンに味方したり雪の女王に味方したり腰が定まらないマウスの姿勢といったあたりが残念。
 その迷走を、最終的にどの時点でも自分はそうしたいと思うことをやってきたと全肯定するのは、無節操というべきでしょうか、ポジティヴ・シンキングというべきでしょうか。涼やかなラストとあわせ肯定的に見ておくべきでしょうか。

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