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碧空の果てに
ここがポイント
 力持ちで自立心の強い少女メイリンが男性優位の世界で生きる場所を見いだすお話
 ラスト15ページほどの展開が爽やか

 お薦め度:星イメージ星イメージわりとお薦め/

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濱野京子
2009年
 大陸の盆地にある平原に分立する小国の均衡が西方の大国アインスの侵略に脅かされている状況の下で、東北の小国ユイの王女メイリンが17歳の誕生日を前に馬を駆って国を出奔し、アインスに屈せずにいる選挙で首長を選ぶ自由の国シーハンを訪れ、機知に富むが冷徹な首長ターリの下で従者としてターリを支えながらターリを励まし民衆と心を通わせ明るさを取り戻させつつともにアインスの野望を押し戻し、メイリンはシーハンで生きる場所を見出していくというファンタジー。

 メイリンは、成人の男2人でようやく持ち上げる物を軽々と持ち上げる並はずれた力持ちで、国で一番の馬使いと設定されています。そして、ユイでもシーハンでも政治は男がするもので、メイリンは幼い弟よりも遥かに能力がありながら、婿を娶って夫に従って生き、その婿が弟を支えるのが国王である父の願いという状況に息苦しくなって国を出奔します。
 しかし、首長を選挙で選ぶ自由の国シーハンでも政治が男の独占下にあり選挙権を持つのも男だけ。シーハンでメイリンが助けた少女ロロも、政治に関心を持ちながら、女なんてつまらないと嘆いています。シーハンの首長ターリは車いすに座ったまま、塔に引きこもって政治をしています。体力ではメイリンが勝るものの、情報量や判断力ではターリに到底及びません。その状況の下でメイリンは、ターリを民衆の前に引きずり出してみせると心に誓い、ターリの従者となり、情報を共有しながら意見していきます。そして、メイリンは、従者としてターリを支えながらターリの心を開き、歩こうとする意欲を引きだして行き、またシーハンの謀略と共に闘っていきます。しかしそれでもメイリンはあくまでもターリの従者という位置を動こうとしません。
 この、体力的には女性のメイリンが勝るという設定は、目新しいものの、あくまでもメイリンが従者であり続けることは、力量のある女性も自分の意思で男を補佐して男を立て自分は陰に回れというメッセージでもあり得ます。
 また、メイリンに夜伽を命じ力づくでも思いを遂げようとしたターリを、そのときは拒絶しつつも、後には性交渉を持つことも、どこかスッキリしないものを感じます。
 その意味で、もしこの作品がターリと民衆がメイリンの力も得てアインスの野望を打ち砕いたところまで(253ページまで)で終わっていれば、むしろ能力があり意欲もある女性キャラを立てながらそういう女性も男性の補佐に回りなさいという作品として、私はここで紹介しなかったと思います。
 しかし、その後、メイリンはシーハンで牧場主として自立し女性も含む者たちに乗馬(騎馬)を教えながら諸外国を自由に旅し、ターリとの関係もときおり通ってともに過ごすという自由な関係を維持し、ターリはそれを受け容れ、政治方針としても女性の参政権を認めることを宣言します。また、ロロも、自分のやりたいことをさせてくれる男を伴侶に選んでいきます。このラスト15ページほどの展開が、それまでのどこか重苦しい展開と対照をなすように爽やかです。その前からもう少しメイリンに伸びやかに活躍してもらいたかったという気もしますが、このメイリンの自立して自由な生き様と自由対等な男女関係、そして基盤でありながらもファンタジーでは地味な女性の参政権を掲げたことを評価して、少しお薦めすることにしました。

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