庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

女の子が楽しく読める読書ガイド
長くつ下のピッピ PIPPI LANGSTRUMP
ここがポイント
 世界一つよい女の子、父親にも力勝負で勝つ、最高に元気な女の子の物語
 お行儀の悪さは、親の目には気になるが、そこが子どもには人気かも
 フェミニズムの観点からは最高でも、民族・人種差別の観点からは疑問あり

 お薦め度:星イメージ星イメージ星イメージ星イメージかなりお薦め/

Tweet 

アストリッド・リンドグレーン作
長くつ下のピッピ(原題:PIPPI LANGSTRUMP)1945年
ピッピ 船にのる(原題:PIPPI LANGSTRUMP GAR OMBORD)1946年
ピッピ 南の島へ(原題:PIPPI LANGSTRUMP I SODERHAVET)1948年
以下、引用は岩波少年文庫の新版(2000年)によります。
 何といっても、「世界一つよい女の子」です。
 ピッピは破天荒でお行儀の悪い力持ちの9歳の女の子。大きくなったら海賊になると宣言しています。学校嫌いで、もちろん算数や字の読み書きも苦手ですが、そういうことも含めて、子どもには魅力的な主人公ですね。
 「長くつ下のピッピ」では、サーカスで大力アドルフと対決します。その時の台詞がふるっていますよ。友達のアンニカが「でも、負かせっこないわ」「あの人、世界一つよい男ですもの!」というのに対してピッピは「そう、男よ」「でも、よくって?わたしは世界一つよい女の子なのよ!」(長くつ下のピッピ146頁)。
 いじめっ子をやっつけ、お巡りさんもやっつけ、牛を持ち上げ、「世界一つよい男」に勝ち、泥棒もやっつけて、火事の屋根裏から子どもを救い出し(長くつ下のピッピ)、馬を虐待する大人をやっつけ、虎を押さえ込み、町の暴れ者をやっつけ、ドアの上に馬と4人の大人と4人の子どもを乗せて持ち上げて芝生を25回まわり(ピッピ船にのる)、サメを投げ飛ばし、盗賊をやっつけ(ピッピ南の島へ)と大活躍します。これだけ元気のいい女の子のキャラは、なかなかお目にかかれません。
 それに加えて私が感心したのは、「ピッピ船にのる」で父親のナガクツシタ船長が帰ってきて、ピッピと力比べをするシーン。まず腕相撲で互角。「わたしが十になったら、わたしのほうが勝つようになるわよ」というピッピに、父もそう思う(ピッピ船にのる171頁)。その後とっくみあって最後にピッピが父親に乗っかり「こうさんする?」「うん、こうさんだ」(ピッピ船にのる181頁)。そして庭での力比べで「いや、まさに、おまえは、わしよりつよいわい」(ピッピ船にのる202頁)。女の子が父親を乗り越えるシーンって物語ではなかなか見ないですよね。作者は女性だからそこにはあまりこだわりはないかもしれないけど。
 隣に住む友達のトミーとアンニカのコンビはいかにもステレオタイプでアンニカの怖がり・泣き虫ぶりが引っかかりますが、まあこれはピッピの引き立て役と考えましょう。
 ピッピについては、好き嫌いがはっきり分かれがちです。
 その1。あまりに強くて、親がいなくて親の残したたくさんの金貨で金に困らずに1人で生活してるって、あまりにも都合がいい非現実的な設定。でも、おとぎ話・ファンタジーの設定は元々非現実的なもの。非現実的な力持ちだって、金太郎、力太郎、八郎なんていう男の怪力系の話に「非現実的」なんて非難は聞かないですよね。親が莫大な遺産を残してって都合のいい設定も、気にしてたらハリー・ポッターなんか読めません。ピッピだけが気になるなら、それはやっぱり、性別役割とか女性の自立についての固定観念の所産じゃないのかなあ。
 その2。学校嫌いとあまりのお行儀の悪さに、自分の子どもに読ませるのは躊躇。感覚的には、親としてわからないでもないけど、子どもにはそこが魅力的なのだし、子どもってそういうお話を読んだから自分もって思うほど単純じゃないですよね。
 さて、私がピッピについて引っかかるのは、ピッピのほらばなしというか口からでまかせぶり。その内容が、書かれた時代にはあまり気にならなかったのかもしれないけど、いかにも「後進国」をバカにしたエスニックジョークと感じられるんですね。エジプトでは誰も彼も後ろ向きに歩く(長くつ下のピッピ19頁)、インドシナ人は逆立ちして歩く(長くつ下のピッピ20頁)、ベルギー領コンゴ人は一日中嘘のつきどおし(長くつ下のピッピ20頁〜21頁)、ブラジルじゃあ誰も彼も髪に卵をかけて歩き回っている(長くつ下のピッピ25頁)、グアテマラじゃ足を枕に載せて寝る(長くつ下のピッピ50頁)、アルゼンチンでは勉強は禁止されている(長くつ下のピッピ86頁)、アメリカでは溝は子どもでぎっしり満員で冬になったら子どもたちは凍り付いて頭だけ出している(ピッピ船にのる25頁)、南アフリカでは子どもに熱があると電灯にぶら下げる(ピッピ船にのる56頁〜57頁)など。それから、白人(スウェーデン人)の船長が遭難して流れ着いた島(クレクレドット島)で「黒人の王様」になる(白人が黒人を統治する)という設定もなんだかなあ。
 そのあたりの人種・民族問題への感覚には疑問を感じつつ、でも女の子が気持ちよく読めるという点では、やっぱりイチオシでしょうね。

**_**区切り線**_**

女の子が楽しく読める読書ガイドに戻る女の子が楽しく読める読書ガイドへ   読書が好き!に戻る読書が好き!へ

トップページに戻るトップページへ  サイトマップサイトマップへ