庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

    ◆行政裁判の話
  行政不服審査

ここがポイント
 行政不服審査を受けないと行政訴訟を起こせない場合が多くある
 認容率が低く期間もかかるが、意外に柔軟な結果を得られることもある(私の経験でも)
    
先に行政不服審査を受けてからでないと行政訴訟(取消訴訟)を起こせない:不服申立前置主義
 行政処分に対しては、直ちに訴訟(取消訴訟)を起こすことができず、まず行政に対して不服申立(審査請求)をしなければならないと定められていることが少なからずあります。
 行政事件訴訟法第8条第1項は「処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。」と定めているのですから、これを見れば、不服申立を先行させる必要はないのが原則と見えますよね。でも但し書きで「ただし、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない。」とされていて、そういう規定がある行政処分が多いというわけです。こういうところ、行政法はわかりにくくできているのです。

法改正で不服申立前置が整理・縮小されたのですが…
 2014年の法改正前、不服申立前置を定める法律が96あって、審査請求+再審査請求の2段階の不服申立をしないと取消訴訟が起こせないと定める法律が21あったそうです(総務省の整理:こちらを見てください)。2014年の法改正で、2段階の不服申立を強制する制度は全廃され、不服申立前置は縮小されましたが、実際に不服申立が多い手続は、廃止すると裁判所の負担が大きいなどの理由で不服申立前置が残されましたので、よくある行政処分の多くは、今でもまず行政に不服申立(審査請求)をしてからでないと取消訴訟を起こせない制度になっています。

2014年法改正で行政不服審査申立不要となったのは
 2014年の法改正では、原子炉等規制法の不服申立前置主義の規定が廃止され、原発の設置許可等の処分に対し周辺住民が直ちに取消訴訟を起こせるようになりました。同様に不服申立前置がなくなった法律で一般人になじみ深そうなものとしては戸籍法、住民基本台帳法、建築基準法、児童手当法、児童扶養手当法などがあります。

今も行政不服審査申立てが必要なのは
 他方、税金関係(国税通則法第115条第1項、地方税法第19条の12)、健康保険の資格や保険給付(傷病手当金など)(健康保険法第192条)、国民健康保険の保険給付(国民健康保険法第103条)、厚生年金の資格や保険給付(厚生年金保険法第91条の3)、国民年金の資格や保険給付(国民年金法第101条の2)、労災の保険給付(不支給決定等)(労働者災害補償保険法第40条)、雇用保険給付や育児休業給付(雇用保険法第71条)、生活保護(生活保護法第69条)などの市民の生活に重大な影響があるものに、審査請求前置の規定が残されています。
 公務員に対する懲戒処分(免職を含む)などの不利益処分(国家公務員法第92条の2、地方公務員法第51条の2)、地方公務員の公務災害(労災)(地方公務員災害補償法第56条)などの公務員に関する処分も審査請求前置とされていますし、じん肺の認定(管理区分の決定)(じん肺法第20条)、アスベスト被害の認定や救済給付(石綿による健康被害の救済に関する法律第77条、78条)、公害(大気汚染・水質汚濁等)健康被害の認定と補償給付(公害健康被害の補償等に関する法律第108条)などの健康被害の認定や補償に関する処分でも審査請求前置とされています。

行政不服審査の実情:総務省統計から
 総務省が不定期に行っている「行政不服審査法等の施行状況に関する調査」の最新版(2021年6月8日発表)で、行政不服審査の実情を簡単に見てみましょう。

国の処分に対する審査請求
 まず国の処分に対する審査請求で、2019年4月1日から2020年3月31日までの1年間に裁決が出されたものは27,245件あり、全体で申立認容(裁判でいえば勝訴:「一部勝訴」を含む)が1,395件(5.1%)、棄却(裁判でいえば敗訴)が14,904件(54.7%)、却下(門前払い:審理せず)が10,946件(40.2%)でした(総務省発表から、申立人の死亡等により裁決に至らず終了したものを除外して裁決に至ったものだけで計算し直しています)。
 分野別では情報公開・個人情報保護関係が11,150件(認容は367件:3.3%)、社会保険関係(健康保険、厚生年金、国民年金、船員保険:労災保険等は含まない)が6,694件(認容は397件:5.9%)、出入国管理及び難民認定法関係が4,647件(認容は1件:0.0%)、その他が4,754件(認容は630件:13.3%)となっています。
 審理期間は、3か月以内が12.2%、3か月超6か月以内が18.9%、6か月超9か月以内が17.5%、9か月超1年以内が32.3%、1年超2年以内が14.5%、2年超が4.6%あります(こちらは「その他」が仕分けされていないので、裁決に至らずに終了したものも込みの数字です)。

国の処分に対する再審査請求(裁決に対する不服申立)
 2019年度に裁決が出されたものは1,800件であり、全体で認容が127件(7.1%)、棄却が1,496件(83.1%)、却下が177件(9.8%)でした。
 分野別では社会保険関係が1,276件(認容は94件:7.4%)、労災保険関係が442件(認容は29件:6.6%)、生活保護関係が37件(認容は0件!)、その他が45件(認容は4件:8.9%)となっています。
 審理期間は、3か月以内が0.4%、3か月超6か月以内が7.3%、6か月超9か月以内が40.8%、9か月超1年以内が34.5%、1年超2年以内が15.1%、2年超が1.8%あります。

地方公共団体の処分に対する審査請求
 2019年度に裁決が出されたものは9,726件であり、全体で認容が463件(4.8%)、棄却が7,002件(72.0%)、却下が2,261件(23.3%)でした。
 分野別では生活保護関係が2,148件(認容は145件:6.8%)、情報公開・個人情報保護関係が2,106件(認容は201件:9.5%)、後期高齢者の医療給付関係が1,190件(認容は0件!)、その他が4,282件(認容は117件:2.7%)となっています。
 審理期間は、3か月以内が7.5%、3か月超6か月以内が31.3%、6か月超9か月以内が20.4%、9か月超1年以内が12.3%、1年超2年以内が21.2%、2年超が7.2%あります。

地方公共団体の処分に対する再審査請求
 2019年度に裁決が出されたものは23件であり、全体で認容が0件(0%)、棄却が9件(39.1%)、却下が14件(60.1%)でした。
 分野別では生活保護関係が9件、その他が14件となっています。

不服審査か行政訴訟か
 不服申立前置主義がとられていない行政処分では直ちに行政訴訟(取消訴訟)を提起することができますが、不服申立(審査請求)をすることもできます。また、不服申立前置主義がとられている場合は、まず審査請求をしなければ行政訴訟を起こせませんが、審査請求をして認められなかったとき、そこで行政訴訟を起こすこともできますが、多くの場合再審査の請求もできます。ここで、行政訴訟に進むべきか、不服審査を申し立てるべきかの選択ができ、どちらがいいかの判断が求められます。
 総務省調査の統計に表れた行政不服審査の実情は、行政処分の種類や省庁によって違いがあるでしょうけど、ざっくりいうと、認容率は数%にとどまり、審理期間も1年前後かかると見ておくべきことを示しています。
 この数字は、地裁での行政訴訟1審判決が2020年の数字(司法統計年報)で合計1,105件、認容145件(13.1%)、棄却749件(67.8%)、却下207件(18.7%)、その他4件(0.4%)、審理期間1年以内が39.5%(ただし6か月以内は大半が却下判決)、1年超2年以内が36.2%、2年超が24.3%(ただし5年超のものも2.9%ある)だったのと比較しても、有利とも早いともいいにくいものです。
 そうすると、行政不服審査申立をしなくても行政訴訟が可能なとき(不服申立前置でないとき)は、行政訴訟の一択でしょうか。
 裁判での判決が、特に行政事件では法律の規定と理屈に縛られがちなのに対して、行政不服審査では少し融通が利くという場合も見られます。そのあたりをどう考えるかですね。悩ましいところですが。

 私が経験した、行政不服審査の例を紹介します。

社会保険審査会での再審査請求:私の経験
 業務外の傷病(交通事故に起因するもの)により休業していた労働者が休業期間満了までに復職できなかったとして解雇されました。それに対して労働者がすでに治癒していたとして解雇無効を主張し、最初に賃金仮払い仮処分を申し立ててこれが認められ、使用者から賃金の仮払いを受けました。その上で労働者は地位確認の本訴を提起して解雇無効を主張しましたが、1審判決は、治癒(休職理由の解消)の立証責任は労働者にあるとし(実は、この点を明示した初めての判決でした)、原告は「その立証を尽くしていない」として労働者を敗訴させ、控訴審判決も同様の判断をし、最高裁は三行半で上告棄却、不受理で、労働者の敗訴が確定しました。それで労働者は仕方なく、解雇時点からその後2年間について傷病が治癒していなかったことを前提に健康保険の傷病手当金の請求をしましたが、健康保険組合は請求権時効消滅(時効期間2年)を理由に不支給を決定しました。さらにその後労働者の敗訴確定を理由に裁判所が仮払い仮処分を取り消し、使用者が労働者に仮払金全額(315万円)の返還を請求しました。労働者は健康保険組合の不支給決定に対して、社会保険審査官に審査請求をしましたが棄却されました(申立から1月半程度の迅速な棄却決定でした)。
 この状態で、労働者が私に相談に来ました(ですから、仮払い仮処分や地位確認請求訴訟は別の弁護士がしたものです)。
 この事案のポイントは、解雇時点で傷病が治癒していれば解雇は無効で復職と賃金を請求できる、治癒していなければ解雇は有効で使用者に対する請求はできないが健康保険の傷病手当金を請求できるという関係にあって、復職・賃金請求と傷病手当金請求は両立しないということにあります。そして、地位確認でさっさと敗訴していれば諦めて傷病手当金請求ができた(まだ時効期間は経過していなかった)のに、なまじ仮処分が認められたために傷病手当金請求をするわけにも行かず、敗訴が確定したときには時効期間が経過していたし、他方で敗訴のため受領した仮払金を返さなければならないという悲惨な状況に追い込まれたわけです。
 直感的にはかわいそうなケースでなんとか救済しなければならないと思うのですが、裁判例を検討すると、そう簡単ではないのです。解雇無効(賃金請求)と傷病手当金の関係では裁判例は見当たりませんでしたが、労災と傷病手当金の関係で消滅時効の成立を認めた地裁判決と高裁判決がありました。この場合は、傷病が「業務上」のものであれば労災の請求ができ、「業務外」のものであれば傷病手当金の請求ができて両者は両立しません。その意味で類似の関係にあるわけですが、労災請求をしたが不支給決定がありそれを争う間に時効期間が経過してしまい、労災不支給が確定してから傷病手当金を請求した事案で傷病手当請求権は時効消滅しているとされたものです。最高裁は、消滅時効は「権利の性質上、その権利行使が現実に期待できる」ときから進行するという判決を出しています(1970年7月15日大法廷判決)が、その判決の理由では供託制度の制度趣旨が強調されていて、裁判上不利になる恐れがあるから行使できないという場合にも通じるかは簡単には言えないところに思えました(実際、健康保険組合の代理人は、再審査手続での意見書でそこを徹底して突いてきました。素人の方は判例の抽象的なフレーズだけ見て自分に有利に解釈して勝てるものと考えることがよくありますが、プロの闘いでは判決理由をよく検討し、その事案の何が判断の決め手となっているかを見極めないと足をすくわれます)。
 このときは、再審査請求が義務づけられていました(再審査請求を不要とする新たな行政不服審査法の施行の数か月前でした)ので、社会保険審査会への再審査請求以外に道はなく、私は、本件では仮処分が認められており労働者が勝訴できると希望を持つのは当然であり裁判中に治癒していないこと(=解雇有効)を前提とする行動をとれば敗訴に加えて仮払金の返還まで求められかねないのでありそのようなことはとても現実に期待できないこと、労災と傷病手当金に関する地裁・高裁判決の事案との違い(特にその事案では労働者は最初から負けており仮処分が認められたような事情もない等)を強調した申立書を提出しました。
 申立から7か月が経過し、口頭審理の日が(その1月半後に)指定されるとともに「審理資料」が送られてきました。審理資料は、審査請求の過程で双方(申立人である労働者と相手方である健康保険組合)が提出したもの、社会保険審査官が収集した資料と審査請求に対する決定、再審査申立に際して申立人側(要するに私)が提出したものをまとめて製本したものでした。
 私は、再審査請求は初めてでしたので、事務局に電話を入れて、健康保険組合側は何か提出しないのかと聞いてみました。すると、提出されてもそれは口頭審理の当日まで見せられないということでした。それで、当日早く行けばコピーを渡してもらえるということでしたので、口頭審理当日、開始予定時刻の2時間前に行くことにしました。
 口頭審理は、霞ヶ関の厚生労働省内の審理室で行われ、原則として1件30分ということでした。私は、健康保険組合から口頭審理の2週間前に提出されていた15枚の意見書を待合室で読み込んで、特に本件では労働者が治癒していたかについて裁判官もはっきり認定できず立証責任を持ち出すほど微妙な判断だった(治癒していないと認定できなかった)こと、治癒の判断もどの業務を前提に復職すると考えるかで変わってくるものであり簡単な判断でないこと、この事件の1審判決が労働者側に治癒の立証責任を課した初めての判決であったことを強調する反論のメモを作成しました。口頭審理の始めにそのメモを元に15分ほど意見を述べ、健康保険組合側が提出済の意見書に基づき意見を述べた後、審査会からいくつか質問があり、それに対して双方が回答する時間が持たれました。日本の裁判所ではあまりないスタイルで、アメリカの最高裁での審理のような(もちろん、そこまで厳しい詰問はありませんでしたが)スタイルで新鮮に思えました。審査会自体は3名の委員で構成されて、ロの字型の机の一辺に座っているのですが、反対側に参与と呼ばれる人も座っていて、質問してきたり意見を述べたりします。やりとりの終盤で参与の1人からこれは認めてやらないとかわいそうなんじゃないと発言があり、私はホッとしました。
 私がその場でメモに基づいて口頭で意見を述べたことからその内容を文書で提出することを求められ、健康保険組合がそれならそれに文書で反論すると申し出があり、その場で提出期限が定められて、口頭審理が終了しました。
 口頭審理の2か月後、本件では治癒の判断は容易ではなく仮処分が認められていた労働者が裁判中に傷病手当金を請求することは困難であり、上告制度がある以上は上告審で敗訴が確定するまで傷病手当金の請求を期待することは困難であるという理由で、不支給決定を取り消す裁決が出されました。
 裁決に対して健康保険組合から取消訴訟の提起はなく、無事に満額の支給がありました(労働者はその傷病手当金で仮処分受領額を返還できました)。
 受任したときには、行政不服審査なんてただ回り道で時間のロスに過ぎないだろうし、といってその後に行政訴訟(取消訴訟)をしても国側が全力で潰しに来るわけで、暗い見通ししか持てなかったのですが、社会保険審査会で予想外に真摯に受け止めてもらい、いい結果を得ることができました。このときは法律上再審査請求しかなかったわけですが、再審査請求が義務づけられていなかったとして行政訴訟を提起していたら勝てたかどうかは、正直わかりません。
 なお、この裁決は社会保険審査会のサイトの「主な裁決例」で紹介されています→平成28年11月30日裁決

労働保険審査会での再審査請求:私の経験
 労働者が業務中に転倒し膝を骨折し、1年半後に症状固定とされ、障害補償給付の申請をして労働基準監督署に障害等級は14級と認定されました。労働者はなお歩行が困難な状態にあり、14級は低すぎると考えました。骨折した側の膝の可動域が樫井川の膝の可動域の4分の3以下の場合は12級になり、医師はその測定をしてはいるのですが、労働者の話を聞くと、その測定は医師が力を入れて無理に曲げさせ、角度計を用いずに目分量で行ったということでした。
 それで私が労災保険審査官に審査請求をしましたが、労災保険審査官は、労働者の聞き取り調書を作った上で、測定には労基署の職員も立ち会っているから不適正な測定だったはずがないなどとして審査請求を棄却しました。
 それを受けて労働保険審査会に再審査の請求をし、7か月後に審理資料が送られてきて、その1月半後に口頭審理の日が指定されました。
 労働保険審査会の口頭審理は、労働委員会会館(芝公園)内の審理室で行われ、委員の質問時間も含め約30分と予告されていました。労働保険審査官ないし労働基準監督署からは意見書等の提出はなく、私は労働者の歩行や日常生活の様子、さらには審査への立ち会いを拒否された娘さんの様子を中心に意見を述べました。労働保険審査官ないし労働基準監督署は原決定どおりということで特に意見は述べず、審査会側からの質問がなされてそれに回答しました。その中で、一番いいたいことは何かということを聞かれたので、この件では原処分を覆すのに一番有効な材料は測定に角度計を用いていないのは測定要領違反だということなので、そのことを指摘しました。それで口頭審理は終了しました。
 その後、審査会事務局から電話で、労働者に再測定をしてもらうという連絡があり、日時場所が指定されました。その再測定では、当然に角度計が用いられ、結局は前の測定と同じ結果になりました。
 それから3か月後、再測定したが結局同じ結果だったことを理由に再審査請求を棄却する裁決が出されました。
 この件は、再測定した結果元の等級認定が正しいとされたのでどうしようもないですが、少なくとも角度計を用いずに測定したことは不適当と認めて再測定が実施され、これも行政庁自身と比較すれば柔軟な姿勢だといえます。そこは、審査会の矜持を見せているのだと思いました。
    

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