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  試用期間中・試用期間満了時の解雇

ここがポイント
 試用期間が定められたとき本採用しないのは解雇
 試用期間中・試用期間満了時の解雇は、ふつうの解雇より解雇有効(使用者勝訴)のハードルが低いとされているが、一概には言えない
    
 試用期間中は、労働者を自由に解雇できる、本採用をするかしないかは自由だというような誤解をしている使用者がよくいますし、労働者側も試用期間中で能力適性がないといわれたら簡単に諦めてしまいがちです。
 ここでは、その点についての誤解を解き、労働者が試用期間中に解雇されたり、「本採用しない」と言われたときにどうすればいいか、どう闘えるかを説明します。

試用期間の定め
 新たに就職する際には、労働者の能力や適性を評価するために「試用期間」が設けられることがよくあります。試用期間が設けられる場合、その期間は3か月とか6か月というのがふつうです。
 試用期間は、法律上定められたものではなく、それを設けるかどうかも、どれくらいの期間にするかも、労働契約次第ということになります。労働契約書を作成する場合は、その労働契約書で、契約期間について、期間の定めなしとするとともに、雇い入れから3か月間は試用期間とするなどと書かれていることが多いです。労働契約書を作成しない場合(規模の大きな会社の正社員の場合、労働契約書を作成しないで、労働条件は就業規則によるとされることが多いです)、就業規則に試用期間の定めがあるのがふつうです。
 もっとも、労働契約次第といっても、試用期間の定めは、労働者にとっては地位が不安定な状態になりますので、必要以上に長い期間の定めや、試用期間を延長できるという定めは、裁判では無効とされることもあります。

※有期労働契約の試用期間
 試用期間が設けられるのは、通常は期間の定めのない労働契約(正社員)の場合ですが、有期労働契約なのに試用期間が設けられることもあります。1年契約で最初の3か月は試用期間とかいうものです。
 このような定めをすることも自由ですが、この場合、試用期間中(上の例では3か月未満)でも試用期間満了時(上の例では3か月経過時)でもどちらにしても有期契約期間(上の例では1年間)中の解雇になります。有期労働契約の期間中の解雇は、労働契約法上「やむを得ない事由」が必要で、ふつうの解雇よりも有効と認められる(使用者が勝訴する)ハードルが高くなっています。
 ですから有期労働契約で試用期間がありその期間中や満了時に解雇された場合、労働者が勝訴する可能性が高くなります。他方で、1回目の有期労働契約で更新実績もないため、解雇が無効になっても労働契約期間が経過してしまうと契約が更新されずに終了してしまい、結局、勝訴しても労働契約期間中の賃金分しか取れない可能性が高いのです(試用期間を設けたこと自体が長期契約を想定したものだという主張はできますが、それだけで契約更新の合理的期待があると認めさせるのは、なかなか難しいでしょう)。残契約期間分の賃金を取ればペイする(それでいい)という考えなら、闘いやすいケースといえるかも知れません。

試用期間中の解雇
 試用期間中の解雇について、契約上の雇用開始日から14日以内の解雇の場合は、解雇予告や解雇予告手当の支払が不要です。現実には、そんなに早く解雇することはまれですので、試用期間中であっても30日前に予告されるか、そうでなければ解雇予告手当が支払われます。
 解雇の通告を受けた場合、解雇を争うのであれば、労働者はふつうの解雇の場合と同様に、解雇の通知自体を文書で行うこと、解雇理由説明書(退職証明書)を交付することを、使用者に対して求めるべきです。その交付要求自体も要求したことが記録に残るように、電子メールか、あるいは配達証明付きの内容証明郵便で行うべきです。使用者が速やかに解雇理由説明書を交付しないときは、労働基準監督署に行って、解雇理由説明書の交付を要求したが交付されないと説明して(その際に、交付を要求した証拠としてメールなり内容証明郵便の控えと配達証明書を見せます)、使用者を指導してもらいましょう。使用者は行政(役所)には弱いので、慌てて解雇理由証明書を送ってくるのがふつうです。

本採用拒否
 使用者の中には、試用期間後に本採用するかどうかは使用者の自由だ、それは解雇ではない、ただ本採用しないだけだなどというものが少なからずあります。
 厳密に言えば、試用期間についての最高裁判例は、試用期間の趣旨はさまざまな事情、その会社での運用等を考慮して判断するとしているのですが、現在の裁判実務では、試用期間が設けられている場合、解約権が留保された(要するに解約ができるという条件を付けた)労働契約が成立していると評価されるのがふつうです。そして、その解約権の行使は、解雇そのものです。
 ですから、使用者から、試用期間経過後は本採用しないと通告された場合、それを争うのであれば、労働者は使用者に対して、やはり解雇理由説明書の交付を求めることになります。使用者から解雇じゃないからと拒否されても、労働基準監督署に言えば、使用者を指導してくれます。

試用期間中・試用期間満了時の解雇とどう闘うか
 試用期間は、採用時に労働者の適格性の有無に関して必要な調査を行ったり必要な資料を十分収集したりすることができないために後日の調査観察によって最終的決定をするという趣旨で設けられたものであるから、通常の解雇よりもより広い範囲で解雇の自由が認められるとされています。
 これが、ふつうの解雇とどれくらい違うのか、解雇が有効となる(使用者が勝訴する)ハードルがどれくらい下がるのかが、裁判実務上、非常に悩ましいところです。私の経験・実務感覚では、この違いの程度は、担当する裁判官の価値観によって相当違ってくるところがあります。試用期間中でも、解雇はそう簡単には有効とできないと考え、ふつうの解雇事件とほとんど変わらない扱いをする裁判官もいれば、試用期間中の場合は使用者の業務にほとんど支障がないようなミスでも3回程度繰り返したらもう適性がないとして解雇有効とする裁判官もいます。

能力・資格についての虚偽申告、前提となる能力がないというケース
 試用期間中・試用期間満了時の解雇の典型パターンの1つが、採用時に申告していた能力等が虚偽申告と判断された場合です。語学能力が要求され、提出したレポートのできが決め手となって採用された事案で、採用してみると語学能力に疑問を生じた上、そのレポートは家族に手伝ってもらったことが判明したというケース、面接でパソコンの使用に精通していると申告していたが簡単な操作もできなかったというケースがよく挙げられます。
 問題となる資格や能力が担当する業務上重要で、虚偽申告をしたというのであれば、労働者側としてはなかなか勝訴(解雇無効)は難しいといえそうですが、その資格や能力が担当業務上重要ではないのであれば(虚偽の申告という点で信頼関係の問題が残りますが)闘う余地はあるでしょう。
 また、業務上重要な能力そのものについての虚偽の申告や能力不足と言えるかにも、注意が必要です。使用者側からは、労働者が述べたり採用に際して前提とされた比較的高度な能力自体ではなく、高度な能力があるといいながら初歩的なことができないという形で主張されることもあります。その場合、労働者が申告したり採用の前提となった比較的高度なこと自体はできるのであれば、虚偽の申告とも言えませんし、採用の前提となった能力自体の不足とも言えません。仮に初歩的なことでミスが多かったとしてもそれは慣れればできるでしょうし、場合によったら(その労働者が専門職や管理職として採用されているとか、補助的な担当者がいるなら)初歩的なことは他の従業員がすればいいということも考えられます。私が担当した事件で、試用期間中の解雇の事案ではありませんが、企画立案・遂行能力を買って採用したのにパワポのスライドも自分で作らない/作れないということを必要な能力がないと主張されたので、当該労働者の行うべき業務は企画立案や関係者との折衝調整などであってパワポのスライドなど外注したり部下にやらせればいい、使用者はパワポのスライドを作らせるために高額の賃金を払っているわけではあるまいと反論し、判決でもこちらの主張が採用されたことがあります。

ミスが多いというケース
 試用期間中・試用期間満了時の解雇がなされる典型例が、ミスが多くて使い物にならないという主張です。
 新たに就労した労働者が慣れない作業でミスをすることはある意味で当然とも言え、そうまで言えなくてもよくあることです。ですから、ミスをしたということ自体では、解雇が有効とされることはふつうはありません。ミスをしてそれに対して上司や同僚が注意指導をして正しいやり方を教え、それでも繰り返し同じようなミスを続けているというときに、その程度が酷くなると解雇が有効とされることになります(先ほど述べたように、どの程度酷ければ解雇有効となるかについては、裁判官の価値観が反映されるところが多々あります)。

 ミスの問題が重視されやすいのは、担当業務に危険があるときです。労働者自身がケガをする危険がある、顧客等の健康や財産の危険がある、使用者に重大な損害が生じる危険があるというような業務の場合、ミスをすると重視されます。そのような場合、使用者も最初から1人でやらせず、予め研修なりマニュアルなりでやり方を教え作業方法について注意をし、上司や同僚が見本を見せるなり一緒に作業したりするはずです。それなのに、教えられた方法と違う方法で作業したり、1人でするなと言われているのに勝手に1人でやってミスをして重大な結果を生じたような場合は、1回のミスでも裁判所がどう判断するか予断を許しません。また、1回ミスをして注意されても聞く耳を持たず同じミスをするとか、注意指導をされているときにろくに聞いている様子もないというような場合も要注意です。裁判所は、ミスをしたこと自体よりも、それを反省して改善しようという姿勢が見られるかの方を重視します。

 ミスをした時期も問題になります。その業務・作業を担当した初期にミスがあっても、その後繰り返していなければ(改善が見られれば)通常は問題になりません。作業に十分になれた後もまだミスをしているということは、悪い評価に繋がりやすいですが、これも繰り返していなければ(改善が見られれば)致命的にはならないのがふつうです。

結果を出せないというケース
 業務成績が悪い、目標を達成できないなどの理由を付けて本採用拒否がなされることもあります。これは、ヘッドハンティング等、高い能力があることを前提に専門職・管理職等で中途採用したケースでわりと見られるようです。
 高い能力があることを前提とする労働契約(賃金も相当高いのがふつう)の場合、一定の能力があることが労働契約の内容となっているので、裁判所は、能力不足を理由とする解雇を(ふつうの解雇事件とは異なり)比較的容易に有効と判断する傾向にあります。
 しかし、そういった高度の能力は、新たな環境の下で、扱う商材や業務分野等の違いがある中で、数か月で発揮できるものとは限りません。試用期間中に業績を上げられなかったということで契約上要求される能力がないと判断したことが拙速であり不合理だと判断されることはわりとあるように見えます。

業務指示に従わない・協調性がないというケース
 これはなかなか悩ましいところです。
 労働契約は、労働者が使用者(上司等)の指揮命令に従って労務を提供し、その対価として賃金の支払を受けるということを本質的な内容とするものです。ですから労働者は、使用者の業務上の指示に従う必要があります。そして裁判官はある意味で法的秩序を守る立場にありますので、基本的に組織の秩序を乱す者を嫌う傾向にあります。使用者(上司等)に対して反抗的な態度を取ったり、使用者(上司)の指示に従わないという姿勢を見せる労働者は、裁判官に好意的には見られません。裁判で争う以上、そのことはまず理解してください。
 他方で、上司から権限を濫用した指示命令がなされたり、違法な指示命令がなされたときに労働者が屈服する必要はありません。また、業務上必要もないのに周囲の機嫌を取り、「スマイル0円」と言われれば笑顔を振りまかなければならないわけではありません。

 担当する業務が、危険性がある業務の場合、上司や同僚の業務上の指示に従わない、反抗的であったり、自分勝手なやり方をするなどの態度は、解雇が有効と判断される可能性を高めます。その業務が複数・多数の従業員が組んで行う業務である場合、使用者側からも業務上チームプレイの必要性が高いなどと主張され(裁判になれば使用者側はそう主張します)、協調性のない態度が問題にされがちです。
 労働者の態度(上司等の指示に従わない、協調性がないなど)については、使用者側から抽象的一般的な主張とそういうことを書き連ねた陳述書が提出されることが多いです。その場合に、指示に従わなかった、反抗的な態度だったとされることについて、使用者側に個別的にエピソードを特定させて、そもそもその事実があったのか、そのときに指示に従わなかったのか、従えなかった事情・理由は何なのかを、労働者側で具体的に反論して潰して行く作業が大切です。陳述書が多数出てくるケースではかなり消耗する作業ですが。

試用期間を相当残しての解雇
 解雇理由とは別に、試用期間満了での解雇(本採用拒否)ではなく試用期間の途中での解雇については、別の争点というか闘い方があります。
 労働者の能力・適性を評価判定するために特定の期間を試用期間として定めた以上、その期間は、労働者が使用者にその能力適性をアピールできる期間とも言えます。試用期間満了まで業務を続ければ、能力適性があることを示すことができた、それ以前に問題があっても試用期間満了までには改善できたということであれば、試用期間満了までに見切って解雇を決めるのは拙速である、不合理であるということになります。
 そういうところから、試用期間満了前に解雇された場合や、試用期間満了時点まで賃金は支払う(身分は残す)が途中で本採用拒否を通告されて担当業務から外された場合は、解雇理由となる労働者の問題が、その後に改善がなされるかを観察する必要がないほど重大であれば解雇が有効とされますが、そうまではいえない(労働者の問題がそこまで重大ではない)なら解雇は無効となります。
    

  【労働事件の話をお読みいただく上での注意】

 私の労働事件の経験は、大半が東京地裁労働部でのものですので、労働事件の話は特に断っている部分以外も東京地裁労働部での取扱を説明しているものです。他の裁判所では扱いが異なることもありますので、各地の裁判所のことは地元の裁判所や弁護士に問い合わせるなどしてください。また、裁判所の判断や具体的な審理の進め方は、事件によって変わってきますので、東京地裁労働部の場合でも、いつも同じとは限りません。

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