庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  ◆活動報告:原発裁判(柏崎刈羽原発運転差し止め訴訟)◆

原告準備書面(4)

福島原発1号機の地震による配管等損傷
第1 はじめに:本準備書面の目的と概要
 福島原発事故において1号機、2号機、3号機で炉心溶融(メルトダウン)に至り溶融した炉心燃料が圧力容器外に溶け落ちていることは、今では誰も否定しないところである。つまり、福島原発事故において、1号機、2号機、3号機で圧力バウンダリが大きく損傷したことは、被告も否定しない。
 この圧力バウンダリないし圧力容器の損傷ついて、被告及び政府(旧原子力安全・保安院、政府事故調等)は、電源喪失によって隔離時冷却系(1号機にはない)、残留熱除去系、非常用炉心冷却装置(ECCS)等の炉心に給水する装置が機能しなかったために炉心の冷却に失敗し崩壊熱により炉心が高温になって炉心溶融が生じ、その溶融炉心が圧力容器内で溶け落ちてその熱で圧力容器が溶けて損傷したというストーリーで説明している。つまり、圧力バウンダリの損傷は、炉心溶融後に生じたと主張している。
 しかし、少なくとも福島原発1号機では、炉心溶融前に圧力バウンダリが損傷し、むしろその圧力バウンダリの損傷部から炉心の冷却材が流出したことによって炉心溶融に至ったというべきである。つまり、1号機では圧力バウンダリの損傷は炉心溶融前に生じた。福島原発1号機では(2号機、3号機も同様だが)格納容器内に人が立ち入ることはおよそ不可能であり現在なお格納容器内の状況は検査できず、また後述するように1号機の圧力バウンダリに属するIC配管の格納容器外部分については、被告は保温材カバーも外さずに眺めるだけの「目視確認」しかしていない上に国会事故調にさえ立ち入り調査を妨害して現地調査をさせなかったことから、この圧力バウンダリの損傷箇所は特定できないし、損傷の経緯も特定はできない。しかし、炉心溶融前に損傷が生じた以上は、その損傷は地震が引き金となったとしか考えられない。
 本準備書面では、少なくとも福島原発1号機については、炉心溶融前に圧力バウンダリが損傷したことを明確に論証し、被告が裁判外で「地震による圧力容器バウンダリの損傷はない」と主張している理由がいずれも根拠が薄弱な怪しいものであることを指摘し、福島原発1号機では地震によって圧力バウンダリが損傷したと考えざるを得ないことを論じる。

第2 圧力バウンダリが炉心溶融前に損傷したことの論証
 1 前提事実
 (1)圧力バウンダリとは:議論の対象の説明
 最初に「圧力バウンダリ」について説明する。
 原子炉冷却材圧力バウンダリは、「これが破壊すると原子炉冷却材喪失となる範囲の施設のこと。原子炉の通常運転時に原子炉冷却材を内包して原子炉と同じ圧力条件となり、異常状態において圧力障壁を形成するものである。」という形で定義されている(原子力規制委員会のサイト上の記載。「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」に同様の規定がある)。
 福島原発や本件原発が属する沸騰水型原発(BWR)では、原子炉の通常運転時、炉心の冷却材は炉心で加熱されて蒸気となり主蒸気管を経由して圧力容器を出てタービンを回し、復水器で冷却されて熱水になり給水管から再度圧力容器内に戻る。通常の沸騰水型原発(本件原発中6号機と7号機のいわゆるABWRを除くBWR)では圧力容器内に戻った給水の一部を再循環系配管(再循環ポンプ入口配管)、再循環ポンプ、再循環系配管(再循環ポンプ出口配管)を経て圧力容器に戻す再循環系を経由してから再度炉心に送っている。なお、福島原発1号機では非常用炉心冷却装置として非常用復水器(IC)という特殊な設備があり、炉心上部空間の蒸気をIC配管を経て圧力容器外に送りICタンクで冷却して水にしてIC配管経由で再循環系配管に戻し再循環系経由で圧力容器内に戻す循環経路がある。炉心の冷却材は、圧力バウンダリが健全である(損傷していない)限りは、この範囲を循環するのみで、基本的にはこれ以外に漏洩しない。
 これらの系統の配管・機器が冷却材を内包しているが、地震による緊急停止時には主蒸気隔離弁により主蒸気管からタービンへと蒸気を送る経路が遮断されるので、上記の各配管・機器のうち主蒸気管→タービン→給水管の部分を除いた部分が、福島原発事故時の圧力バウンダリの健全性の議論の対象となる。

 以上で説明した、東北地方太平洋沖地震発生後の福島原発1号機の圧力バウンダリの範囲を図示すると上の図のようになる(国会事故調報告書220ページ掲載の図に原告ら代理人が説明を追加した)。上の図の主蒸気管は,先に説明したとおり主蒸気隔離弁が閉鎖することにより格納容器のラインで遮断されている(蒸気が行き止まりになっている)。
 被告と政府、原発推進派は、福島原発事故で地震によりこの圧力バウンダリに損傷が生じたことを否定しており、本準備書面は少なくとも炉心溶融前にこの圧力バウンダリに損傷が生じていることを論証して、その結果ほかに理由を考えがたいことから、地震によってその損傷が生じたと論じるものである。

 (2)地震後の計器データの信用性
 福島原発事故に関する被告の主張は、東北地方太平洋沖地震発生後の1号機の計器のデータについて都合のいい部分だけを取り上げ、都合の悪い部分は計器が狂っていたと具体的な根拠なく無視することで構成されている。

 例えば、1号機の炉心溶融の解析は、原子炉圧力と格納容器圧力のデータを根拠にしつつ、解析と決定的に矛盾する原子炉水位計のデータは水位計は正しい数値を示していなかったとして無視することで成り立っている(上図:東電「最終」報告書139ページより)ことは既にあまりにも有名である。
 被告が、本準備書面への反論として地震後の1号機の計器のデータを用いる場合は、被告が用いるデータが地震等による計器の異常がなく正しい数値を示していたことを論証して行うべきことを予め指摘しておく。

 (3)圧力バウンダリの損傷と炉心溶融の発生
 (2)で指摘したことから、本準備書面では、地震後の1号機の計器データを当てにしなくても確実なことから論証を進めてみたい。
 1号機では現在もなお1時間あたり約4.3m3の注水を続けている。2013年1月4日付の被告の報道配付資料によれば炉心スプレイ系からの注水が1時間あたり約1.8m3、給水系からの注水が1時間あたり約2.5m3である。1号機の原子炉圧力容器の内径は約4.8m、全高は約20mである(東電「最終」報告書添付資料参考1(1))からその容量は大きめに円筒と見て362m3にとどまり(実際には上下のドーム部が半球状なのでこれより小さいし、圧力容器内には相当な構造物が内蔵されているので健全な場合の空間の容積はこれより相当少ない)、現在の注水量でも3日あまりで満水となる。1号機には事故直後から1年9か月以上にわたり注水が継続されており、このことは圧力容器に大規模な損傷があり注水した分だけ漏洩し続けていることを示している。
 2012年10月10日、被告は事故後初めて1号機の格納容器の貫通部から測定器を挿入して格納容器内の放射線レベルの測定をした。その発表によれば、事故後1年7か月が経過した時点でさえ、貫通部端部で1時間あたり11.1Sv、格納容器内空間で1時間あたり9.8Svにも達していた。この事実だけでも、1号機で炉心溶融が発生したこと及び圧力容器が大規模に損傷していることが明らかである(燃料棒が健全な状態なら間近に接近してもこのような線量にはならない)。

 (4)炉心溶融の条件
 炉心溶融が発生するためには、炉心の燃料棒の温度が極めて高温になる必要があり、そのためには炉心の冷却材が減少して炉心が露出する(炉心の水位が低下して燃料棒高さより低くなる)ことが必要である。原子炉停止後も炉心の核燃料は運転時の核分裂によって生じた核分裂生成物(いわゆる「死の灰」)が放射線を放出して他の原子に変わる(これを「崩壊」という)際に生じる崩壊熱を発生させ続けるが、炉心が冠水している限りその熱は速やかに冷却材により奪われ、冷却が維持されることになり、炉心溶融には至らない。
 もちろん、炉心の崩壊熱が冷却材に伝熱されることにより冷却材のエネルギーが増大し、圧力容器内の温度及び圧力が上昇していくことになるから、非常用炉心冷却装置等によって炉心が冷却される(圧力容器内の熱が圧力容器外に運搬される)のでなければ、いずれは冷却材は蒸気としてどこからか放出されざるを得ない。何らの装置もなければ圧力容器内の圧力(原子炉圧力)が上昇を続けて圧力容器の相対的に弱い部分を破壊するということが予想される。沸騰水型原発ではその高圧による圧力容器破壊の防止のために逃がし安全弁という装置が設けられている。圧力容器内の圧力が上昇した場合、まずは電気信号で一定の圧力に達したところで逃がし弁が電気駆動で開放されて(これを「逃がし弁機能」と呼んでいる)蒸気を逃がし(サプレッションチェンバに吹き出させて冷水で水にする)、さらに高圧になると圧力そのものによってバネ式の安全弁が開放されて蒸気を逃がす(これを「安全弁機能」と呼んでいる)仕組みとなっている。福島原発事故では電源喪失のために逃がし弁機能は働かないが、安全弁機能は電源を要せず圧力そのもので作動するので、その機能は維持されていたはずである。福島原発1号機の逃がし安全弁の安全弁機能の設定は、7.64MPaが2系統、7.71MPaが2系統である(東電「最終」報告添付資料参考1(2))。逃がし安全弁を開放し続けると冷却材が流出していくので、圧力容器内の圧力が低下すると自動的に閉鎖する。
 なお、福島原発1号機には非常用復水器という設計の理屈上は電源を要しない非常用冷却装置があり、福島原発事故後も一定程度は機能したと考えられている(事故後に水位計から読み取ったICタンクの残存水量が正しければ、長時間機能したとは考えられず、またICタンクへの補給をしていない以上いずれにせよ日単位の期間機能したとは考えられない)。しかし、非常用復水器による冷却は閉じた循環系によるものであるから、非常用復水器が機能している間炉心の燃料や冷却材温度の上昇と圧力上昇を抑止できるが、非常用復水器の作動により冷却材水位が継続的に上昇したり低下することはない(IC配管は圧力バウンダリの一部であり、これが損傷した場合は冷却材が漏洩し、炉心の水位が低下することになる)
 以上の説明の通り、圧力バウンダリが健全なときに、冷却材が漏洩する経路は、基本的には逃がし安全弁しかない。
 従って、炉心溶融が発生するためには、その前に逃がし安全弁が作動して蒸気を逃がし、しかもそれが炉心が露出するまで繰り返し行われるか、そうでなければ圧力バウンダリの損傷があってそこから冷却材が漏洩し続けることが必要条件となる。

 2 逃がし安全弁は作動したか
 被告と政府は、地震によって圧力バウンダリの損傷はなかったとしながら炉心溶融に至ったことを説明するために、1号機でも全電源喪失後、逃がし安全弁が作動した(圧力の上昇によりバネ式の安全弁機能が働いた)と主張している。
 2号機と3号機では、逃がし安全弁が作動したことが計器の記録上も記録されており、また運転員・作業員の記録上も逃がし安全弁の作動が確認されている。しかし、1号機については、逃がし安全弁が作動したという証拠は全くない。

 まず逃がし安全弁の手動操作については、被告が2011年5月16日発表(6月13日訂正)した各種操作実績とりまとめを見ても、2号機と3号機では手動操作がなされたとされているが、1号機については「操作なし」とされている。
 バネ式の自動作動(安全弁機能)であるが、2号機の運転員は、国会事故調のヒアリングに対して逃がし安全弁がかなり頻繁に作動して作動の都度「ドドドーン」ないし「ズズズーン」という地鳴りのような音がしており、その音は専ら2号機の方から聞こえ1号機側では聞こえなかった旨証言しており(国会事故調報告書242ページ)、3号機の運転員は被告の聴取に際して「中操でもゴォー、ゴォーって音が当初からしていた」と逃がし安全弁の作動音が中操(中央操作室)にいても聞こえていたことを述べている(国会事故調報告書242ページ)。これに対し、1号機の運転員は誰一人逃がし安全弁の作動音を聞いていない(国会事故調報告書242ページ)。
 逃がし安全弁の作動音は通常運転中の中央操作室でも気にしていれば知覚することができる(国会事故調報告書242ページ)ところ、福島原発事故において電源喪失後の中央操作室は電源がないので警報も機器の作動音もなく運転員の声以外聞こえてくるものがないほどの静けさであった(国会事故調報告書242ページ)。
 国会事故調の1号機運転員へのヒアリングは、事故当時の1号機運転員の大半となる8名に対して行われ、とりわけ最後に行われた運転員4名に対する同時聞き取りでは、全電源喪失後の音について繰り返し確認し、逃がし安全弁の作動音を聞いたかということも、それ以外も含めて原子炉方向から聞こえた音があったかについても質問したが、運転員は、全電源喪失後は中央操作室でそのような音は聞いていないし、原子炉建屋に様子を見に行った際にもそのような音は聞こえなかった旨回答している。
 これらの事実から、福島原発事故の際、1号機では、少なくとも全電源喪失後は逃がし安全弁は作動しなかったと評価できる。

 3 まとめ
 1で論じたとおり、炉心溶融が生じるためにはそれ以前に炉心の冷却材が漏洩して炉心の水位が低下する必要があり、そのためには逃がし安全弁が繰り返し作動するか、そうでなければ圧力バウンダリが損傷してそこから冷却材が漏洩し続けることが必要条件となる。
 2で論じたとおり、1号機においては逃がし安全弁が作動したという積極的な証拠は何一つなく、1号機の運転員が誰一人作動音を聞いていないことからすれば、少なくとも中央操作室が静かになった全電源喪失後は逃がし安全弁は作動しなかったと認められる。
 従って、1号機で炉心溶融が発生した原因は、場所は特定できないものの、圧力バウンダリのどこかが損傷して、そこから冷却材が継続的に漏洩して炉心が露出したと考えざるを得ない。

第3 裁判外での被告の主張について
 1 被告の主張の概要
 被告と政府、原発推進派は、これまでに概ね以下の根拠を挙げて1号機でも地震による主要配管等の損傷はなかったと主張している。
 @ 1号機IC配管については目視確認したが損傷は発見されなかった
 A 東北地方太平洋沖地震の地震波を入力して解析してその程度の地震動では配管損傷に至らないとの結果を得た
 B 5号機、6号機で同様の箇所の目視点検を行ったが主要配管等の損傷は発見されなかった
 C 1号機の地震発生後の計器データから見ると大規模な配管損傷はなかったと考えられる

 2 目視確認について
 1号機については(2号機、3号機も同様だが)、格納容器内には現在も人が入ることができず、いつか人が入ることができるかさえ不明であり、これまでまったく目視確認さえできていない。
 1号機のIC配管(格納容器外の原子炉建屋内の部分)について行われた目視確認は、2011年10月18日に1度限り、3名の作業員が原子炉建屋4階で12分程度ICタンク周辺を回って見える範囲を携帯式照明で照らして見たというだけである。被告のサイト上その目視確認の際のビデオが公開されており、その作業内容を確認することができる。その際は、天井付近を走る気相(蒸気系)のIC配管は下から見上げて眺めただけであり、ICタンクまわりの液相(水系)のIC配管はがれき等を撤去することもなく露出している部分を眺めただけであり、間近の部分でさえ配管に巻いてある金属製の保温材カバーを剥がすこともなく(従って保温材カバーの内側で配管に穴が開いて冷却材が漏洩していたとしても見てもわからない)なされたもので、目視確認というにも足りないお粗末なものであり、マスコミ向けのパフォーマンス以上の意味はない。
          IC気相配管の目視確認状況:下側から照明を当てて遠くから眺めただけ
          IC液相配管の目視確認状況:がれき等で隠れたところは見ようともしなかった

 そして、この「目視確認」が行われたIC配管の大部分がある1号機原子炉建屋4階に国会事故調が現地調査を申し入れた際、被告は、「原子炉建屋内には照明がなく昼間も真っ暗であること、水素爆発によっていたるところにがれきが散乱しているうえ大物搬入口のような開口部もあって非常に危険であること、東電としては従業員に余計な被ばくをさせたくないので当委員会の調査には同行できないこと」を申し向けて、恫喝を加えて抵抗し、国会事故調の現地調査を断念させた(国会事故調報告書229ページ)。このことからしても、被告は1号機原子炉建屋4階に国会事故調にはどうしても見せたくない瑕疵があると判断していたことが推認でき、被告のいう目視確認が十分であるとは到底考えられない。

 3 解析について
 東北地方太平洋沖地震においては強い揺れが極めて長時間継続し、地震計の記録が途中で中断されている。その結果、記録として得られた地震動データ自体が、現実の揺れとは齟齬していることをまず指摘しておく。
 そして、解析上東北地方太平洋沖地震による地震動では配管等が破損しないという主張は、その解析方法が正しいことを先験的に前提としている。解析上持つということは机上の空論であり、現実に損傷したかは現物を確認してみなければわからない。
 まず解析は配管そのものだけでなく配管サポートなどもすべてが健全であることを前提としているが、現実の配管等は施工時にミスがあったり、長期間の運転により損耗や金属疲労や亀裂があったりして計算通りに持つとは限らないし、サポートが緩んだり壊れたりすることで配管への力も大きく変わりうる。
 加えて、現在の解析方法がどのようなタイプの地震にも適用できるかどうかにはなお未知数の部分があるというべきである。原子力の世界では、計算上は持つはずとされていたものが現実には持たずに事故・故障が発生して設計方針や対策を変更したことは度々ある。例えば設計当時の熱疲労等の解析では40年の使用に十分耐えると評価されていた給水ノズルや制御棒駆動水戻りノズルが1970年代後半には運転開始から数年で相次いで熱疲労によるひび割れを生じた。例えば1970年代に沸騰水型原発で多発して沸騰水型原発を存亡の危機にまで追いやったステンレス配管等の応力腐食割れに対しても低炭素材料の採用や各種の応力除去工法の開発で対策としては十分とされたが、その後1990年代になってもその対策が施された原発で応力腐食割れが多発した。技術的にはもう起こらないはずだったことが現実には広範に起こったのである。例えば圧力容器の脆性破壊問題で圧力容器鋼板の照射脆化予測式は東海第二原発訴訟や柏崎刈羽原発訴訟(原子炉設置許可取消請求訴訟)で原告側が主張した照射速度効果を当初原発推進側は見落としており、その後原発推進側で照射速度効果を取り入れた予測式を作成してこれで十分対応できるとされていたが、昨今でも玄海原発1号機などの圧力容器監視試験片の取り出し試験結果から現実の原発の圧力容器鋼板は脆化予測式を大幅に超えて脆化していることが明らかになっている。原発推進派の学者たちが実験や計算によってこれで持つはずと言ってきたことは、現実に何度も裏切られてきたのであり、解析上持つはずなどというのはまったく当てにならない。

 4 5号機、6号機の目視確認について
 そもそも5号機、6号機と1号機では具体的な設計も異なるし、ましてや施工段階の現実の配置設置や施工ミスの有無・程度さらには長期間の運転継続による損耗等は同一ではあり得ない。
 また、地震動についても、5号機、6号機と1号機では離れており、1〜4号機側(南側)と5号機、6号機(北側)では地震動に差異がある(国会事故調報告書212〜213ページ)。
 従って、仮に被告が言うとおりに5号機、6号機で地震による損傷がなかったとしても、そこから直ちに1号機でも同様の箇所に地震による損傷がなかったとは言えない。
 加えて、被告の目視点検というのが、どの程度のものか、その具体的な点検の実施状況と結果については公表もされていないし、本当に損傷がなかったのか、被告が勝手に修理していないかも明らかでない。
 上述した、対策によってもう発生しないはずの応力腐食割れが現実に多発しているのを発見したとき、被告は内部告発とGE側の申告によってそれが暴露されるまで長期間にわたり行政に対してさえ報告せずに勝手に修理したり異常はないという虚偽の報告書を提出し続けていた。被告が2002年9月17日付で発表した調査報告書で「不適切」と認めた事例だけでも16件に及んでいる(被告は各原発の例えば炉心シュラウドなどの機器単位で1件とカウントしており、複数のひび割れがあっても同じひび割れについて複数の虚偽報告書を作成したり偽装工事をしていても1件とカウントしている)。具体的な例を挙げれば、福島原発1号機の非常用炉心冷却系である炉心スプレイスパージャについては1993年にひび割れを発見して行政当局に報告することなく工事計画認可も受けずに勝手にクランプ(押さえ金具)を取りつけて運転を継続しその際クランプが目につかないよう黒く着色して偽装し、1996年から1997年の定期検査時にはクランプを発見されないようにクランプを一旦取り外してまた取りつけ、1999年になって初めてその時にひびを発見したように行政当局に報告して工事計画認可を受けて改めてクランプを取りつけた。福島原発2号機の炉心シュラウドでは、1994年にほぼ全周にわたるものを含む多数のひびを発見したがほぼ全周にわたるひびのみを行政当局に報告して修理し、1995年から1996年にかけて修理済みのものとは別のほぼ全周にわたるひびを発見したが今度はまったく行政当局に報告せず、1998年に炉心シュラウドにひびがあるという匿名の報告を受けたとして運転管理専門官が調査に訪れた際に過去の点検記録からひび割れの記載を削除して記録を改ざんし、ひび割れの存在を隠したまま「予防保全工事」と称して炉心シュラウドの交換工事を行い、運転管理専門官が交換するシュラウドの確認に来た際にはひび割れが見えないように金属板を立てかけて撮影したビデオを見せた。なお、本件原発の1号機についても1994年、1996年、1997年にひびの徴候を確認したがひび割れ隠しが行われた。このように、発生していては困る損傷を見つけたときには、それを隠蔽し、行政当局にも報告せず工事計画認可も受けずに勝手に修理をし、その損傷や工事が発覚しないように偽装工作を行うのが被告の行動パターンなのである。前例から見て、被告が詳細の公表もなくただ目視確認の結果異常が見られないなどといっている5号機、6号機の地震による損傷の有無は、現実には損傷を発見していても被告が虚偽の報告をしているだけあるいは既に勝手に修理しているという可能性も十分にあるというべきである。

 5 地震後の計器データについて
 本準備書面の第2の1(2)で指摘したとおり、福島原発1号機の事故時の計器データについての被告の主張は極めて恣意的なものであり、被告が用いているデータが地震等による計器の狂いのない正しい数値を示しているものであるかは十分な検証を経ない限り信用できない。
 そして、仮に被告が用いているデータが正しいとした場合であっても、地震による損傷がごく微細な亀裂で始まり、その後微少漏洩の吹き出す過程の力あるいは余震の力で次第に亀裂が進展し全電源喪失後に大規模漏洩に至ったという進展をした場合には、被告と政府、原発推進派が指摘する格納容器内圧力のデータについても特に矛盾なく説明することができる。
 これについては、被告の具体的主張を待って詳論するが、前述したように、被告はこの議論をするのであれば、被告が用いるデータには計器の狂いがないことを論証した上で行うべきである。

 6 まとめ
 以上に述べたとおり、被告が福島原発事故において地震による主要配管の損傷がなかったと裁判外で主張している根拠は、いずれも薄弱なものであり、これらによって、特に福島原発1号機について、地震による主要配管の損傷がなかったということは到底できない。

  

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