庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

    ◆活動報告
  松本サリン事件被害者弁護団

 1994年6月27日深夜、松本市内の住宅地で、オウム真理教幹部らによって大量のサリンが噴霧され、7名が死亡しました。事件後ずっと意識不明だった1名が2008年8月5日になくなりました。その他の負傷者は約600名と報じられています。
 私たちは当初松本サリン事件で死亡した7名のうち4名の遺族から依頼を受け、熊本県波野村がオウム真理教に支払う和解金の仮差押え、オウム真理教と麻原彰晃こと松本智津夫に対する損害賠償請求訴訟、オウム真理教の解散請求、オウム真理教の破産申立、松本サリン事件の実行とサリン製造を行った者に対する損害賠償請求訴訟を行いました。
 オウム真理教に対する破産宣告(1996年3月28日)以後は、松本サリン事件の遺族と被害者の債権届け出を代理しています。
 松本サリン事件の遺族・被害者を初めとするオウム真理教の一連の事件の被害者は、オウム真理教や松本智津夫らに対する損害賠償請求訴訟で勝訴しても、現実には賠償を得ることができません(判決をとっても相手が支払わず相手の資産もなければ支払を受けられないことの説明についてはこちら)。
 破産手続で破産管財人によってオウム真理教の資産の換価(売却等)が行われてきましたが、2008年11月26日の任務終了報告集会をもって破産手続は事実上終了しました。最終的に人身被害者に対しては、破産手続上認定された被害額の36.87%が配当されたにとどまっています(破産の手続の他に一般の方の寄付金等によるサリン等共助基金、オウム真理教犯罪被害者支援機構からの配分をあわせても40.39%)。国からは(見舞金である犯罪被害者等給付金が支給されたほかには)何ら補償はありませんでした。
 世間では、民事裁判の判決報道や国を狙った無差別テロである松本サリン事件(裁判官官舎を狙ったもの)、地下鉄サリン事件(霞ヶ関を狙ったもの)で国の補償がないはずがないという常識的な感覚から、オウム事件の被害者は相当な賠償・補償を得ていると思われています。しかし、それは誤解で、現実の賠償は破産手続を通じて認定被害額の4割程度、国からの補償はなかったのです。
 ニューヨークの世界貿易センタービル(WTC)等が標的となった9.11テロでは、アメリカ政府は直ちに補償基金を立ち上げ、遺族・被害者に補償をしています。補償以外にも遺族・被害者に対するカウンセリングやファミリー・ルームの設置など様々な被害者支援が行われています。
 これに対して日本では、公的補償・支援はないに等しい状態でした。
 私たちは、国を狙ったテロの遺族・被害者に対しては、国がまず被害全額の補償を初めとする遺族・被害者への支援を実施し、その費用を加害者オウム真理教等から取り立てる制度を作るべきだと考えて、阿部破産管財人、地下鉄サリン事件被害者の会、地下鉄サリン事件被害対策弁護団等とともに、政党・国会議員への要請を続けてきました。紆余曲折の上、被害者側の声を受けて与野党の合意が成立し、2008年6月18日、「オウム真理教犯罪被害者等を救済するための給付金の支給等に関する法律」が成立し、地下鉄サリン事件、松本サリン事件等の被害者に対して、一定額の給付金が国から支払われることとなりました。この支給金額は、平均すると被害額の約20%に相当します(被害額に応じた支給金ではないので、被害者によって被害額に対する割合は変わってきます)。私たちの求めた破産手続で配当されなかった全被害額の立て替えは実現しませんでしたが、一定の被害回復は実現することになりました。私としては手放しで喜べるものではありませんが、関係者の方の努力に感謝します。
 現在、破産手続は終結し、オウム真理教犯罪被害者給付金の支給も終わりました。
 警察庁・警察による被害者の掘り起こしの努力もあり、サリン被害者等の相当数が給付金を受給しましたが、それでもすべての被害者が給付金を受給したわけではありません。
 そして、給付金を受給しても、この特別立法が被害全額の立て替えとならなかったため、被害者は被害の全額の賠償を受けることはできません。破産手続で債権届出をした被害者の場合は給付金を受けても被害額の40%程度、破産手続で債権届出をしなかった被害者の場合は給付金を受けても被害額の80%程度は、なお賠償を受けられない状態です。

 破産手続や給付金でもなお賠償されない被害金額については、被害者側の団体であるオウム真理教犯罪被害者支援機構が、オウム真理教後継団体(アレフ、ひかりの輪)から取立をして被害者に配当していくことになります。
 オウム真理教犯罪被害者支援機構は、アレフ、ひかりの輪と間で今後の賠償計画に関する交渉を続けてきました。
 2009年7月6日、ひかりの輪(上佑グループ)との間で合意が成立しました。この合意によって、ひかりの輪は、破産手続で債権届出しなかった被害者(実質的には給付金の支給を受けた被害者でオウム真理教犯罪被害者支援機構に配当の申し出があった被害者ということになります)に対しても新たに債務を引き受けて賠償することになりました。賠償金の支払額は、ひかりの輪が年2回オウム真理教犯罪被害者支援機構に提出する財政状況等の報告書を元に最低額を協議して決めることになり、2009年は最低300万円、目標800万円となっています。
 他方、アレフとはすでに8年以上にわたって交渉を行っているのにアレフ側から月々ないし年間の賠償予定額がいまだに示されない状態にあります。オウム真理教犯罪被害者支援機構は、2012年3月にアレフに対して民事調停を申し立て、東京地裁で調停が続けられてきました(調停の状況については第三者に公表しないというアレフの要請に応じて、これまでこのサイトでも記載は控えていました)が、その中でも裁判所(調停委員会)からの度重なる要請にもかかわらず、アレフは月々あるいは年間の支払額の案を一度も示さず、2017年11月に裁判所から支払額を示した調停案が提示されるや、アレフは対案や修正案さえ示さずにこれを拒否し、次の調停期日の2017年12月22日には、調停を不調に終わらせました。裁判所は、調停案に沿った調停に代わる決定を行いましたが、アレフはこれに対しても直ちに異議申立をし、調停での解決の道は葬られました。
 被害者の被害の完全賠償への道はまだまだ遠く前途多難です。

松本サリン事件10年アピール(2004.6.26)

地下鉄サリン事件10年集会アピール(2005.3.19)

2006年10月4日集会アピール(2006.10.4)

地下鉄サリン事件から12年の集い:声明と法案(2007.2.21)

「見舞金」ではオウム犯罪被害者の救済にならない(2008.1.12)

オウム被害救済立法自民党PT案の問題点(2008.1.16)

民主党のオウム犯罪被害救済法案(2008.3.15)

オウム犯罪被害者救済法案与野党合意(2008.5.31)

オウム犯罪被害者給付金の手続(2008.11.27)

オウム犯罪被害者給付金申請の実情(2008.12.18)

公安調査庁長官への要望書(2016.5.31)

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