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  ◆活動報告:原発裁判(六ヶ所)◆
   航空機落下に関する適合性審査及び審査基準の誤り

 六ヶ所再処理工場への航空機落下確率は、規制基準とされている評価基準に基づいて計算すると、航空機に対する防護設計が必要な水準になっています。しかし、六ヶ所再処理工場については、30km圏内にある三沢基地に現に配備されているF35(総重量30t)に対する防護設計はなされていません。そうすると、基準に適合しないから不合格となるのが当然ですが、原子力規制委員会は、六ヶ所再処理工場には航空機落下確率の計算方法の特例を認めて、落下確率を低く計算して航空機に対する防護設計を要しないことにしました。
 ここでは、六ヶ所再処理工場が本来は基準上必要な防護設計を満たしておらず操業が許されないこと、原子力規制委員会が原子力施設の稼働・再稼働を認めるためには基準を曲げ、明らかに不合理な基準でも維持するという姿勢を取っており、原子力施設の安全性を判断する資格がないことを論じます。
 提出した準備書面の内容を基本的にそのまま掲載します。
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 ☆原告準備書面(168) 航空機落下に関する適合性審査及び審査基準の誤り

第1 はじめに
 原告らの本訴における指摘を受けて、本件再処理工場への自衛隊機及び米軍機の落下確率について適合性審査に提出された評価結果は9.0×10−8と修正され、被告(原子力規制委員会)も審査基準上の基準となる落下確率である10−7とほぼ同レベルと評価せざるを得なくなった。そのため、審査基準上、本件再処理工場では航空機落下に対して安全機能を維持できるような防護設計が必要となった。ところが、被告は、日本原燃が、過去にF16を想定した最大重量20tでの防護設計(衝突速度は150m/s)を前提に事業指定処分を受けていることを理由に、三沢基地に既に配備されているF35(運行時の最大重量30t前後)に対する防護設計がまったくなされていないにもかかわらず、落下確率に関する評価基準を曲げて、小型機の墜落事故は1回を0.1回とカウントするという方針を発表した。本件再処理工場への落下確率が基準にほぼ達してしまったという事態を受けて、F35に対する防護設計がなされていない六ヶ所再処理工場を合格させるために、被告は基準の方を曲げるというのである。
 航空機落下による火災の評価については、被告が定めた基準上、建屋の中心から落下確率に関する評価基準上落下確率が10−7となる面積に相当する円の半径分離れた地点に航空機が落下した場合に建屋の外壁がその熱に耐えられるかだけが評価されることとされている。すなわちその円内に航空機が落下することはない(想定しなくてよい)というのである。この基準の考え方について、被告も不合理なものと認めざるを得なくなった。しかし、被告は、本件再処理工場についてだけはその不合理と認めた基準を適用しないこととしたが、同時に原発については基準を改めない、言い換えれば自ら不合理と認めた基準を今後も適用することを言明した。
 本準備書面では、この被告の姿勢について論じ、第1に本件再処理工場については被告の審査基準上航空機墜落に対する防護設計(テロによる場合を除き航空機が墜落しても安全機能を維持できる設計)が必要な水準にありながら適切な防護設計がなされておらず、実質的には基準に適合していないことを指摘し、第2に被告が原発の再稼動・原子力施設の稼働に支障となる場合には、審査基準を曲げることも不合理と認めた審査基準を維持することも辞さない姿勢を示しており、このような被告による適合性審査で合格と判定されてもそのことから審査基準適合性をまったく推定できないことを指摘する。

第2 航空機落下確率について
 1 被告の審査基準

 航空機落下確率の評価については、被告発足後においても(現在においても)2002年7月30日制定(2009年6月30日一部改正)の「実用発電用原子炉施設への航空機落下確率に対する評価基準」(乙E第15号証:こちらですが、書証で出ているものとはページ数が違いますのでご注意ください)が審査基準とされている。
 この審査基準においては、自衛隊機または米軍機の落下事故については、「訓練空域内での訓練中及び訓練空域外を飛行中の落下事故」の確率を、「原子炉施設上空に訓練空域が存在しない場合」については、最近の20年に日本国内の陸上に落下した事故だけを考慮した単位年当たりの訓練空域外の落下事故率(計算式ではfso)を全国土面積から全国の陸上の訓練空域の面積を除いた面積(計算式ではSo)で割り、これに原子炉施設の標的面積(計算式ではA)を掛けて求めることとされている(乙E第15号証基準−8〜9ページ、解説−13ページ)。
 この基準では、「有視界方式の民間航空機の落下事故」の確率の評価についてのみ計算式に「対象航空機の種類による係数」(評価基準の記号ではα)が含まれており、小型機(最大離陸重量5700kg以下)については大型機の10分の1とすることが定められている(乙E第15号証基準−6〜7ページ、解説−5ページ、解説−11〜12ページ)。
 すなわち、航空機落下確率に対する評価基準では、小型機については墜落事故の確率評価にあたり係数を掛けるという考え方を、有視界方式の民間航空機の場合には採用しつつ、自衛隊機または米軍機の落下事故の場合には採用しなかったのである。その点に関して評価基準は計算式を明確に書き分けており、解説上も自衛隊機または米軍機の落下事故の確率評価に際して小型機の評価を別異にすることを許容する旨の記載は皆無である。

 2 本件再処理工場への航空機落下確率の評価
 本件再処理工場の適合性審査において、かつては日本原燃が2012年までの20年間の墜落事故のみを考慮して7.5×10−8であるとの評価を提出し、被告(原子力規制委員会)はこれが「最近の20年」の事故に基づいて評価するという評価基準に違反していることを何ら指摘もしていなかった。
 本訴において、原告らは、2018年3月9日付の原告ら準備書面(158)において、評価基準に従い正しく最近の20年の事故に基づき、かつ1度に2機が墜落した事故を2回の墜落事故とすれば本件再処理工場への航空機の落下確率は9.6×10−8となることを指摘した。その後、日本原燃は同年7月6日付で、1度に2機が墜落した事故を1回と評価して、それ以外は原告らの指摘をそのまま受け入れて本件再処理工場への航空機落下確率を9.0×10−8とする再評価(甲D第259号証)を適合性審査に提出した。
 この日本原燃の再評価について、被告(原子力規制委員会)の更田委員長は、2019年3月20日の原子力規制委員会本会議において、「これは境界となる頻度とほぼほぼ同レベルととるべき」と発言した(甲D第295号証=同会議議事録25ページ)。この発言を受けて、原子力規制庁の金城チーム長補佐も、2019年4月23日の適合性審査の場で、日本原燃を前に、「10−7といったものに比べると、ほぼ、ほぼ同じようなオーダーを示している」と発言している(甲D第296号証=同会合の議事録9ページ)。これらの発言から明らかなように、日本原燃が1度に2機が墜落した事故を1回とカウントして落下確率を低く装った再評価の結果さえも、規制委員会として常識的に考えれば、評価基準が防護設計を求めている落下確率ともうほぼ同じではないかと評価されたのである。したがって、本件再処理工場への航空機落下確率は、被告(原子力規制委員会)の評価でも、防護設計(テロによる場合を除き航空機が墜落しても安全機能を維持できる設計)が必要な水準にある。

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第3 本件再処理工場の「防護設計」のレベル
 1 本件再処理工場の「防護設計」

 本件再処理工場については、福島原発事故前になされた事業指定処分及び事業指定変更処分の段階で、F16戦闘機を想定した防護設計がなされているとして安全審査に合格とされていたが、その内容は、全体破壊(墜落した航空機の全体の重量により建屋が崩壊しないか)において航空機重量20t、衝突速度150m/s(毎秒150m)での評価がなされたのみであり、局部破壊(墜落した航空機のエンジンが壁・天井を貫通しないか)においてやはり150m/sでの評価がなされたのみであった(甲D第297号証=「既許可申請における航空機落下に対する防護設計について」8ページ)。

 2 衝突速度または航空機重量を変化させた場合の全体破壊・局部破壊評価
 原告らは、2012年11月30日付の原告ら準備書面(114)において、衝突速度または全体重量を変化させた場合の全体破壊評価及び衝突速度を変化させた場合の局部破壊評価を検討し、全体破壊については、東芝で原子炉格納容器設計に携わり格納容器グループ長を務めた後藤政志氏の解析結果(甲D第174号証)に基づき、衝突速度が187.5m/sに達した場合または全体重量が30tに達した場合、本件再処理工場の事業指定の際の安全審査において用いられた全体破壊の評価基準を超えることを指摘し、局部破壊については、安全審査に用いられた計算式からF4EJ改のエンジン2機の評価では衝突速度200m/sで本件再処理工場の主要建屋の壁厚である125cmを貫通することを指摘した。
 現在までにこの解析・計算結果について、被告から反論も反証もなされていない。

 3 三沢基地に配備済のF35に対する防護設計はなされていない
 本件再処理工場から30km足らずの距離にある三沢基地には、F35ステルス戦闘機が配備され、2019年3月現在で12機が配備されており、最終的には40機が配備される予定である(甲D第298号証=2019年3月26日付時事通信記事)。
 F35はF35A、F35B、F35Cの3種類があるが、製造元のロッキード−マーチン社のサイトに記載されているスペック(甲D第299号証)では、F35Aが機体重量(Weight empty)が29,300lb(lbはポンド:1ポンド=0.453592kg)、機内燃料容量(Internal fuel capacity)が18,250lb、兵器搭載量(Weapons payload)が、18,000lbとされているから運行時の最大重量は65,550lb=29,733kgとなり、ほぼ30tに達する。同様にF35Bは機体重量32,300lb、機内燃料容量13,500lb、兵器搭載量15,000lbであるから運行時の最大重量は60,800lb=27,578kg、F35Cは機体重量34,800lb、機内燃料容量19,700lb、兵器搭載量18,000lbであるから運行時の最大重量は72,550lb=32,908kgとなる。
 上記のとおり、F35のスペックにおいて、予定されている運行時の最大重量は30t程度に及んであり、これだけを見ても本件事業指定の際の安全審査の際に用いられた全体破壊の評価基準を超える。この点については、後藤政志氏においてより具体的な評価をして、全体破壊が生じることを指摘している(甲D第300号証)。
 したがって、三沢基地に現在既に配備されているF35ステルス戦闘機が本件再処理工場に落下衝突した場合について評価すれば、衝突速度を150m/sとした場合であっても、本件事業指定の際の安全審査に用いられた全体破壊の評価基準を超えることになる。すなわち、本件再処理工場は、現在三沢基地に配備されているF35に対する防護設計はなされていない(基準を満たしていない)のである。

 4 衝突速度150m/sの非現実性
 (1) はじめに

 加えて、戦闘機が落下衝突する場合の衝突速度を150m/s(グライダー状に滑空する時の速度)とすることについては、到底合理性を有しない。
 通常巡航速度が音速(340m/s程度)を遙かに超える戦闘機が墜落衝突するときの衝突速度を150m/sとして評価することが原子力施設の安全審査に値するような安全側の評価とは到底いえないことは、ごく常識的に考えれば明らかなことではあるが、ここでは、そのことを、高レベル放射性廃棄物貯蔵施設の安全審査資料、2019年4月9日に発生した三沢基地配備のF35A戦闘機の墜落事故とその際にクローズアップされた「空間識失調」問題から指摘しておく。

 (2) 安全審査資料に表れた本来安全審査で想定すべき速度
 本件再処理工場と並行して安全審査が行われていた高レベル放射性廃棄物貯蔵施設の第1次審査の資料に含まれていた「衝突速度条件の二段階設定にかかる問題点について」という文書(甲D第53号証)には、「安全上重要な施設のうち特に重要と判断される施設」については衝突速度を「三沢対地訓練区域で訓練飛行中の航空機に係る事故で発生すると考えられる最大速度とする」その最大速度の例としては、「1800m(国会答弁による高度)から滑空飛行するとして飛行特性に基づき求められた衝突速度(215m/s程度)」「23000ft(訓練区域の上限高度)から滑空飛行するとして飛行特性に基づき求められた衝突速度と音速(訓練区域では音速では飛行していない)のうち大きい方の速度(〜340m/s)」とされていた。
 この第二段階衝突速度が、結局採用されなかった理由は、大幅な設計変更を要し工期が大幅に遅れることに加えて、ウラン濃縮工場で採用された衝突速度条件150m/sとの整合性、これまで衝突速度150m/sと説明してきたことを他の数値に変更するとPA(Public Acceptance)上大きな社会問題となり立地点としての適合性の問題がクローズアップされる、設計及びコスト面への影響が過大である、他の原子力施設での安全評価に影響を与える恐れがあるということにあった(甲D第53号証)。
 すなわち、三沢対地訓練区域を間近に控える本件再処理工場においては、戦闘機が墜落衝突する場合の衝突速度として、その可能性自体からは215m/sないしはそれ以上が十分に考えられ、安全審査において検討すべきと、日本原燃自身あるいは行政庁も考えていたものである。

 (3) 2019年4月9日に発生した三沢基地配備のF35A墜落事故
 2019年4月9日、三沢基地所属のF35A戦闘機が同型機4機での対戦闘機戦闘訓練中に通信途絶の上行方不明となり、同日19時27分頃墜落した(甲D第301号証=「F35A戦闘機墜落事故の要因と再発防止策について」)。墜落の際、当該戦闘機は時速1100km(305.6m/s)以上の速度であった(同)。墜落の際には約15秒で約4400mを降下しており(同)、垂直方向の速度で考えても293.3m/s以上の速度で急降下したものである。決してグライダー状に「最良滑空速度」で滑空してなどいない。
 航空自衛隊は、急降下の過程で回復操作が見られないことから、操縦者が「空間識失調」(平衡感覚を失った状態)に陥っており、そのことを本人が意識していなかった可能性が高いと推定している(同)。

 (4) 空間識失調
 戦闘機のパイロットが空間識失調に陥ることは稀なことではない。
 2019年4月9日のF35Aの墜落事故に際して、パイロット経験者が「空間識失調は誰にでも起き得る現象。たとえベテランパイロットが普段飛び慣れた機体に乗ったとしても発生する。空と海の見分けがつきづらい夜間だけではなく昼でも雲に入ったりすると起こることがある。」と話している(甲D第302号証=東奥日報2019年6月8日付記事)。
 2017年10月17日にも航空自衛隊浜松救難隊所属のヘリコプターUH−60Jが、操縦士が空間識失調に陥ったために墜落している(甲D第303号証=「UH−60J航空事故に関する航空事故調査結果について」)。
 このように空間識失調は稀な現象ではなく、エンジンが停止することなく戦闘機が高速のままで墜落することは十分に起こり得ることである。

第4 被告の姿勢
 1 防護設計の審査基準は作成されていない

 被告の規制基準、審査基準上、故意による航空機の衝突(航空機テロ)による影響の評価に関しては基準が作成されている(実用発電用原子炉に係る航空機衝突影響評価に関する審査ガイド)が、航空機落下確率評価において落下確率が10−7を超えた場合に防護設計(テロによる場合を除き航空機が墜落しても安全機能を維持できる設計)を実施するための基準は定められていない。
 被告は、原子力事業者に対して、航空機テロ対策(その場合は、安全機能は維持されなくてもかまわない。建屋は壊れてもよい)以外における防護設計(この場合、安全機能が維持されなければならず、基本的に建屋は壊れてはならない)を求める意思がない故に、その場合の基準を作成していないものと考えられる。
 そして、基準がない結果、仮に防護設計が必要となった場合、被告がその適否を判断することもできない。

 2 適合性審査での審査内容
 更田委員長が「これは境界となる頻度とほぼほぼ同レベルととるべき」と発言した後、本件再処理工場の適合性審査では、2019年4月23日の審査会合で日本原燃が事業指定時の安全審査について、全体破壊に関してはF16を想定して重量20tの戦闘機が衝突速度150m/sで衝突した場合の解析をしたことのみを説明した(甲D第297号証=「既許可申請における航空機落下に対する防護設計について」)だけでそれ以上の検討評価はまったくなされていない。
 F35Aが墜落した場合の解析はまったくなされていない(同)し、審査会合でも原子力規制委員会、規制庁側からまったく質問されなかった(甲D第296号証=同会合の議事録5〜12ページ参照:航空機落下に関する審議は、火災影響評価も含めて、この会合の議事録のこの範囲だけである)。
 本件再処理工場から30km足らずの距離(戦闘機の飛行では、ほんの1〜2分程度の距離)の三沢基地に重量30t程度のF35が現実に配備されているというのに、重量20tの衝突しか解析していないという日本原燃の説明に対し、F35に対する解析は行わないのか、30tだったら建屋が壊れないかとだれひとり質問さえしないのである。これが安全審査だろうか。

 3 「今後の審査方針」
 被告(原子力規制委員会)は、2019年8月21日、「日本原燃株式会社再処理施設の新規制基準適合性審査における航空機落下確率評価等に関する今後の審査方針について」(甲D第304号証)を決定し公表した。
 その審査方針においては、本件再処理工場への航空機落下確率評価においては「有視界飛行方式民間航空機のうち小型機に係る落下確率評価における1/10の係数を乗じるとの考え方を、自衛隊機及び米軍機のうちその影響がF16と同程度かそれ以下のものにも適用する」としている。すなわち、F16(重量20t)以下の戦闘機は有視界飛行方式の民間機の場合の「小型機」(定義上5.7t以下のもののはずだが:乙E第15号証解説−5ページ)扱いして落下確率計算上1回の事故を0.1回とカウントするというのである。

※この準備書面提出後の2019年9月11日、日本原燃は原子力規制委員会の方針に基づいて、航空機落下確率を6.5×10−8に下方修正した。

 4 被告の姿勢の誤り
 本準備書面の最初(第2の1)に指摘したとおり、航空機落下確率に対する評価基準(乙E第15号証)では、小型機については墜落事故の確率評価にあたり係数を掛けるという考え方を、有視界方式の民間航空機の場合には採用しつつ、自衛隊機または米軍機の落下事故の場合には採用していない。被告は、本件再処理工場については、その評価基準を曲げて特別扱いするというのである。
 その被告の審査方針は、更田委員長が「これは境界となる頻度とほぼほぼ同レベルととるべき」と発言し、本件再処理工場への航空機落下確率が防護設計を要する水準であるとの認識が示された後、本件再処理工場の防護設計が全体破壊に関して重量20t、衝突速度150m/sでしか解析されていないことを適合性審査会合で確認した後に決定された。これは、航空機落下確率が実際には防護設計を要する水準だが、本件再処理工場の防護設計が三沢基地に現実に配備されているF35(重量30t)に対してはなされておらず、F35が墜落した場合の解析をすると衝突速度150m/sでさえ全体破壊の基準をクリアできないために、やはり防護設計は必要ないことにしなければならない、言い換えれば本件再処理工場への航空機落下確率を基準となる10−7よりも大幅に低いという計算結果を是が非でも出さざるを得なくなって、航空機落下確率に対する評価基準に立ち戻ってその計算方法を曲げることにしたものと優に推認できる。
 日本原燃が当初F16を想定した防護設計を前提に事業指定を受けた後、その後に配備されたF4EJ改について再評価しているように、旧科学技術庁は戦闘機の機種が更新された場合には新たに配備された機種について再評価することを求めていた(甲D第297号証=「既許可申請における航空機落下に対する防護設計について」4ページ参照)。国会事故調報告書で「事業者の虜」と評価された福島原発事故前の規制当局は、日本原燃に対して三沢基地に現実に配備された戦闘機については事業指定後に配備されたものについても防護設計上再評価するよう求めていたのである。それに対し、福島原発事故前の規制行政(の甘さ・事業者とのなれ合い)への反省から発足したはずの被告(原子力規制委員会)は、日本原燃に対して、三沢基地に現実に配備されているF35についての再評価を求めることなく、いかにすればF35についての防護設計・再評価をしなくていいかの言い訳を捻り出すことに汲々とし、評価基準の方を曲げたのである。

第5 航空機落下による火災の評価
 1 被告の審査基準

 原子力施設に航空機が落下した場合の火災の評価について、被告は、2013年6月19日制定の「原子力発電所の外部火災評価ガイド」(甲D第305号証)において、火災の想定を「航空機の墜落は発電所敷地内であって墜落確率が10−7(回/炉・年)以上になる範囲のうち原子炉施設への影響が最も厳しくなる地点で起こることを想定する」とし(甲D第305号証C2〜3ページ)、具体的には航空機墜落地点を「原子炉施設を中心にして墜落確率が10−7(回/炉・年)以上になる地点」(甲D第305号証C3ページ)、火災発生地点と建屋外壁の距離(離隔距離)を「原子炉施設を中心にして墜落確率が10−7(回/炉・年)以上になる地点とその地点から原子炉施設までの直線距離」(甲D第305号証C2ページ)とすることを定めている。
 言い換えれば、航空機落下による火災の影響を評価するに際して、航空機は施設敷地内の建屋の中心から航空機落下確率に対する評価基準の計算上落下確率が10−7になる面積の円の半径に相当する距離離れたところに墜落し、その円内には墜落しないと想定するというのである。

 2 被告の審査基準の不合理性
 そもそも施設に墜落することを考慮するか否かというのであれば、墜落確率が極めて低い場合に考慮しない、墜落確率を基準に考えるということは理論的に合理性を有する。
 しかし、墜落する確率そのものは、意図的な航空機テロでない限り、施設内のどこでも同じというほかない。それなのに、まるで建屋付近には、一定の円内には墜落しないという考えを採ることは明らかに不合理である。率直にいって、被告(原子力規制委員会)が、このような審査基準を採用したこと自体、専門性というレベルにとどまらず、そもそも科学的に合理的な思考ができないことを示唆しているというべきである。
 この審査基準について、被告(原子力規制委員会)の更田委員長は、2019年3月20日の原子力規制委員会本会議において、「かなり奇怪な考え方」「随分トリッキーだなと思った」と発言した(甲D第295号証=同会議議事録27ページ、28ページ)。この発言を受けて、原子力規制庁の金城チーム長補佐も、2019年4月23日の適合性審査の場で、日本原燃を前に、「実際、用いている10−7というのは、落下でも火災でも同じ値を使っていて、ただ、火災になるとなぜかしら、この10−7が何かあたかもセーフティエリアのような形で、何か、この中には落ちないよという仮定になっていって、ガイドは進んでいくわけなんですけれども、使い方がちょっと異なる」と発言している(甲D第296号証=同会合の議事録11ページ。議事録記載の「過程」は誤りと思われるので訂正した)。これらの発言を見てもわかるように、被告(原子力規制委員会)においてさえ、自ら作成したこの審査基準が不合理であることを認識し、表明しているのである。

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 3 被告の姿勢
 被告は、このような経緯の後、2019年8月21日、本件再処理工場の航空機墜落による火災影響の評価においては「原子力発電所の外部火災評価ガイド」の付属書Cの墜落地点の考え方によらず、建屋外壁等で火災が発生することを評価基準とすることを発表した(甲D第304号証=「日本原燃株式会社再処理施設の新規制基準適合性審査における航空機落下確率評価等に関する今後の審査方針について」1〜2ページ)。
 審査基準の明白な不合理性に照らし、審査基準の航空機墜落地点の考え方を採用しないこと自体は正しい判断というべきである。
 しかしながら、被告は、本件再処理工場に審査基準の航空機墜落地点の考え方を採用しない理由として「再処理施設は、各工程の建屋が隣接していること」を理由にしている(甲D第304号証)。このことは、そうでない原発については今後も「原子力発電所の外部火災評価ガイド」の付属書Cの墜落地点の考え方を採用することを意味している。上述したように、「原子力発電所の外部火災評価ガイド」の付属書Cの墜落地点の考え方は、その考え方自体が科学的合理的根拠を有さず、原子力規制委員会の委員長でさえ「かなり奇怪な考え方」と明言しているものである。このような一見明白に不合理な基準を、不合理としてしまえば既に許可してしまった原発の再稼動に影響があるということだけを理由に維持し、今後も採用するという被告の姿勢は、原発の再稼動のためならばどんな不合理な基準も改めないというものであり、このような被告によってなされる適合性審査は、仮に本件再処理工場がそれに合格と判定されても、安全性はもちろんのこと、審査基準適合性も推定できないというべきである。
以上

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