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  ◆民事裁判の話(民事訴訟の話)庶民の弁護士 伊東良徳のサイト モバイル新館

 民事裁判の判断の対象 

もくじ:index
 裁判所が判断する事実 GO
 裁判所が示す法解釈 GO
 請求に対する判断=判決主文 GO
 まとめ GO
 
ついで:民事裁判で勝つには?GO
   
 民事裁判の判決では、当事者(原告・被告)の主張する事実があったか、どのような事実があったかを認定し、その事実を法律などの判断基準に当てはめて、当事者(普通は原告)の請求が認められるか、どれくらい認められるかを判断します。しかし、判断対象となる事実の範囲、法解釈、判断の結果としての主文の内容は、民事裁判では当事者の請求の範囲で、請求が認められるかを判断するために必要な範囲でだけ判断するということから、さまざまな制約を受けていて、一般の人が想像しているのと異なっていることが多々あります。

  裁判所が判断する事実

 裁判所は当事者が主張する事実について、何でも判断を示すというわけではありません。裁判所が判断する対象は大きく分けて2つの点で限定されます。
 1つは、当事者の請求が認められるかに影響するかどうかです。実際には、裁判所は、当事者の請求の理由となる法律構成を先に決め、その法律構成によって請求が認められるための要件となる事実を考え、その要件となる事実がこの事件で現実にあったかを認定するという思考パターンを採ります。ですから、当事者が裁判で特定の事実にこだわって、このことを認めて欲しい(判断して欲しい)と強調しても、その事実があってもなくても請求を認めるかどうかに影響しない場合、判断を示さないことが多いのです。
 もう1つは、当事者がその事実があったかなかったかを争っているかどうかです。当事者が争っていない事実は、裁判所は独自に判断せず、当事者の主張(が一致しているその内容)通りだという前提で考えます。
 結局、裁判所が事実認定で判断を示すのは、当事者の請求を認めるかどうかに影響する事実のうち当事者が争っている(主張が食い違う)事実ということになります。

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  裁判所が示す法解釈

 裁判所が判断を示すのは、事実認定だけではありません。
 一般の方には意外だと思えるでしょうが、民事裁判の大半は、事実認定で決着がつきます。多くの事件では、事実がはっきりすれば、契約や法律の規定によりどうなるかがはっきりし、その結果、当事者の請求が認められるべきかどうかが決まるからです。
 しかし、同じ事実関係でも法律論や法解釈によって結果が変わってくる場面もあります。
 1つは、複数の法律構成が考えられ、どちらによるかで結論が変わる場合です。例えば不当解雇を主張して金銭請求するとき、解雇が合理的な理由がなく社会通念上相当とはいえないと裁判所が認めた場合、解雇が無効だとして(労働者の地位の確認と)賃金を請求していれば賃金の支払が認められますが、解雇が不法行為であるとして賃金相当の損害の賠償と慰謝料を請求していても、不法行為と認めるには違法性が足りないとされて請求が認められないということもあり得ます。裁判所は、当事者の主張に拘束され、当事者が主張してもいない法律構成を採ることはできません。
 もう1つは、適用すべき契約や法律の規定が不明確(趣旨ははっきりしていてもとても抽象的なときも同じ)であるか、明確でもそのまま適用すると不当な結果になると考えられる場合です。この場合、裁判所による契約や法律の「解釈」が示されます。例えば、最高裁は、賃金や退職金などの労働条件を労働者に不利益に変更する同意をめぐって、「当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」ことを要するという判断をすることがあります。同意があれば有効としてしまうと、労働者が使用者の指揮命令を受ける立場にありまた情報収集能力が十分でないことを考えると、不当な結果となってしまうため、裁判所がそのような法理を編み出していると考えられます。かつては、すでに発生している賃金や退職金を放棄したりする場合について言っていましたが、近年は妊娠中の軽易業務への転換を契機とした降格への同意、退職金規程の不利益変更(将来の退職金減額)への同意についてもそのように言っています。退職金規程の不利益変更への同意について判断した判決では、「就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当である。」と具体的な考慮事項等を示して、その判断基準を判示しています。ここでこの判決が述べたような考慮事項というか、判断基準は、法律にはどこにも規定がなく、賃金や退職金の減額という重要な労働条件の不利益変更対する労働者の承諾についてどう考えるべきかという一般論から導いたものです。こういう形で、契約や法律の条項でははっきりしなかったり、その事案に適切でなかったりするところが、裁判官の法解釈で解決されるということも、時々は、あります。
  裁判実務での法解釈の考え方について、刑事事件の説例ですが、「法解釈を考える」で少し具体的に説明しています。

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  請求に対する判断=判決主文

 民事裁判では、当事者が主張する事実のうち裁判所が認定した事実に、当事者が主張する法律構成に即した法律などの判断基準(多くの場合は明確な法律・契約の規定、それが不明確か適切でないときは裁判所が法解釈を示して)を当てはめて、最終的には、当事者の請求が認められるか、どれくらい認められるかを判断します。
 この判断対象の「請求」も、当事者の主張によって拘束されます。裁判所は、通常の民事裁判では、当事者が請求していない請求を勝手に認めることはできません。例えば、当事者が解雇の無効を理由に労働者としての地位確認と賃金支払を請求している裁判で、裁判所が一定額の金銭の支払と合意退職を命じるような判決は出せません(労働審判の場合、通常の民事裁判と性質が違うので、そういうこともできるのではという議論があり、労働側弁護士と使用者側弁護士の間で対立があります)。また、原告が100万円の請求をしている裁判で、裁判所が被告が悪い奴だということで200万円の支払を命じることもできません。原告が裁判所がそれくらい認めてくれそうだと判断して裁判の途中で請求額を増やす(請求の拡張といいます)ことはできますし、原告が請求額を200万円に増やせば裁判所も200万円の支払を命じることができますが、原告がそうしない場合、裁判所は原告の請求の範囲を超えた判決は出せないのです。

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  まとめ

 以上をまとめると、民事裁判では、裁判所は、当事者の請求が認められるかを判断するのに必要な範囲で当事者が主張して争いがある事実について、事実があったかどうか、どのような事実があったかを認定し、当事者の主張する法律構成に沿って、適用すべき法律等の判断基準を当てはめ(それが不明確なときや不適当なときは適切な法解釈を示し)、当事者が請求している範囲で当事者の請求が認められるか、どれくらい認められるかを判断するということになります。
 裁判所が勝手に何でも判断できるのではなく、当事者が求めている請求を判断するために必要な範囲でだけ判断するという裁判所を縛るルールがあるということと、他方で、裁判所に持っていけば何でも判断してもらえるという制度ではない(裁判所は正しい事実を明らかにするところではなく、紛争の解決策を判断するところ)ことを理解しておきましょう。

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  ついで:民事裁判で勝つには?

 このような民事裁判での判断の枠組みから考えて、民事裁判で勝つためには何を考えればいいでしょうか。
 まず順当には、紛争での双方の主張や手持ちの証拠から考えて、裁判所で認められそうな事実の範囲を考え、それにより満たすことができる法律構成と請求内容を考えて、裁判を起こし、また裁判での主張を組み立てるということになります。
 それができない場合には、認められそうな範囲で、自分が正当で現在置かれている状態が正義に反する(過酷である)ことを示す事実を主張して、通常のルール(契約条項や法律の規定)を適用することが不当だと裁判官に思わせるようアピールし、適切な法解釈を示させるということになるでしょう。ただし、これがうまく行く確率は相当低いということは理解して欲しいところです。

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