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 控訴の話(民事裁判)

【注:刑事裁判についてはこちら】→控訴の話(刑事裁判)
もくじ:index
 控訴の手続:控訴状/控訴期限、控訴理由書 GO
 控訴審の審理の実情:控訴理由書でほぼ決まり GO
 
控訴審を受任する難しさ GO

Tweet  はてなブックマークに追加 控訴の話(民事裁判) 庶民の弁護士 伊東良徳

  控訴の手続

 第1審の判決に不服がある当事者は、控訴(こうそ)をすることができます。

控訴の方法:控訴状の提出
 控訴は、第1審が地方裁判所、家庭裁判所の場合は高等裁判所宛の控訴状(こうそじょう)を、第1審が簡易裁判所の場合は地方裁判所宛の控訴状を、どちらの場合も第1審の裁判所に提出して行います。
 控訴する際は、控訴状に所定額の印紙(後で説明します)を貼り、所定額の郵券(東京高裁の場合、被控訴人が1人なら6000円)を予納する必要があります。第1審の裁判所の民事受付に提出しに行く場合、第1審の判決(のコピー)を持っていった方がいいです。

控訴期間:控訴状の提出期限
 控訴状は、判決書が送られてきた日(裁判所で判決書を受け取った場合はその日)の翌日から数えて2週間以内(2週間後の同じ曜日まで)に提出しなければなりません。
 民事裁判の場合、裁判所に行って判決の言い渡しを聞いても(傍聴席で聞いた場合だけでなくて、出頭カードに名前を書いて当事者席で聞いた場合でも)判決書を受け取らずに帰れば、裁判所は当事者から届出された「送達場所」に判決書を送り、控訴期間はやはり判決書を受け取った日のその翌日から数えます。代理人(弁護士)がついている場合は、(ふつう、代理人の事務所が送達先と届けていますので)代理人が判決を受け取った日が基準になります(本人が代理人から受け取った日ではありません)。
 送られてきた判決書を受け取らなかったり、夜逃げしてしまった場合は、どうなるでしょう。この場合、訴状について「裁判所の呼び出しを無視すると」で説明したのと同じように、裁判所の判断で「郵便に付する送達」や「公示送達」がなされることがあり、その場合は現実に判決書を受け取らないうちに控訴期間が進行することになってしまいます。「郵便に付する送達」の場合は裁判所が判決書を発送した日、「公示送達」の場合は1回目なら判決書の掲示から2週間経過した日、2回目以降なら掲示の翌日(訴状も公示送達された場合は、ふつうこうなります)にそれぞれ判決書が送達されたと扱われますから、その翌日から数えて2週間が控訴期間となります。

控訴状の記載内容
 控訴状には、第1審判決の当事者(住所・氏名)と第1審判決の表示(裁判所、事件番号、判決言い渡し日、判決主文)、その第1審判決に対して控訴するということを記載しなければなりません。
 法律上要求される控訴状の記載事項は一応それだけですが、控訴審の審理対象と判決の対象は控訴人(こうそにん)が控訴する範囲に限定されますし、控訴状に貼る印紙の額は控訴の範囲を基準として算定しますので、現実には控訴の範囲も記載しなければなりません。全部敗訴した人が控訴する場合は「全部不服であるから控訴する」と記載し、一部敗訴した人が控訴する場合は「控訴人敗訴部分につき不服であるから控訴する」と記載するのがふつうです。
 実務上は、控訴の趣旨(こうそのしゅし)、つまり、控訴する人が求める(希望する)控訴審判決の主文も記載するのがふつうです。これによっても、控訴の範囲がわかります。
 1審で全部敗訴した原告、例えば被告に対して500万円の支払いを請求して、請求棄却(せいきゅうききゃく)の判決(主文は、1.原告の請求を棄却する。2.訴訟費用は原告の負担とする。)を受けた原告が控訴する場合の控訴の趣旨は、ふつうは、「1.原判決を取り消す。2.被控訴人(ひこうそにん)は、控訴人に対し、金500万円を支払え。3.訴訟費用は、第1審、第2審を通じて被控訴人の負担とする。」です(遅延損害金とか仮執行宣言は省略)。控訴の場合、控訴に理由がある場合でも、原判決を「破棄(はき)」することはなく(「破棄」は上告の場合の用語です)、取消、または変更することになっています。
 1審で全部敗訴した被告、例えば500万円の支払いを請求されて全部敗訴(請求を全部認容する)判決(主文は、1.被告は、原告に対し、金500万円を支払え。2.訴訟費用は被告の負担とする。)を受けた被告が控訴する場合の控訴の趣旨は、ふつうは、「1.原判決を取り消す。2.被控訴人の請求を棄却する。3.訴訟費用は、第1審、第2審を通じて被控訴人の負担とする。」です。
 1審で一部敗訴した人が控訴する場合はどうなるでしょうか。例えば500万円の請求のうち300万円が認められた判決(主文は、1.被告は、原告に対し、金300万円を支払え。2.原告のその余の請求を棄却する。3.訴訟費用はこれを5分し、その3を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。)に対して、原告が控訴する場合の控訴の趣旨は、「1.原判決を次の通り変更する。2.被控訴人は、控訴人に対し、金500万円を支払え。3.訴訟費用は、第1審、第2審を通じて被控訴人の負担とする。」、被告が控訴する場合の控訴の趣旨は、「1.原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。2.被控訴人の請求を棄却する。3.訴訟費用は、第1審、第2審を通じて被控訴人の負担とする。」とするのがふつうです。(この例で原告が控訴する場合に、「1.原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。2.被控訴人は、控訴人に対し、金200万円を支払え。3.訴訟費用は、第1審、第2審を通じて被控訴人の負担とする。」という文例もありますが、ちょっとわかりにくく違和感が残ります。また、この例で被告が控訴する場合の第2項を「前項の部分につき被控訴人の請求を棄却する」「被控訴人の上記取消にかかる部分の請求を棄却する」という文例もあり、理屈としてはこちらの方がより正確とされます)
 1審で全部敗訴した原告が、控訴に際して請求する額を限定する場合は、どうすればいいでしょうか。例えば、1審で500万円の請求をして全部敗訴した(請求棄却の判決を受けた)原告が、控訴に際して300万円の範囲でだけ控訴したいというような場合です。私自身は、現実に行った経験がありませんが、「控訴人の請求のうち300万円の支払いを認めなかった点について不服であるから控訴する」とし、控訴の趣旨は、「1.原判決を次の通り変更する。2.被控訴人は、控訴人に対し、金300万円を支払え。3.訴訟費用は、第1審、第2審を通じて被控訴人の負担とする。」などとしておけばいいようです。
 控訴理由は控訴状に書いてもかまいませんが、ふつうは控訴状には書かずに、別に控訴理由書(こうそりゆうしょ)を提出します。

控訴状に貼る印紙額
 控訴状に貼る印紙額は、控訴審において争われる対象の金額に応じて決まります。
 1審で500万円の請求がなされた事件(1審の訴状に貼る印紙は3万円:詳しくは裁判所に納める費用(民事裁判)を見てください)で、全部敗訴した(請求棄却の判決を受けた)原告、全部敗訴した(500万円の支払いを命じられた)被告が全部控訴する場合は、500万円を基準として1審の5割増しの金額となり、控訴状に4万5000円の印紙を貼る必要があります。
 1審で一部敗訴した場合、例えば500万円の請求に対して被告に300万円の支払が命じられた事件で、原告が控訴する場合は200万円を基準として(1審なら1万5000円)2万2500円の印紙を貼る必要があり、被告が控訴する場合は300万円を基準として(1審なら2万円)3万円の印紙を貼る必要があります。
 1審で500万円請求して全部敗訴した原告が300万円分だけ控訴する場合、やはり300万円を基準として3万円の印紙を貼ることになります(この場合に、移審の効果は全部について生じるとして書記官から疑問を呈されることもありますので、事前に書記官と協議した方がいいかもしれません)。

控訴後の手続
 控訴をすると、1審裁判所での事件番号がつきます。地方裁判所が1審の通常事件(1審の事件は(ワ)号)の場合、(ワネ)の事件番号がつきます。
 第1審裁判所は、控訴がなされると事件記録を整理して、控訴審裁判所に送ります。
 東京地裁が1審で東京高裁が控訴審の事件では、多くの場合、1か月あまりたって、次に説明する控訴理由書の提出期限の1週間くらい前あたりに、東京高裁から第1回口頭弁論期日調整等のための「照会書(しょうかいしょ)」が、弁護士に対しては、FAXで送られてきます。ふつうは、そこで初めて、控訴審の事件番号:(ネ)の事件番号と、係属部がわかります。

控訴理由書の提出期限
 控訴理由書は、控訴の日の翌日から数えて50日以内(7週間後の次の曜日と見るのが計算しやすいですよ。控訴した日が月曜日なら7週間後の火曜日まで)に控訴審の担当部に提出することになります。控訴理由書の場合は、上告理由書と違って、期限に遅れたら当然に棄却というわけではありません。しかし、事件記録が大量だとか、代理人の弁護士が交替したとかいう理由で裁判所と延長の交渉をすることはできるでしょうが、そうでもなければ出し遅れたら心証が悪くなると思った方がいいです。
 東京高裁から来る照会書には、控訴理由書の提出期限が太字で書かれているのが通例です。部によっては、さらにそこに「厳守」と記載してくる部もあります。

 控訴理由書は正本を控訴審の担当部に直接提出します。控訴理由書は準備書面と同様の扱いですので、FAX送信でもかまいません。
 控訴理由書の副本は、相手方(被控訴人。多くの場合はその代理人の弁護士)に直送してかまいませんし、裁判所に聞けば、たいていは直送してくれと言われます。もっとも、1審での弁護士が必ず控訴審での被控訴人代理人となるとは限りませんので、私は、控訴審の担当部の書記官に電話して、控訴理由書の副本は原審代理人に送っていいか(訴訟委任状は出ているか)を聞いてから送ります。

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  控訴審の審理の実情:控訴理由書でほぼきまり

 控訴審の大部分は、第1回口頭弁論で弁論終結されています。事件記録が膨大で事件の内容も相当複雑だとか、いわゆる大事件でなければ、当然に第2回口頭弁論がある、とは思わない方がいいです。私の経験した東海第二原発訴訟で東京高裁で16年審理したとか、柏崎原発訴訟で東京高裁で10年審理したというのは例外中の例外です。

第1回口頭弁論期日まで
 通常の事件では、控訴理由書の提出期限の少し前あたりに、第1回口頭弁論期日が指定されます。第1回口頭弁論期日がいつになるかは、裁判所の候補日と、双方(代理人)の予定によりますが、早い事件で控訴理由書提出期限の3週間後くらい、遅い期日指定だと控訴理由書提出期限の1か月半後くらいというところです。
 控訴された側(被控訴人)が控訴人の控訴理由書に対する反論として提出する控訴答弁書については、東京高裁の実情としては、照会書で第1回口頭弁論期日の2週間前に提出するように書いてくる部、1週間前までに提出するように書いてくる部、特に何も書いてこない部があります。何も書いてこない部に、いつまでに出せばいいかと聞いてみると、1週間前までに出してくれればいいといわれた経験があります。
 被控訴人側では、控訴理由書が期限どおりに出てくるか(守らない弁護士は、やはりいますから…)、その内容、控訴理由書とともに提出される書証等により、どの程度の対応をする必要があるかはさまざまです。

進行協議期日が開かれる場合も…
 第1回口頭弁論期日の前に、法廷ではなく裁判官室近くのふつうの部屋で、「進行協議期日(しんこうきょうぎきじつ)」が開かれることもあります。2000年代の前半あたりは、ごくふつうの事件でも進行協議期日が開かれていました。ふつうの事件では、進行協議期日は主任裁判官(右陪席裁判官か左陪席裁判官のどちらか)が担当し、双方(弁護士が付いているときは弁護士)が呼ばれて、主張のポイントや証人申請の予定を聞かれたり、和解の意向を聞かれたりします。
 大事件の場合、裁判長も進行協議に出席してけっこうシビアなやりとりがあることもあります。原発裁判で初めて住民側が勝訴した「もんじゅ訴訟」控訴審では、裁判所の意向によって、進行協議期日の形で双方の専門家が論点ごとに安全性/危険性について裁判官にレクチャーして裁判官もその専門家に質問したりして裁判官の理解を深めるということが行われました。その結果住民側勝訴の判決が出たため、国側にはそれがトラウマとなり、その後すべての訴訟で国側は進行協議期日でのレクチャーに絶対反対の態度を取っています。
 近年では、ふつうの事件で進行協議期日が開かれることはほとんどなくなり、一時の流行だったのかなという感じがします。

第1回口頭弁論期日とその後
 控訴審の口頭弁論期日は、ほとんどの場合、提出書類(控訴状、控訴理由書、答弁書、書証等)を確認した後、裁判長が、控訴理由書について「新しい主張はありませんね」と確認し、「では裁判所の方で判断させてもらいます」なんていって弁論終結、判決期日は・・・というような調子で終わってしまいます。ですから、はっきりいえば、控訴理由書(と控訴答弁書)で事実上決まってしまうのですね。
 ただ、1回結審だから必ず控訴棄却(こうそききゃく:1審判決の通り。控訴した人の全面敗訴)かというと、そうとも限りません。私の経験でも、控訴審1回結審で原判決を変更するというのが少なくとも2桁にはなっています。
 判決期日を指定しつつ、和解期日が指定されることも、わりとあります。その場合、第1回口頭弁論期日に、今から少し和解の話ができますかといわれてそのまま書記官室脇の小部屋に移動して和解期日に移行することが多い【新型コロナ体制の下、裁判所は書記官室脇の小部屋の利用を避けることが多くなり、東京高裁では和解協議を法廷で行うことも多くなっています。その場合、和解を担当する主任裁判官以外の裁判官が退席し、双方代理人が残って、法廷で片方が席を外して法廷脇の待合室で待機し、残った一方が主任裁判官と和解の話をするということになります。最近はまた書記官室脇の小部屋で和解協議をすることも多くなってきています】ので、控訴審の第1回口頭弁論期日の後の時間は余裕を持って空けておくことになります。和解期日は、陪席(ばいせき)の主任裁判官(しゅにんさいばんかん)が担当して、双方が和解についての意向を聞かれるとともに、主任裁判官から事実上の心証(判決ならどうなる)が示されたりしながら詰めていき、合意できれば和解成立で判決期日は取消、決裂すれば判決となります。

控訴理由:何を主張すべきか
 控訴の理由は法律上制限されていませんから、何でもいいのですが(もちろん、裁判官を説得できる内容でなければ話になりませんが)、控訴理由書は、まず何よりも、裁判官に対して原判決を変更すべきことを説得する文書なのですから、原判決のどこに誤りがあるのかを論じないと、実務的には意味がありません。
 本人訴訟をして敗訴した方が私に相談に来られて(弁護士のサイトで控訴・上告等について詳しく書いているサイトが少ないため、私のところには、控訴・上告の相談がよく来ます)、控訴理由書の案を書いたから見て欲しいといってくる場合、原判決のどこが間違っているかを特定しないで自分の主張を書いて、その主張を採用しなかった原判決は誤りであるみたいなことが書かれていることがよくありますが、そういう控訴理由書で勝てることはまず考えられません。素人だけでなく、弁護士でも、負けた1審の最終準備書面の主張をほぼそのまま書いた控訴理由書を出してくることも、ままあります(私が勝って被控訴人側のときに、そういう控訴理由書を受け取ることが、稀ではなく、あります)。実質的に、控訴理由を思いつかず、ただ惰性で、あるいは依頼者の手前仕方なく控訴理由書を作成しているということなんでしょうけど。

 控訴審に限らず私が新たに依頼を受けるときには、まず依頼者が持っている資料に何があるのかをよく聞き、見せてもらいます。控訴審では、特に、原判決の事実認定に問題があると見られるときはもちろん、法的な評価なり法解釈に問題があると見られる場合であっても、新たな証拠が提出できるに越したことはありません。法的な評価や法解釈を変更するのも、事実認定が少しでも変わる方がそれを促しやすいことが多いですし、控訴審の裁判官が事実認定を変えるには、やはりまったく同じ証拠を前提に1審の裁判官の認定が誤りだとするよりも新たな証拠が加わったから認定が変わるという方がハードルが低くなります。
 控訴審で相談に来た依頼者に聞くと、1審で担当した弁護士には見せていなかった書類や1審の弁護士に言ったが目を通してくれなかったという書類を持っていることが多くあります。依頼者自身が十分探索していない電子メールやSMS、LINEなどのやりとり、まだ書き起こしていない録音などが、検討もされずに埋もれているということも、最近ではよくあります。もちろん使えない場合も多いですが、そこに宝が眠っていることもあります。依頼者が亡くなった方の日記やカルテ・看護記録などを持っていて、それを使って逆転勝訴したり、裁判官から逆転勝訴の心証を示されて有利な和解をしたこともあります。量が多いとなかなか目を通せないということはあると思いますが、もったいないことです。
 新たな証拠が出せない場合でも、1審で提出されている証拠が十分に活用されていない場合というのもままあります。大量のデータが提出されていると、その中身がきちんと読み込まれておらず、敗訴した側に有利なことが埋もれているということも時々あります。それを新たに分析して指摘するということができれば、それで事実認定を動かすことができる場合もあります。
 新たな証拠が提出できた場合でも、また提出済の証拠の検討されていない側面を指摘できた場合でも、もちろん、そこから依頼者に有利な事実が認定できるという認定の筋道(経験則)を説得的に論じる必要はあります。その部分が、事実認定を争う(原判決の事実認定の誤りを主張する)場合の控訴理由書の一番重要なポイントになります。

 事実認定はまったくそのままで、原判決の法的評価や法解釈が誤りであるということが認められることもないではありません。そういうときは控訴理由書で論理で追及してある種、力技で説得するということになります。しかし、それは1審の裁判官の価値観がちょっと変わっているというかあまり一般的でないような場合に限られます。そこをきちんと考えないで、ただ裁判官が替われば評価が変わるかもということだけに期待するのなら、その控訴は「ダメ元」という認識でやるべきでしょう。
 ですから、原判決の法的評価や法解釈がおかしい、それが最終ターゲットだという控訴でも、まずは事実認定を少しでも有利に変えられないかを追求すべきです。

 最初に言ったように、控訴理由書は、原判決を変更する必要があることを、控訴審の裁判官に説得するためのものですから、新しい証拠も、証拠の新たな検討も、それに基づく事実認定の変更の指摘も、すべて、だから原判決が誤っていて原判決の結論を変える必要があるというところにつなげる必要があります。原判決の結論に影響しないところで何を指摘しても無意味です。
 その意味では、原判決の論理構造、枠組みを検討し、その結果判断した(これと見据えた)叩くべきポイントに直結した証拠と証拠評価だけを検討すべきとも考えられる(論理的には、それが能率的と言える)のですが、そこは何があるか、事実のどこが変わりうるかによって、事件は、事実認定は微妙に変容してくることがあるので、証拠の検討は少し幅広にやった方がいいと思っています。
 証拠探し・証拠評価と原判決検討は、一方から他方へだけじゃなくて、繰り返しフィードバックする必要があるかと、私は思っています。面倒で手間がかかりますけど。

 控訴理由書について、東京高裁で約6年裁判長(部総括)を務めた加藤新太郎さんが、現役の東京高裁第22民事部の裁判長時代に次のように述べているのを見つけました。
 「当事者としても、控訴理由で、どこを突くかを明確にすることが求められますが、そこがきちんとされれば、普通は裁判官も見落とすことはないだろうと思います。ところが、現実には、控訴理由書において、1審判決のどこを突けば結論が変わるかをあまり考えず、最終準備書面をコピー・アンド・ペーストしたようなもの、1審と同じく総花的主張を繰り返すものが少なくありません。肝心な的を射た主張が一つでもされていれば、見直し方向に効くのですが、総花的主張をして、それを埋没させてしまうのは控訴理由書としては避けたいところです。1審判決の内在的な論理をきちんと理解して、どこを突けば結論が変わるかを見て、証拠弁論的な弁論を展開して控訴理由に組み立てることが必要なのです。それが説得的であれば、被控訴人も反論しにくいし、裁判所も『この点は、どうですか』と、相手方に尋ねやすい。昔ながらのやり方ではなく、争点中心審理に変わったわけですから相応する控訴理由の書き方をすべきであると思います。」(実務民事訴訟法講座[第3期]第6巻:上訴・再審・少額訴訟と国際民事訴訟10〜11ページ)
 証拠弁論(提出済みの書証に基づき、それを評価して、どのような事実が認定されるかを論証する)的な主張(原判決の法解釈について誤りを指摘せず、さらにいえば控訴審で新たに有力な証拠も提出しないで原審の証拠だけで「証拠弁論」にとどめた場合)で関心を持ってくれるケースがどれだけあるかはちょっと疑問に思いますが(もちろん、私の経験でも、高裁の裁判官がそれで逆転勝訴の心証を示して有利な和解をしたことも何度かありますが)、原判決の論理構造を把握した上でどこを突けば結論が変わるかを考えそこを前に出すべきという指摘は、肝に銘じておきたいところです。

 「ジュリスト」の座談会で、大段亨裁判官(東京高裁第10民事部部総括、民事長官代行)は、「非常に長大な控訴理由書が提出されることがあります。」「裁判官に対して不服の点を明確にするためには、適切な長さがあるはずであり、あまりに長大だと不服の点が曖昧になりますし、効果としてもいかがかと思われます。やはり、原判決の事実認定や法的判断の問題点を、請求の当否との関係で、簡潔に指摘するものが望ましいと思います。」(1審の)「最終準備書面のような控訴理由書は要らないと思います。」と述べています(「ジュリスト」2019年3月号49ページ)。中西茂裁判官(東京高裁第21民事部部総括)も、「基本的に控訴理由書ですから、1審判決のここが誤りであると指摘すればいいのです。裁判官も原審の判決を読んで、ここはどうかとか、少し論理展開がおかしいけれども大丈夫かなどと思うことがあります。そこを鋭く控訴理由書で指摘してあると、やはり指摘されているなとか、原判決より控訴理由書に書いてある論理展開のほうが優れているなと思ったりもします。それが良い控訴理由書です。一報、我々裁判官が原審の判決を見て、ここはおかしいと思うのに控訴理由書ではほとんど触れていなくて、こちらは全く大丈夫だと思っているところを集中的に触れていると、この控訴理由書は何だろうということになります。」と述べています(同50ページ)。

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  控訴審を受任する難しさ

 弁護士の立場からは、負けた事件の控訴審というのは、大変難しいものです。もちろん、第1審で負けているわけですから、一般的にいって勝訴の見込みは低いです。
 それを別にしても、第1審を自分でやった事件については、ふつう、自分の考えの及ぶ限りのことは第1審でやり尽くしていますから、第1審判決がよほど無茶な判決でなければ、新たにやれることはなかなか思い浮かびません。そういうことから先に述べたように原審の最終準備書面をそのまま引き写したようなやる気のない控訴理由書を出してくる弁護士もときどきいます(私が1審で勝って被控訴人側のときに、そういう控訴理由書を受け取ることが、稀ではなく、あります)。
 といって別の弁護士がやって負けた事件について相談されても、まず控訴期間中の2週間(それも実際に相談に来るときには数日後なんてことがままあります)で事件記録を検討して見通しを立てるなんてことは多くの場合無理です。控訴した上での相談でも、一から記録を読んで50日以内(これも相談された時点ではもっと短い場合が多いです)に説得力のある控訴理由書を書けといわれても、現実的には難しいです。そして、その作業は、原審の最終準備書面をほぼ引き写すようなやっつけ仕事をしてお茶を濁すのではなくきちんとやる限りは、短期間に大量の書類を検討して負けた事件での判決の誤りを見つけ出したうえでそれを裁判官を説得できる論理にまで組み立てるという、とても大変な作業です。少なくとも私は、生半可な覚悟では、受けられません(私は、やっつけ仕事でやるつもりは毛頭ないので)。
 もっとも、50日という控訴理由書の提出期限は、絶妙の期間という感じもしています。控訴段階では、控訴理由が思い浮かばない事件でも、記録を検討し、依頼者と新たな証拠をめぐる協議をして、依頼者からのフィードバックを受けてまた記録を読むという作業をしているうちに、それなりの控訴理由が構成できてくるという経験は何度もしてきました。困難の多い、労多くして実り少ないことが多い仕事ではありますが、同時にやりがいのある仕事でもあります。

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