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 勝訴判決以上の和解

ここがポイント
 民事裁判ではときには勝訴判決でも取れない内容の和解ができる
 相手に謝罪させることは、判決ではできないし、和解でも現実にはかなり難しい
 和解というと相手方に譲歩したという印象をもたれがちですが、和解によって勝訴判決で得られる以上の結果を得ることができる場合もあります。もちろん、そういうケースは稀ではありますが。
 私が経験した労働事件の事例で具体的に説明しましょう。

事件の内容
 各種学校の非常勤の教師に応募して面接で、試用期間3か月、問題がなければその後は1年契約でといわれた労働者が、通常の授業を開始したところで、その各種学校としては初めての試みの大学とのコラボ授業への派遣講師に抜擢され、その派遣中に契約書の契約期間が満了しました。しかし、新しい契約書が作成されないまま、口頭でも特段の話もないままで、労働者は派遣講師としての授業を続け、戻ってから元の授業もそのままやっていました。ところが、どうもその各種学校の実力者の人脈がらみの好き嫌いというところが真相のようですが、次のクールの授業は持たせないと言われてしまいました。

提訴
 労働者側の意向は、筋を通したいということでしたので、私が代理して地位確認(労働契約が今も継続しており労働者としての地位が存続している)と賃金請求(労働者としての地位が続いている以上、その後も当然に賃金が発生しているから払え)の本訴を起こしました。試用期間経過後に何らの手続(新たな契約書の作成)もなくそのまま労働を継続していた場合、特にその労働が試用期間中から試用期間中でない労働者と同じ業務をしていた場合、特段の事情がない限り、期限の定めのない労働契約が成立しているという神戸弘陵学園事件の最高裁判決(1990年6月5日)があります。このケースはそれと同様に期間の定めのない労働契約、つまり正社員としての労働契約が成立していると主張したのです。

1審の進行と判決
 1審で、裁判官から和解の勧告があり、私の依頼者(労働者)は、筋を通したいという意向でしたので、和解にはあまり乗り気ではありませんでしたが、裁判所の勧告でもあり、和解期日に出席しました。ところが、和解期日には裁判官が交代しており、新たに赴任してきた若い裁判官は、和解の席に着くなり、このケースで無期契約なんて認める裁判官はどこにもいませんよと、言い放ちました。態度としては、まさしく「鼻で笑った」ように、私には見えました。近年、若い裁判官の態度はかなり丁寧になっており、こういう横柄な姿勢の裁判官は激減しています。率直に言って、私はその態度自体で驚きました。もともと和解に乗り気でなかった労働者は、少なくともこの裁判官の下で話し合いなどあり得ないという心情になり、学校側の和解案を聞くことさえなく、和解は決裂しました。
 証人尋問になり、学校の代表者(実力者とは違う。ここがまたややこしいところですが)は、私の質問に対して、試用期間経過後の新たな契約書を作るときは雇用期間を外して作る、新たな契約書の雇用期間はどう書くのか、1年とするのか、それともそもそも定めないのか、方針は特になかったと認めました。つまり無期契約(期間の定めのない契約)にすることを許容していることを認めたわけです。
 私は、証人調べの結果も踏まえ、裁判官の態度からして無期契約は認めないだろうけれども、採用担当者が言った1年契約としての更新は認めるだろうと予測していました。しかし、判決は全部敗訴でした。大学に派遣するときに労働契約が変更され、契約期間が派遣終了までになった、戻ってきて授業をしたのは、派遣終了の月の月末までが契約期間となったからに過ぎないというのです。
 そんな合意は誰もしていないし、学校側もそのような主張はしていませんでした。当事者の主張していない法律構成を勝手に組み立て、何らの証拠もなくその事実を認定したトンデモ判決です。労働専門部も労働集中部もない地方の支部の事件でしたから、労働事件に知識も経験もない裁判官に当たるリスクは当然考えてはいましたが、そのレベルさえ超えたあまりのことに呆然としました。

控訴審での和解
 当然に控訴し、控訴理由書では原判決をぼろくそに批判しました。東京高裁での第1回口頭弁論で、控訴審の通例に従い弁論終結して判決期日が指定されましたが、裁判所から和解勧告がありました。
 第1回の和解期日で、担当裁判官は、労働者側の意見聴取の際、裁判所としても原判決は維持できないと考えています、だいたい何の証拠もなくどうしてああいう契約を認定できるのかと心証を開示しました。裁判官は和解の席では、当事者を説得するために、その当事者にやや不利な印象を与えようとする傾向があると思っていますが、このときはそういう思惑はなしでした。ただし、同時に、当然に契約は更新されているがそれは1年か年度末までかということになる、そこはまだ決まっていないという心証も開示されました。そうすると、判決だと良くて11か月分、悪ければ6か月分の賃金の支払が命じられるだけということになります。またさらにいえば、仮に全部勝訴しても20か月分の賃金支払とその後の復職ですが、その時点では労働者が受け持った生徒は全て卒業していて、労働者自身も復職したいという意欲が薄れていました。
 そこで、私の依頼者(労働者)の意向に従い、謝罪と学校掲示板への謝罪文書掲示、11か月分の賃金の支払を求めることにしました。裁判官は、契約手続もしなかった学校側が悪いということで、学校側を説得してくれて、ほぼこちらの希望通りの和解が成立しました。謝罪条項は、「被控訴人は、控訴人に対して、○○年○月○日以降の労働契約の存在を否定した行為が違法であることを認め、控訴人に対して謝罪する。」というものになりました。民事裁判で、相手に謝罪させることは非常に難しく、謝罪することを認める場合でも和解条項ではせいぜい「遺憾」の意を表明するという程度にとどまることが大半です。謝罪を明記し、しかも「違法であることを認め」などという条項は、まず取れません。経緯を見て高裁の裁判官が頑張ってくれた結果、また学校側の代理人(弁護士)がごねずに素直に対応してくれた結果の産物だと思います。
 判決であれば、仮に全部勝訴でも、謝罪は取れません。筋を通したいという私の依頼者の意向からは、勝訴判決以上の和解でした。1審でトンデモ裁判官にあたり、回り道になって時間がかかりましたが、こういうこともあるのだなと思いました。

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