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  過払いの判断

ここがポイント
 過払いになるかどうかは、取引期間と約定利率、現在の残高の他にこれまでの約定残高の推移も検討する必要があり、一律には言いにくい
 現在残高が貸付枠いっぱいの場合、数年程度の取引で過払いということは考えにくい
 完済している場合、約定利率が制限利率を超えている以上は過払いだが、取引期間が1〜2年では過払い金は数万円程度のことが多い
    
 最近、グレーゾーン金利とか過払いについての報道やインターネットでの記載を見て、自分も過払いではないかと考える人が増えています。それはいいことなんですが、過剰な期待感を持って、「もう3年も払い続けているんです。過払いで取り戻せるでしょうか」なんて相談の電話をいただいたりすると、ちょっと疲れます。
 過払いになっているかどうかは、約定金利(契約した金利)が年何%か、これまでの返済年数、返済と追加借入のパターン、約定残高(貸し主が示している借入残高)の推移等によって、かなり変わってきます。年数だけで判断することはできません。ここでは、同じ年数で現在の約定残高が同じでも、約定金利や返済パターン・約定残高の推移によって利息制限法引き直しの残高がどれくらい違ってくるかを典型的な例で説明します。

  貸付枠いっぱいに借りている場合

 まず、1つの典型として、貸付枠がずっと同じ額で、ずっと枠いっぱいに借り続けている場合で説明します。

貸付枠50万円で、50万円を借り、約定残高がずっと50万円で推移している場合
 これは、毎月金利分だけ返している場合が典型ですが、毎月それ以上に返済してはまた枠いっぱいまで借り増している場合もだいたい同じです。
 2000年頃の消費者金融でよく見られた金利の年25.55%(日歩7銭:日歩というのは100円借りた場合の1日あたりの金利です)の場合だと、利息制限法引き直し残高は、1年継続後で約45万9000円、2年継続後で約41万円、3年継続後で約35万1000円、4年継続後で約28万1000円、5年継続後で約19万7000円、6年継続後で約9万6000円、7年継続後で約2万4000円の過払い、8年継続後で約15万5000円の過払い、9年継続後で約29万3000円の過払い、10年継続後で約43万8000円の過払いとなります(過払い額は過払い金に年5%の法定金利を乗せた額で計算しています)。過払いへの転換点は6年10ヵ月です。
 年29.2%(日歩8銭。2010年以前の出資法の上限金利です。現在、この利息を取ると違法業者=ヤミ金融になります)の場合、3年継続後で約27万9000円、過払いへの転換点は5年5ヵ月、8年継続後で約41万円の過払い、10年継続後で約75万5000円の過払いとなります。
 年27.375%(日歩7.5銭)の場合、3年継続後で約31万5000円、過払いへの転換点は6年0ヵ月、8年継続後で約28万8000円の過払い、10年継続後で約60万2000円の過払いです
 年23.725%(日歩6.5銭)の場合、3年継続後で約38万7000円、過払いへの転換点は8年0ヵ月、8年継続後で約6000円の過払い、10年継続後で約25万5000円の過払いです。

 このように、約定金利によって、同じ借入・返済パターンでも利息制限法に引き直した場合の残高とか、過払いになるかどうかは、かなり変わってきます。
 実際の借入・返済では、約定残高がぴったり50万円のままで推移するということは、まずありませんので、これとはズレます(過払いになるのがこれよりも遅い方にズレるはずです)。
 いずれにしても、2000年頃以降の金利では、現在枠いっぱいに借りている人がこれまで返済してきた年数が3年程度で、過払いになっていてお金を取り戻せるということはあり得ません。もちろん、その場合でも、弁護士に依頼すれば残高が減るし、弁護士に依頼した後は利息がつかない状態で分割返済できますから、支払額は大幅に減ることにはなりますけど。
 さて、実際の消費者金融からの借入では、貸付枠が途中で変わっているのが普通です。これがあるから判断がより難しくなっているのです。ここでは、途中で枠が大きくなった場合について、枠が大きくなるタイミングでどう変わるかを説明します。

20万円枠から50万円枠に増枠され、約定残高がずっと枠いっぱいの場合
 約定金利は年25.55%で説明します。
 20万円枠で1年経過後に50万円枠になった場合、過払いへの転換点は7年5ヵ月、10年経過後で約35万4000円の過払いです。
 20万円枠で2年経過後に50万円枠になった場合、過払いへの転換点は8年0ヵ月、10年経過後で約27万8000円の過払いです。
 20万円枠で3年経過後に50万円枠になった場合、過払いへの転換点は8年6ヵ月、10年経過後で約20万9000円の過払いです。
 20万円枠で4年経過後に50万円枠になった場合、過払いへの転換点は8年11ヵ月、10年経過後で約14万9000円の過払いです。
 20万円枠で5年経過後に50万円枠になった場合、過払いへの転換点は9年4ヵ月、10年経過後で約9万5000円の過払いです。
 20万円枠で6年経過後に50万円枠になった場合、過払いへの転換点は9年8ヵ月、10年経過後で約4万8000円の過払いです。
 20万円枠で7年経過後に50万円枠になった場合、過払いへの転換点は10年0ヵ月、10年経過後で約6000円の過払いです。
 20万円枠で8年経過後に50万円枠になった場合、過払いへの転換点は10年4ヵ月、10年経過後で約3万5000円債務が残ります。

 このように、同じ約定金利で、同じ期間、同じように枠いっぱいに借り続けていた場合でも増枠の時期で結果は全然違ってくるわけです。
 同じ約定金利でずっと枠いっぱいに借り続けていた場合では、早くに増枠されている場合の方が過払いになりやすく、最近になって増枠された場合には過払いになりにくいということになります。

  貸付枠いっぱいまで借りた後返済によって残高が減っている場合

 この場合、先ほどの増枠の時期の説明から考えても、同じ残高なら、貸付枠いっぱいで推移してきてつい最近まとめて返済して残高が減ったというパターンが過払いになりやすく、逆に早めに返して残高が減っていたが最近借り増して残高が増えて今の残高になっているというパターンが過払いになりにくいということになります。

50万円枠で3年間返済して現在の残高が25万円の場合 
 約定金利が年25.55%の場合で、借入・返済のパターンによって利息制限法引き直し残高がどう違うか説明します。
 3年間50万円の枠いっぱいの残高が続き(利息だけ払ってきて)最後に25万円返済して残高が25万円の場合(追加借入なし):利息制限法引き直し残高は約10万円
 3年間同額を返済し続けて約定残高が25万円になった場合(毎月1万5340円返済、追加借入なし):利息制限法引き直し残高は約12万9000円
 3年間同額を返済して約定残高を減らし続けて最後に借り増して約定残高が25万円になった場合
 @ 毎月1万8000円ずつ返済して最後に約14万2000円借り増して約定残高が25万円になった場合:利息制限法引き直し残高は約14万5000円
 A 毎月2万円ずつ返済して(約定残高がほぼ0となり)最後に約24万8000円借り増して約定残高が25万円になった場合:利息制限法引き直し残高は約16万円
 3年間同額を返済しつつ、途中から借り増をして約定残高が最初は減少していったが途中から増えていって(V字型)25万円になった場合
 @ 毎月2万5000円ずつ返済し、1年10ヵ月後から毎月3万円程度を借り増して約定残高が25万円になった場合:利息制限法引き直し残高は約16万3000円
 A 毎月3万円ずつ返済し、1年7ヵ月後から毎月3万6000円程度を借り増して約定残高が25万円になった場合:利息制限法引き直し残高は約17万3000円
 初期に一旦完済し、少しずつ借り増して約定残高がだんだん増えて25万円になった場合
 1月後に一旦完済し、2ヵ月後から毎月3万円程度を借り増して2万5000円を返済し続けて約定残高が25万円になった場合:利息制限法引き直し残高は約21万4000円

 このように、同じ約定金利、同じ期間、同じ約定残高でも、借入・返済パターンによって利息制限法引き直し残高がかなり違ってくることがわかります。
 この場合も、約定残高が少ない期間が長いほど、約定残高が増える傾向の期間が長いほど利息制限法引き直し残高が多くなり過払いにはなりにくい傾向があります。

  過払いの判断は、なかなか難しい

 ここでは、ずっと返済が続いている場合をシミュレーションしていますので、一旦完済して、間が開いてまた借りている場合は、その期間は除いて考える必要があります。最初の借入は10年前でも、1年で完済して3年間借り入れがなくまた借りて今まで6年間続いているのなら、取引期間は7年間ということになります。しかも、借入のない期間が長いと、最近流行の完済前の過払い金と再借入を一体で計算できるかという論点で引っかかることになり、別計算になると総額で過払いになりにくいという問題も出てきますし、別計算になって、完済が今から10年以上前なら完済前の過払い金は時効消滅していることになって過払い金が大幅に減る(悪くすると全体として過払いではない)ということになります。
 そういうことも含めて、実際の過払いの判断は、かなり様々な要素に影響され、簡単ではありません。
 経験上も、約定残高が少ない状態(特に10万円未満)が長い間続き、最近になって約定残高が増えている場合に十数年も取引が続いているのに過払いでないなんてこともあります。
 そのあたり、不安定要素がかなりあることをご理解の上、相談してください。
 そして、この数字を見ればわかるように利息制限法に引き直した場合の結果は、年数に比例する形になりません。あるところから急にカーブが変わったりします。ですから、条件を正確に言われた場合でも、弁護士でも正確なシミュレーションは無理です。ごくおおざっぱな感触しか言えません。正確なことは取引履歴を表計算シートに入力して初めてわかります。
 そういうこともあるので、過払いの判断はなかなか難しいです。しかし、それにつけ込んで、消費者金融の方では現在の約定残高での分割払いとかを求めてきたりします。つい最近でも、計算したら過払いなのに本人が消費者金融の口車に乗って約定残高で何十万円もの長期の分割返済をする和解契約書を書かされている相談者がいます。消費者金融が取引履歴を開示する場合でも、利息制限法引き直し計算書を出さないことが多く、出した場合でも過払い金に法定利息を乗せた計算書は、絶対に出しません。取引が長い場合は過払い金に年5%の法定金利を乗せるかどうかで過払い金の額が何割も違ってくることもあります。
 もちろん、利息制限法の上限金利以下の約定の場合(アット・ローンとかモビットは設立当初から年18%ですし、オリックス・クレジットとかジャックスも年18%かそれ以下の場合が多い)は何十年取引が続いていても利息制限法に引き直しても減りませんし、金利が高い場合でも短期間で劇的に減ったり過払いになるという過剰な期待を持たれても困りますが、素人判断しないで弁護士に相談した方がいいと思います。
注:このページの情報は、数字が一人歩きするリスクが大きいので中途半端な引用はしないでください(引用する場合は計算の前提条件を正確に記載してください)。

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