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  名ばかり管理職

ここがポイント
 時間外労働の割増賃金が不要となる「管理監督者」は世間でいう管理職よりかなり狭い
 裁判所は、職務の内容、権限及び責任の程度、出退勤の自由ないし裁量性、地位にふさわしい待遇を考慮して判断する
 残業代請求の裁判で、使用者側からの「管理監督者」に当たるという主張は、そう簡単には認められない

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 労働基準法は、「監督若しくは管理の地位にある者」(法律家の業界では「管理監督者」と呼んでいます)については、労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しないと定めています。その結果、管理監督者に対しては時間外労働や休日労働の割増賃金を支払う義務はないことになります。ただし、深夜労働(午後10時から午前5時まで)についての割増賃金は(マニアックな話ですが「労働時間」制限の形ではなく直接に割増賃金の規定があるため)管理監督者に対しても支払義務があります。
 残業代の支払いを回避するために、あまり権限のない者にも適当な肩書きをつけてわずかな手当を払うだけで管理職だと称している会社が少なくありません。日本マクドナルドの事件で有名になったような店舗の店長のようなケースばかりでなく、課長代理とか課長補佐のような肩書きで現実には何の権限もなかったり部下もいないようなケースもよく見られます。このようなケースは、日本マクドナルド事件が広く報道されたのを機会に「名ばかり管理職」と呼ばれるようになりました。
 労働基準法が時間外労働や休日労働の割増賃金を支払わなくてよいとしている「管理監督者」は、世間一般で言われている「管理職」よりも範囲が狭いと考えられ、少なくともこれまでの裁判では「管理監督者」と認められたケースはそう多くはありません。

 東京地裁労働部の裁判官の間では、管理監督者は、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者をいい、管理監督者にあたるかどうかは、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきで、その際に@職務の内容、権限及び責任の程度、A出退勤の自由ないし裁量性、B地位にふさわしい待遇の3本柱を中心に検討し、相対的には@が重要だが3つのうち1つでも欠ければ管理監督者とは認定されないという運用もなされていると言われています(東京地裁労働部と弁護士会の協議会での発言。私も出席していましたが、興味のある方は判例タイムズ1367号(この発言は42ページ)に掲載されていますので正確にはそちらを見てください)。
 この管理監督者の要件というか認定の基準は、通達の表現を重視しているもので、労働法の教科書等でもよくいわれるものです。ただ、私が、第二東京弁護士会労働問題検討委員会で「新・労働事件法律相談ガイドブック」(2012年2月8日発行)を編集する際に改めて調べてみた限りでは、管理監督者の要件としてこの3つをきれいに整理した先例的な判決が見つからず、経営者と一体的立場ということだけを示していたり3つのうち2つだけ挙げていたりという判決がわりとありました。ようやく日本マクドナルド事件の判決(東京地裁2008年1月28日判決)が、具体的には@職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか、Aその勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か、B給与(基本給、役付手当等)及び一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべきであるとしているのを見つけ、要件がきれいに整理されたのは最近かなという気もしました。
 さらに2008年以降東京地裁労働部でこの基準のうち@を2つに分けて、管理監督者性を@職務内容が、少なくともある部門全体の統括的な立場にあること、A部下に対する労務管理上の決定権等につき、一定の裁量権を有しており、部下に対する人事考課、機密事項に接していること、B管理職手当等の特別手当が支給され、待遇において、時間外手当が支給されないことを十分に補っていること、C自己の出退勤について、自ら決定し得る権限があることの4要件(あるいはこの4つの要素の総合判断)で判断する判決が続いて現れ、東京高裁でもそれがそのまま認められています(判例集に掲載されたものではゲートウェイ21事件、東和システム事件。私自身が労働者側を代理した三陽商会の名ばかり管理職事件でも地裁判決、高裁判決ともこの基準が明記されています)。この4要件説ともいうべき最近の東京地裁労働部の傾向(もっとも、東京地裁労働部全体がこれで行こうということでもないようですが)では、少なくともある部門全体の統括的な立場という基準がありますので、部下もいないような名ばかり管理職については管理監督者にあたらないと判断されやすくなりますが、他方においてこれはこれまでの判決が経営者と一体的立場ということを重く捉え過ぎという批判(学者の中で最も実務に影響力のある菅野和夫東大名誉教授の批判)に対応して会社全体ではなくある部門(重要な組織単位)で足りるとしたという評価もあります(もっとも、ゲートウェイ21事件ではこの基準を用いた上で「支社長」が管理監督者でないとされましたが)。

 管理監督者にあたるかが争われる裁判では、これらの3つないし4つの判断基準が全て満たされて初めて管理監督者とされるという判決(そうでない判決もあります)でも、特定の1つの基準だけを示してこれにあたらないから管理監督者ではないとしてくれるわけではなく、結局は全ての基準に関する事実関係が詳細に認定されます。そして、使用者側は、部下もいないような名ばかり管理職のケースでもアルバイトの採用に関わっているとか、重要な会議に出席しているとか、勤務時間中に黙って外出したとか、管理職手当があるとかあれこれ主張してきますし、店長のようなケースでは日本マクドナルド事件の判決のあとに出された行政通達でこれまでの判決よりも管理監督者の認定基準を緩める方向の基準が示されていて裁判官がこれに引きずられる可能性もあります。
 そういうこともあって簡単ではないし楽観もできないのですが、少なくとも世間で考えられているよりは、管理監督者にあたって割増賃金が請求できないというケースは少ないですので、もっと労働側が声を上げた方がいいと思います。

  【労働事件の話をお読みいただく上での注意】

 私の労働事件の経験は、大半が東京地裁労働部でのものですので、労働事件の話は特に断っている部分以外も東京地裁労働部での取扱を説明しているものです。他の裁判所では扱いが異なることもありますので、各地の裁判所のことは地元の裁判所や弁護士に問い合わせるなどしてください。また、裁判所の判断や具体的な審理の進め方は、事件によって変わってきますので、東京地裁労働部の場合でも、いつも同じとは限りません。

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