◆たぶん週1エッセイ◆
映画「悪人」
キャッチフレーズになっている「誰が本当の悪人なのか?」は、少し悩ましい
中心となる4人の若者たちよりも、佳乃の父と祐一の祖母の苦悩の方が見応えがある
朝日新聞連載小説の映画化というより深津絵里がモントリオール世界映画祭最優秀女優賞を受けた映画という方が通りがよくなった映画「悪人」を見てきました。
封切り3週目土曜日昼の上映は7割くらいの入り。土曜日午後の渋谷ということもあり、観客層は若いカップルが大半を占めていました。
出会い系サイトで知り合った金と男の体目当ての保険外交員佳乃(満島ひかり)が目の前で約束をキャンセルして温泉旅館のぼんぼんのイケメン男増尾(岡田将生)の車に乗り込んでドライブに行ったのを見た土木作業員清水祐一(妻夫木聡)は、逆上してその車の後を追う。翌日、三瀬峠で佳乃の死体が見つかり、警察は逃走した増尾を追うが、発見された増尾はドライブ途中に餃子の臭いをさせ露骨なアプローチをする佳乃に嫌気がさして三瀬峠で佳乃を車から蹴り出したという。その間、祐一は、かつて出会い系サイトでメールでやりとりした馬込光代(深津絵里)から久々にメールを受けて佐賀駅前で待ち合わせて会い、初心な光代を強引にラブホに連れ込んで肉体関係を持ち、佳乃へと同様金を渡すが、光代はそれに傷つき金を返して車を降りて帰った。後悔した祐一は光代の勤める紳士服チェーン店を訪れて光代が妹と住むアパートまで送るが、母親(樹木希林)から警察が来ていると聞き、とっさに光代を連れて車で逃走する。翌朝、祐一から殺人の告白を受けた光代は、自分はあなたと出会えて幸せになれると思った、何年でも待っているからと言って、一旦は祐一を警察署に送り出すが、結局は引き留めてしまい一緒に逃避行をすることになる。テレビでは祐一が指名手配され、光代が同行していることも報道され、2人は2人のつながりのきっかけとなったさいはての灯台に逃げ込むが・・・というお話。
キャッチフレーズになっている「誰が本当の悪人なのか?」は、少し悩ましい。
殺人犯の祐一は、ジコチュウで激しやすいタイプに描かれていますが、育ててくれた祖父・祖母には優しく光代に対するジコチュウで強引な態度も後半ではむしろ不器用さの表れだったと描かれます。
同居する妹(山田キヌヲ)からももてない女扱いされいたたまれず出会い系サイトで知り合った祐一に誘いのメールを出してしまう地味な店員の光代は、祐一に恋心を抱いたために、自首しようとした祐一を引き留めて、結果的に祐一の罪を重くしてしまいます。
被害者の佳乃は男の体と金目当てに出会い系サイトを利用しながら、旅館のぼんぼんの増尾に言い寄り、約束をしていた祐一の目の前で増尾とドライブに出かけたあげく、車から蹴り出されたところに現れた祐一を口汚く罵ります。
イケメン男の増尾は言い寄る佳乃を仲間内で笑いものにしながら、とりあえず体だけと思ってドライブに誘うが途中でいやになって車から蹴り出し、そのことも仲間内で笑い話にし、車から蹴り出して置き去りにしたことを刑事から聞いた佳乃の父親(柄本明)が謝れと食い下がるのを振り払い、そのこともまた仲間内で笑いものにします。
人物的には、増尾が一番いやなやつとは思いますが(中年おじさんがそう言うと、イケメン男への嫉妬と受け取られそうですけど)・・・
でも、私には、どちらかというと、この4人の若者たちよりも、佳乃の父と祐一の祖母の苦悩の方が見応えがありました。
佳乃の父の方は、被害者の父親としての心情を、切々と訴えているところですでに涙を誘いますが、性格の悪い尻軽の娘を、そうとは知らず、まじめないい娘を・・・と思い詰めているところが余計に哀しいところです。
祐一の祖母は、加害者の親族としてマスコミに追われているということもありますが、口数少なく、表情で苦悩を表しています。最後、この祐一の祖母はどうなったのか、結ばれたスカーフの意味がちょっと気になります。
祐一の最後の行動については、私は、立派だったと思います。罪は明らかに重くなりますし、何より自分自身にとって辛いと思います。私だったらそういう行動は取れないと思います。
舞台が福岡、佐賀、長崎ですから、司法修習の実務修習地が福岡だった(って26年前の話ですけど)私には、懐かしい場面が多々ありました。光代の勤務先の紳士服チェーン店の「フタタ」(九州ローカルの紳士服チェーン)は修習生の頃には何度か買い物に行きましたし、祐一が光代に殺人を告白する呼子の料理店は見覚えありますし。
(2010.9.25記)
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