庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅」
ここがポイント
 「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」のキャラと世界観を借りただけでストーリーは無縁
 3つの家族の対立と和解の物語がテーマ。その範囲で完結させてしまうのが、よかれ悪しかれディズニー的

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 「不思議の国のアリス」のキャラと世界観を借りたファンタジーの2匹目のドジョウ「アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅」を見てきました。
 封切り3日目日曜日、新宿ピカデリースクリーン2(301席)午前10時20分の上映は、7〜8割の入り。

 1875年、中国への船旅からロンドンに戻ったアリス(ミア・ワシコウスカ)を、不思議の国の賢者アブソレムが訪れ、アリスは船主協会の会長になっていたヘイミッシュ(レオ・ビル)の館の鏡から不思議の国に舞い戻った。不思議の国の仲間たちからマッド・ハッター(ジョニー・デップ)がふさぎ込んでいることを聞いたアリスは、マッド・ハッターを訪れ、昔怪物ジャバウォッキーに殺されたはずのマッド・ハッターの家族を取り戻して欲しいと憔悴しきったマッド・ハッターから頼まれる。そんなことはできないとうちひしがれるアリスに白の女王(アン・ハサウェイ)は、時間を司るタイム(サシャ・バロン・コーエン)の館の大時計の力の源泉クロノスフィアを使えば時間を遡れると囁き、アリスはタイムの館に忍び込み…というお話。

 第1作の「アリス・イン・ワンダーランド」もそうでしたが、「不思議の国のアリス」のキャラと世界観だけを借用して、設定(そもそも原作ではアリスは少女のはず)やストーリーは全然無関係と言ってよい作品。今回も「鏡の国のアリス」を原作のように見せているけど、キャラクター以外は、鏡 ( Looking Glass ) を通って不思議の国に入り込むことが使われているだけだと思います(誰がタルトを盗んだかという「不思議の国のアリス」の方の裁判のテーマが借用されていたりはしますけど)。前作は全米興行収入が歴代42位(2016年6月27日現在。3億3420万ドル)のヒット作となりましたが、続編のこの作品は、アメリカでは公開初週末(2016年5月27〜29日)2位、2週目4位、3週目8位、4週目9位、5週目10位で5週目の週末までの累計で7457万ドル(今年の作品でいえば、「ズートピア」の公開初週末3日間の興収と同じくらい)という惨憺たる成績。やはり柳の下に2匹目のドジョウはいなかったというべきでしょう。

 アリスと、アリスの公開中に家屋敷をヘイミッシュに取られ、アリスが乗っている今は亡き父親が遺した船「ワンダー号」をヘイミッシュに売る約束をしてしまった母親との対立と和解の物語、マッド・ハッターの、子どもの頃に恨んだ父親を含む家族への郷愁と悔恨の物語、幼い頃の事件を通じて決裂し対立を深めた赤の女王と白の女王の対立と和解の物語という、家族関係と愛情の物語3つをテーマとしています。
 すべてを家族関係とその愛憎、そしてハッピーエンドに描いてみせる、いかにもディズニーワールドの作品に、社会性の欠落と身の回り1mの世界への埋没を見るか、夢に満ちたエンターテインメントを見いだすかに、評価がかかってくるでしょう。
 アリスを成人の勇敢なチャレンジャーと描いてみせることで、女性の自立を印象づけたことは、「原作」がアリスを作者の掌で踊らせる父権主義(パターナリズム)を感じさせることへの皮肉も込めて、よい試みと評価できますが。
(2016.7.3記)

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