庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「アリス・イン・ワンダーランド」
ここがポイント
 指示待ちをやめて「自分で決める」アリス像が新鮮
 他方、脇役キャラは原作の個性が消されて薄っぺらい

Tweet 

 19歳になったアリスが再び地下の不思議の国を訪れ赤の女王に支配された人々を救うという「不思議の国のアリス」の改作映画「アリス・イン・ワンダーランド」を見てきました。
 封切り2週目土曜日夕方、新宿ミラノ1は4割くらいの入り。4割くらいでも定員が1064名のミラノ1ですから、それくらい入るとけっこうどよめいてました。

 6歳の時からいつも不思議の国の夢を見ていたアリス・キングズレイ(ミア・ワシコウスカ)は、19歳の時、母に連れられて貴族のパーティーに行き求婚される。時間が欲しいと返事を保留して、パーティー会場で目にした服を着た白ウサギを追ったアリスはウサギ穴から地下の不思議の国「アンダーランド」に迷い込む。そこは、「首をはねろ」が口癖の赤の女王(ヘレナ・ボナム=カーター)に支配され、奇妙な住人たちが、「フラブジャスの日」に金髪の戦士が赤の女王が飼っている怪物ジャバウォッキーを倒すと書かれた予言の書の戦士を過去に子どもの頃に不思議の国を訪れたアリスと重ねて、アリスを待ちわびていた。アリスは、住人たちから口々に「あのアリスか」「いや違う」と言われ、さらには予言の書を知って、自分は「アリス違い」だと尻込みするが、赤の女王の軍隊に襲われたところを身を挺してアリスを逃がし、アリスには白の女王(アン・ハサウェイ)のところに行くよう指示した帽子屋(ジョニー・デップ)が赤の女王に囚われたと知って、赤の女王の城内に忍び込み・・・というお話。

 アリスが19歳になったときに不思議の国を再訪するという設定自体、新たなストーリーですが、原作ともっとも異なるところは、アリスのキャラ設定だと思います。原作では、冒険といっても不思議の国の奇妙な住人たちに出会う度に質問されて答え指示されて動くばかりだったアリスが、この映画では、指示されて動くのはもういや、これからは自分で決めると、白の女王のところへ行かず帽子屋を救いに赤の女王の城に向かい、白の女王からはジャバウォッキーと戦う戦士になるかどうかはみんなの期待じゃなくて自分の意思で決めるように言われて考えた末に自分で鎧を着て向かいと、原作との違いを敢えて示しながら自立心を強めています。地上に戻ってのアリスも、原作が子どもに昔話を語る母親になることを示唆しているのに対して、求婚に対して自分の意思をはっきり伝えた上でキャリアウーマンの道を歩むという設定です。19世紀の読者を想定した原作の設定は、21世紀の観客には受けないという読みからでしょうけど、この点は新たなアリス像として評価したいと思います。
 映画化に当たって、もう一つ大きく変えられたのが、残忍な赤の女王(姉:イラスベス)と殺生をしないと誓った白の女王(妹:ミラーナ)の対立構造を作って、話をシンプルにし、赤の女王側にいながらアリスを助ける犬や怪物を新たに登場させた点です。原作に登場するキャラは、原作にあるように個性的で自己主張が強く、2極構造の中でも微妙な立ち位置を見せますが、新たに設定したキャラは性格的にもまっすぐな感じです。原作のキャラの個性というかあくの強さで読ませる部分が、映画化での単純化で薄められています。そのあたりが、ちょっと中途半端に思えました。
 不思議の国の映像効果は、よくできました、だと思いますが、それだけで感動するまでには至りません。最近は映像効果がすごいというのには慣れてしまいましたからね。

 キャラについて言えば、ミノムシの賢者(名前忘れました)とかチェシャ猫とか、もう少し謎めいた存在でいて欲しかった(特にチェシャ猫、正義の味方っぽくなり過ぎ)と思います。
 ヤマネのマリアムキンはまっすぐすぎて、アリスの世界よりもナルニア国物語のリーピチープみたい。
 そして白の女王って正義の味方なんですが、建前発言ばかりで、しかもそれをパロディとしてやっている様子もなくて、なんか薄っぺらいキャラ。むしろ赤の女王の方が、頭の大きさへのコンプレックスと周囲の人間から好かれず裏切られてきたことから拗ねて「愛されるより怖がられる方がいい」と思うようになった様子が見えて、人間味があるように思え、ちょっと同情してしまいます。

 映画上映前に毎回強制的に見せられる「No more 映画泥棒」のフィルムが4月になってニューバージョンになっています。映画の著作権を守れというのは、まぁわかるんですが・・・
 この映画が記録的なオープニング興行成績を上げているのは、原作の知名度によるところが大きいはずです。そしてこの原作「不思議の国のアリス」は著作権法の保護を受けていません(古いから)。だからディズニーは、これまでに白雪姫とか人魚姫とか著作権保護のない著名作品で儲けてきたのと同様に、今回も著作権保護のない著名作品を利用し、さらには大幅に改変して大儲けをすることになります。今回の映画でやったような利用や改変を誰かがミッキーマウスについてやろうとしたらディズニーは絶対に許さないでしょう。もちろん、不思議の国のアリスは著作権保護がなくミッキーマウスには著作権保護があるのですから、法的にはそれが正しいのですが。ただそういう商売をしている人たちに、あるいは著作者でなく著作権ビジネスで儲けている人々に、声高に著作権が神聖不可侵みたいなことを言われるのは、毎度のことながら、何だかなぁと思います。

(2010.4.24記)

**_****_**

 たぶん週1エッセイに戻る

トップページに戻る  サイトマップ