庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「アメリカン・ハッスル」
ここがポイント
 FBI捜査官の無謀な要求などで八方ふさがりのアーヴィンが、どう活路を見いだすかが見どころ
 つれないようでけなげなエイミー・アダムスとぶっ飛んでるジェニファー・ローレンスの対比にも注目

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 FBIに司法取引でおとり捜査への協力を強いられ追いつめられた詐欺師の活路を描いた映画「アメリカン・ハッスル」を見てきました。
 封切り3週目日曜日、東京大雪の翌朝、サイトでは1番スクリーンが予告されていた封切り3日目の「エヴァの告白」を突如降ろして「アメリカン・ハッスル」を1番に持ってきた新宿武蔵野館1(133席)午前10時の上映は3割くらいの入り。

 銀行融資詐欺と絵画贋作販売で財をなした詐欺師アーヴィン・ローゼンフェルド(クリスチャン・ベール)とビジネス・パートナーにして愛人のシドニー(エイミー・アダムス)は、融資詐欺の顧客を装ったFBI捜査官リッチー・ディマーソ(ブラッドリー・クーパー)に引っかかってシドニーが逮捕され、おとり捜査への協力を強いられる。当初は同類の詐欺業者4人を売れと求めていたリッチーは、アーヴィンが話を進めるうちにFBI捜査官が架空のアラブの富豪に扮して政治家たちの贈収賄のおとり捜査をするのに協力しろと要求をエスカレートさせる。アラブの富豪の協力が得られるとカジノの設置計画を進めたい市長カーマイン(ジェレミー・レナー)はカジノ開設のためにパーティーを開くが会場の控え室にはマフィアが集い、アラブの富豪との面会を求め…というお話。

 詐欺の尻尾をつかまれ愛人のシドニーの詐欺容疑で脅されてFBIに捜査協力せざるを得なくなり、功名心に駆られたFBI捜査官から無謀な要求を突きつけられ、友情を感じた市長を売ることに躊躇し、マフィアが絡んでばれたら妻子ともども皆殺しの恐れを抱き、ついでに妻と愛人の板挟みもあり、八方ふさがりのアーヴィンが、どうやって活路を見いだすのかを主な興味としてみせるサスペンス・コメディというところです。
 アーヴィンのメインの業務は融資詐欺。銀行から融資を受けたい人に、銀行に特別なコネがありそれによって融資を受けられるかのように言って手数料として5000ドルを取るというものです。具体的にその後どうするかは言ってなかったようですが、たぶん、銀行が問題なく融資できるような条件を作ったり(担保も出させてますし)危ない借り主にも貸してくれるような銀行を選んで、つまりアーヴィンが口をきかなくても融資が受けられる案件をさもアーヴィンのおかげで本来なら融資が受けられないのに特別に融資を受けられたかのように思わせる手口と思われます。日本でも、消費者金融についてそういう手口で紹介している連中がいて「紹介屋」と呼ばれています。金に困っている連中は簡単にだませるとアーヴィンは語っていますが、困窮する庶民をだまして金をむしり取るアーヴィンには同情しかねます(怨恨や金に困って犯罪を犯す人たちやあまり考えずに犯罪を犯した人たちにはそれほどではないのですが、貧しい人やお年寄りをだます詐欺師にはどうにも許せない思いを持っています)。
 しかし、この作品では、それを遥かに超えてFBI捜査官があまりにもひどい。そもそも最初にシドニーを留置場ではない何もない部屋に監禁した挙げ句にアーヴィンの悪口を言ってくどくところからして職権濫用の色魔としか言いようがない。この捜査官その後もシドニーをくどき続けますが、ただやりたいだけというのが見え見えでクラブのトイレの個室に押し込んだりシドニーの部屋に押しかけてやらせろと言い続け、シドニーはのらりくらりでかわしますが、見ていて吐き気がするほど低劣な人物。そして自分が手柄を立てたいばかりにおとり捜査で市長に賄賂の入ったアタッシェケースを押し付けて市長が受け取りを拒否して帰ったのをアーヴィンに呼び戻せと命じ、汚れた金は受け取りたくないがカジノ開設を熱望する市長に出資者のアラブの富豪をアメリカ市民にしないと許可が下りないと持ちかけて市民権付与の口利きを国会議員に求めることに同意させ贈賄側に巻き込んでいきます。これ、おとり捜査としてもひどすぎ。犯罪を犯す意図を持っている人に「機会を与える」だけのおとり捜査を超えて、犯罪を犯す意思がなかった人を説得して犯罪を犯す意思を誘発し犯罪に巻き込むのは、いくらおとり捜査が認められているアメリカでも違法なんじゃないかと思います。

 電子レンジを爆発させ、自分の行動でアーヴィンが殺されかけても動じない妻ロザリン(ジェニファー・ローレンス)のノーテンキさと、妻の座に自信を持って愛人に啖呵を切る迫力は、ジェニファー・ローレンスの快演というべきでしょうか。
 トンデモ捜査官からアーヴィンが裏切ったと煽られ執拗に迫られてもかわし続けるシドニーの愛人としての自信と一途さも見どころです。これは見比べたら愛人を選ぶよねぇと思ってしまいますが。
(2014.2.16記)

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