◆たぶん週1エッセイ◆
映画「ハッシュパピー バスタブ島の少女」
低湿地帯の見捨てられた集落に住む少女の喪失・危機との対峙を描いた映画「ハッシュパピー バスタブ島の少女」を見てきました。
封切り2週目月曜日・GW前半の3連休最終日、ヒューマントラストシネマ有楽町シアター1(162席)午前11時40分の上映は4〜5割の入り。
低湿地帯の集落「バスタブ」に父親のウインク(ドゥワイト・ヘンリー)と2人で住む少女ハッシュパピー(クヮヴェンジャネ・ウォレス)は、大人たちの教えから、バスタブは南極の氷が溶けて水位が上がると水没してしまう、自分が人間が洞窟で生きていた頃に生まれていたら野獣オーロックスの餌になっていただろうなどと考えながら、「世界一お祭りが多いバスタブ」でがらくたと家畜に囲まれながら楽しく日々を送っていた。ある日、大嵐が訪れて、バスタブの家屋の多くが床上浸水し、ハッシュパピーと父は小舟で住民たちを探し回り、生き残った住民たちはバーだった建物に集結、ウインクらは堤防を爆破して水を引かせるが、泥と残骸だらけの土地が現れただけで再建の希望は見出せなかった。バスタブに住民がいることに気づいた政府は強制退去を指示、住民が収容所に送られるが…というお話。
目力というのでしょうか、愛する者・集落・生活環境の喪失や危機に対峙しあるいは驚き悲しむハッシュパピーの目がとても印象的な作品です。憂い、哀しみ、怒りをたたえたハッシュパピーの顔のアップというか目のアップが多用され、それでもっている感じです。まったくの素人の6歳の少女の演技とは思えません。アカデミー賞主演女優賞最年少ノミネートも納得です。ちなみにこの年のアカデミー賞主演女優賞は22歳にして2度目のノミネートだったジェニファー・ローレンスが受賞しましたが、サンダンス映画祭グランプリ受賞のインディペンデント映画でアカデミー賞主演女優賞ノミネートというパターンは、「ウィンターズ・ボーン」でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたジェニファー・ローレンスと同じ。ちょっと因縁と期待を感じます。
ハッシュパピー役のみならず、父親のウインク役もオーディションで選ばれた素人のパン屋さんだとか。
前半で、生き物を見ると手当たり次第耳を寄せて心臓の鼓動を聞くハッシュパピーの、あどけなく敬虔な姿が印象的です。カニの腹に耳を当てて心臓の音が聞こえるのかは疑問に思いましたけど。
ハッシュパピーと父ウインクが腕相撲をし、世界一強いと叫ぶシーン、「ながくつしたのピッピ」を想起させ、私には微笑ましく思えました。
そういうハッシュパピーのあどけなさと雄々しさが共存するところに、魅力を感じました。
映像が全体に暗く、バスタブの集落も自然というよりもがらくたが多く廃墟のイメージで、海のシーンでも青く美しい海ではありません。最初の方の祭りのシーンなどを除くと重苦しい感じの場面が多く、エンターテインメントとして見るのは、難しいです。氷の中から復活したオーラックスが群れをなして襲ってくるシーンが、様々な破壊・圧迫をまとめて象徴しているわけですが、これが全体の暗さ・陰鬱さ・重苦しさを救っていると感じるか、浮いていると感じるかは、意見が割れそうです。幼くしかし雄々しいハッシュパピーにどこまで共感のまなざしを送れるかで評価が決まる作品だろうと思います。
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