庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「美女と野獣」
ここがポイント
 エマ・ワトソンを聡明で内面を見抜くヒロインにあてたキャスティングは巧み
 しかし野獣王子の側に見いだされる内面の美しさがあったかは疑問
 ディズニーの看板アニメの実写化映画「美女と野獣」を見てきました。
 封切3日目日曜日、新宿ピカデリースクリーン1(580席)午後1時40分の上映は、ほぼ満席。日本公開より5週早い2017年3月17日公開のアメリカでは歴代6位のオープニング興収を記録し、公開6週間ですでに全米歴代10位(世界興収歴代17位)の興収を稼いでいる大ヒット作。日本の公開初週末は興収・動員数とも1位となったものの前週の「名探偵コナン から紅の恋歌」の初週末興収に及ばず、翌週には世界興収でオープニング歴代1位を記録した「ワイルド・スピード ICE BREAK 」の公開を控え(まぁ、「ワイルド・スピード」シリーズはアメリカと日本ではそれほど受けないのであまり影響はないか)、どこまで伸ばせるでしょうか。

 フランスの片田舎の城に住み美しいものだけを呼び寄せてパーティーを繰り返していた王子(ダン・スティーヴンス)が、吹雪の夜、バラを代償に暖を求めた魔女を嘲笑して、野獣の姿に変えられ、家来たちも時計やポットに変えられてしまい、魔女が持ってきたバラの花びらがすべて散る前に王子が心から愛し愛される人が現れなければ永遠に呪いは解けないと宣告された。近くの村に住むシェークスピアを愛読する娘ベル(エマ・ワトソン)は、自由を求め、本を読み、近隣の子に文字を教えるなどが村人の反発を呼び、変人扱いされていた。ベルの父モーリス(ケヴィン・クライン)が制作した商品を売りに遠出する際、ベルは土産にバラの花を希望し、モーリスは村に帰る際森で落雷と狼に追われて城にたどり着いたがしゃべるカップに驚いて逃げ出しその途中でベルへの土産を忘れていたことに気づきバラを折って、野獣に泥棒と見られて捕らえられる。馬だけが帰ってきたため帰らぬ父を探して馬に乗り城にたどり着いたベルは、父と交換で自分が城の牢にとどまり…というお話。

 ハリー・ポッターシリーズで秀才ハーマイオニーを演じてスターになり、その後若手女優のフェミニストのシンボルとなっているエマ・ワトソンを、聡明で進歩的でそれゆえに村人から変人扱いされているベルにキャスティングし、野獣の見た目に囚われずその本質を見抜くという設定は巧みで説得力を感じさせます。
 しかし、その一方で、野獣王子は荒んだ心で、呪いを解く者が現れないことに焦りいらだつのみで、呪いをかけられた頃から特に成長しているように見えません。ベルが、村の傲慢な青年ガストン(ルーク・エバンス)を振る時に言った、内面の美しさは、野獣王子にもないように思えます。野獣王子にベルが優しさを見出すのは、城を出て森で狼に襲われたベルを救った時という、べたにマッチョなパターン。聡明で進歩的/フェミニストのベル/エマ・ワトソンが惹かれたのは男の強さ/戦闘能力って、それはないでしょうと思う。
 さらに、ベルは醜い野獣の外見に囚われず王子の本質を評価するという設定なのに、美しいものだけを呼び寄せてパーティを開いていた王子が呪いをかけられその成長を求める作品で、野獣王子が愛する相手はなぜ「美女」でなければならないのでしょう。なぜ野獣王子には、女性の外見に囚われずにその本質を見抜き内面を愛することが求められないのでしょう。私の感覚では、モーリスを森で救うみすぼらしい村の女アガット(ガストンに能無し呼ばわりされていますし)あたりを野獣王子が愛するという話の方が、野獣王子が改心して呪いが解けるという展開にふさわしいと思うのですが…

 原題は「 Beauty and the Beast 」。野獣が「 the Beast 」なのに対して、「 Beauty 」には「 the 」がつけられていません。これを「美女」と訳すなら、美女は特定の存在ではなく、つまりベルである必要もなく、美女ならだれでもいいということになりそうです。そう解すると野獣王子の呪いを解く人はあくまでも「美女」でなければならないということが強調されることにもなります。呪いをかけられた経緯からすれば、それは奇妙なことに思えます。「 Beauty 」に定冠詞がつけられていない以上、それは抽象的な美を意味し、むしろ野獣の外見と対比される美、つまり内面の美と解することもできます。そう解するなら、これを「美女」と訳すことは誤りだということになると思うのですが。

 フランスの片田舎という設定ですが、登場するフランス語は、「ボンジュール」と「マドモワゼル」だけ(「ベル」も美しいという意味のフランス語でしょうけど)。「ボンジュール Bonjour 」に対して毎度「グッデイ Good day 」が返されています。それならいっそのこと全部英語にすればいいのに。
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(2017.4.23記、24更新)

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