庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
弁護士と出張
 弁護士の資格は全国共通ですので、登録弁護士会がどこでも、日本全国どこの裁判所の事件でも代理をしたり(民事事件)弁護人になる(刑事事件)ことができます。このサイトを見て相談をしたい、事件を依頼したいということで、遠方の方から電話をいただくことも時々あります。
 消費者金融に対する過払い金返還請求のように原則として最初に1回面談したら後はそれほど打ち合わせがいらない(手紙と電話で用が足りる)事件なら遠方の方でも、1度事務所まで来てもらえれば受けることができます。しかし、普通の事件では、終了までに何度も依頼者との打ち合わせをしたり裁判所へ行くことになりますので、地元の弁護士に依頼する方が効率的です。弁護士にとっても、地元の事件に比べて往復の時間分余計に時間がかかり、打ち合わせも手間がかかって簡単にはできない分、出張を要する事件は労力が余計にかかることになります。
 弁護士費用で、出張の場合には、旅費の他に日当をいただくようになっています。この日当の額は、弁護士の考え方にもよりますが、拘束時間分の時間給というよりも(それだと弁護士会のかつての基準のように半日5万円、1日10万円なんてことになりかねません)、日当をいただくということで出張事件を減らしたいという感覚の方が強いように思えます(それなら時間給より高くしてもよさそうですが、あまり高い額を言うのはためらわれます。多くの人は、日当を別に請求するというだけで十分ブレーキになりますし)。
 私の場合、既に出張を要する事件が十分にありますので、よほどの事情がなければこれ以上出張する事件は受けたくない気持ちです。今のところ定期的に出張するのが、六ヶ所村核燃訴訟(青森、仙台)、JCO臨界事故住民健康被害訴訟(水戸)、これからしばらくは浜岡原発運転差し止め訴訟の証人尋問(静岡)、JCOの事件関係の専門家との打ち合わせ(大部分大阪)、時々弁護団会議が入る柏崎原発訴訟(新潟。裁判は最高裁)、弁護士会の仕事で新潟県内の公設事務所の支援委員会、そのほかに弁護士会がらみの会合が時々(特に秋から冬)というところに、ふだんは出張しない事件でも時々出張の必要が出てきます。
 2006年9月の片道1時間以上の出張を書き出すと、9月6日水戸地裁(JCO臨界事故住民健康被害訴訟)、9月8日静岡地裁(浜岡原発運転差し止め訴訟)、9月10〜11日三浦海岸(二弁法律相談センター合宿)、9月16〜18日新潟(金属学会秋期大会)、9月22日青森地裁(六ヶ所村核燃訴訟)、9月28日成田(入院患者との打ち合わせ)、9月29日相模原(民事訴訟の現地確認)という具合です。
 出張で日中の時間が拘束されると、その他の日に裁判所の期日や依頼者との打ち合わせ、文書の作成がしわ寄せされます。出張の往復時間はほとんど読書の時間に充てていますが、それは拘束時間の有効利用というかポジティブシンキングをしているだけです。やっぱり弁護士にとっては平日の日中は、裁判所の期日、依頼者との打ち合わせ、できることなら文書作成にも充てたい貴重な時間です。出張の行き帰りに少し時間を取って名所観光とか、私にはほとんど考えられません。そういう時間を取ろうとしたら取れないわけじゃありませんが、そうしたらそれだけ帰ってからの日程がきつくなりますから、たいていは空港・駅・ホテルと裁判所・会場を往復するだけです。出張の役得なんてまずないです。
 さらに出張すると旅先でのリスクもあります。忘れもしない2000年9月11日には名古屋出張の行きに名古屋到着直前で東海豪雨に巻き込まれて新幹線に閉じ込められて徹夜しました(外は豪雨なのに新幹線の中には水がない。のどの渇きが結構辛かったです。私にとっての9.11はこっちの方が・・・)。青森空港や出雲空港で最終便が欠航となって帰れなかったり。そうなると翌日の朝東京で入っていた日程はキャンセルせざるを得ません。もちろん、事情を話せば、裁判所の期日も、快く延期してもらえますが、それだって後日の日程がつまって自分の首を絞めるだけです。
 これから出張の増える秋を迎え、事務所にいない日が増えますが、温かい眼で見守ってください。
(2006.10.1記)

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