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たぶん週1エッセイ◆
映画「ブラインドネス」

 未知の強力な感染力を持つ感染症により失明した人々であふれた隔離病棟と社会での人間の行動を描いた心理サスペンス映画「ブラインドネス」を見てきました。
 封切り3日目祝日ですが、3割くらいの入りでした。

 日本人男性(伊勢谷友介)が突如失明したところから話がはじまり、それを見て親切を装って車などを盗んだ泥棒、診察した眼科医師(マーク・ラファエロ)、売春婦(アリス・ブラガ)、発病した日本人男性の妻(木村佳乃)、眼科の受付と接触した人々が次々と感染し、政府は機敏に患者の隔離と武装警備隊による監視(脱走者は射殺)を決定、患者は精神病棟に収用されていきます。医師の妻(ジュリアン・ムーア)は、医師が収容される際、とっさに私も目が見えないと偽って同行します。病棟内で患者たちは医師の妻に支えられた医師のリーダーシップの下で次第に生活を確立していきますが、第3病棟の王を名乗る無法者(ガエル・ガルシア・ベルナル)が銃を手に供給される食糧を独占し、食料が欲しければ貴重品を、次いで女を差し出せと命じ、病棟を支配して行き・・・というお話。

 原因不明の感染症による失明と暴力の恐怖の下で、人々は夫婦はどうあり続けられるかということがテーマとなっています。
 理性を保ちみんなが協力して生活していこうとする医師の正当なリーダーシップと、暴力により支配を確立し欲望に任せてやりたい放題にしようとする無法者の出現は、この種のテーマである限り必然ではありますが、話を複雑にしているのは、ただ一人目が見える医師の妻の存在です。
 医師の感染失明を知り、医師からは感染するから離れろと言われながら離れずに抱きしめ目にキスさえして敢えて夫とともに感染者の中に収容される姿は感動的です。病棟で患者の生活を確立するために働き続ける姿も。
 しかし、次第に疲労と自分だけが見える(そのことは夫以外には隠している)ことの責任の重さから、夫とも口論し距離を置く場面が出てきます。その中で、絶望した夫が他の女性を肉体関係を持つ姿を目撃しますが、その場で2人に指摘しつつ罵ることなくスルーします。このあたりの心情は今ひとつ見えませんでした。
 そして、女を差し出せと要求する無法者に対して、自主的な判断を尊重するしかないという無力な医師と、屈辱を飲み込む女たちを、止めることなく自らも同行します。ここが一番理解できない点です。目が見える医師の妻は、無法者から銃を奪うこともあるいは刺し殺すことも可能なのに、むざむざと女たちを犠牲にし、自らも無法者に犯されます。しかも、敢えて正義の屈服を描くのであれば、その後の苦悩、女たちがその屈辱をどう乗り越えていくのか、男たちがその無力感・屈辱感とどう向き合っていくのかが描かれるべきだと思うのですが、そのあたりはあっさりした感じです。登場する2組の夫婦、医師夫婦と日本人夫婦が、気持ちの上でどう折り合いをつけていくかも、何となく心を通わせたという感じでなし崩しの感が強い。

 視覚障害者の置かれた状況、無法者も出るけど視覚障害によって見知らぬ者とも連帯する力などが描かれているとはいえますが、テーマの重さ、重苦しくスッキリしない展開、最後まで何ら説明されない荒唐無稽な設定、努力で勝ち取ったのでない唐突なハッピーエンドなど、どうも見終わって釈然としないものがたくさん残ります。

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