庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「ワールド・オブ・ライズ」

 中東で反米組織の情報収集を続けるCIA工作員の活動を描いたアクション映画「ワールド・オブ・ライズ」を見てきました。
 日曜日夜とはいえ、封切り2日目でガラガラ。レオ様ファンが集まりにくい時間帯ではありますが、ちょっと寂しい。

 イラクやヨルダンなど中東に潜入して現場で危険にさらされながら、情報提供者と接触して情報を集めるCIA工作員ロジャー・フェリス(レオナルド・デカプリオ)は、情報提供者との信頼関係を保とうとし、命を狙われた情報提供者を保護しようとしても、現地の状況を無視してアメリカ人以外の命を軽視し、アメリカの利害のみを最優先にする上司エド・ホフマン(ラッセル・クロウ)に拒否されて、結果的に嘘をつくことになり、信頼を得られない状況にあったが、反米テロ組織のリーダーアル・サリーム(アロン・アブトゥブール)の所在をつかむため、ヨルダンの情報局のリーダーハニ・サラーム(マーク・ストロング)の協力を得ようとするが、信頼関係を作ろうとするフェリスとハニを信用せずアメリカの利害を押し付けようとするホフマンのすれ違いで事態はこじれ・・・というようなお話。
 イスラム原理主義者を世界中をイスラム教徒で埋め尽くそうとしていると非難しながら、中東の現地の事情や現地の人命を無視してどこへ行ってもアメリカ流のやり方と利害だけを押し付けようとしているアメリカ人のやり方を皮肉った映画だと思います。自分は安全な遠方に身を置いて子どもの相手をしながら、地元民の命を切り捨てるような命令を出す、典型的な官僚として描かれるエド・ホフマンがその象徴になります。もっとも、同時にヨルダン情報局との三つ巴の展開を進行させ、最後はヨルダン情報局の方が一枚上という設定は、中東人のしたたかさをイメージさせていますし、全体として眺めれば政治的にはホフマンの指示が正当とも読めることもあり、中東でのアメリカやCIAの悪辣さの描き方としては腰が引けているとも言えます。

 基本的には、できれば信頼関係を築きたいと思っているフェリスが、ホフマンの指示で信頼関係を裏切る結果となる場面が続き、フェリスの板挟みの苦々しい思いに観客が共感する作りになっています。しかし、フェリスも、アル・サラームをおびき寄せるために偽のテロ組織をでっち上げて米軍基地の爆破事件を起こすことを提案し、全く無実の建築家を勝手にテロ組織のリーダーに偽装します。こうなると、中東人の人命を軽視するホフマンや、さらにいえばテロ組織のリーダーとさえ、どれほど違うの?と感じてしまいます。ヨルダン情報局のハニのしたたかさを含めて、そのあたりが単純でない政治ドラマの深みとも言えますが。
 どちらかといえば、現場を無視する憎まれ役の官僚のラッセル・クロウと、したたかなヨルダン情報局のマーク・ストロングの好演が光った感じがします。

 国際政治がらみの微妙な風刺物ですので、アクションドラマとしては、見終わった後の爽快感に欠けるのが残念です。 

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