◆たぶん週1エッセイ◆
映画「白夜行」
雪穂の子役の新人の、あどけなさと大人びた視線の交差する危うい美しさが、後々わかる真相の残酷さを際立たせている
雪穂の境遇には涙するが、なぜ雪穂がここまでに至ったのか、今ひとつストンとは落ちないのをはじめ不可解な点がいろいろ残る
東野圭吾のミステリーを映画化した「白夜行」を見てきました。
封切り初日、渋谷HUMAXシネマの初回午前10時20分の上映は4割くらいの入り。土曜の朝とはいえ、渋谷で封切り初日でこれって、テレビドラマ化されているものの映画化作品としては、寂しい。
密室となった廃ビルの中で質屋の主人桐原洋介(吉瀬良太)が凶器で背中から一突きにされ殺害された。洋介の妻(戸田恵子)は店員松浦(田中哲治)と不倫を続け夫婦関係は冷え切り、洋介は質屋の常連客の西本文代の下に足繁く通っていた。捜査が続く中、西本文代の恋人として浮上した寺崎が事故死し、そのポケットには洋介のライターがあり、次いで西本文代が自殺し、警察は被疑者死亡で捜査を打ち切るが笹垣刑事(船越英一郎)は納得できず、ひとり調査を続ける。事件当時10歳だった洋介の息子亮司(少年時代今井悠貴、高校生以降高良健吾)は母の元を出て行方不明となり、西本文代の娘雪穂(少女時代福本史織、高校生以降堀北真希)は遠縁の親戚の養女となり唐沢雪穂として新たな人生を歩んでいた。しかし、雪穂の周囲では、雪穂と対立する女性がレイプされ、雪穂につきまとう男が死体で発見される事件が続いていた・・・というお話。
被害者の息子と被疑者の娘の不可解な絆というテーマですが、もちろんミステリーですから単純にそういう話ではなくより複雑な要素を孕んで、子ども時代に負わされたあまりに深い傷と負い目が呪縛する2人の運命というような展開です。
雪穂の子役の新人の、あどけなさと大人びた視線の交差する危うい美しさが、後々わかる真相の残酷さを際立たせています。堀北真希のお嬢さん然としつつ時折見せる冷たい表情の演技が光っているのも、子役時代の印象が残ることが土台となっているように思えました。
しかし・・・雪穂の境遇には涙しますが、唐沢家の養女となって特に不自由なく生活する中で雪穂の心は戻らなかったのか、心が失われて(他人の)不幸に対して感覚がマヒしたとしても、他人の不幸に無関心になるというレベルを超えて他人を攻撃することへのためらいが失われるところにまではいくつものステップがあるはずですが、なぜ雪穂がここまでに至ったのか、今ひとつストンとは落ちませんでした。
同時に、いかに過去が重くても、亮司がいつまでも従い続けるのかも、今ひとつ納得できませんでした。
映画化でいろいろと説明を端折っている部分のためでしょうけど、雪穂の冷酷さなり攻撃性の継続や亮司の行動の他にも、あれだけ自信満々で嫌みな男だった部長がなぜ雪穂と結婚するや毒気を抜かれて引きこもってしまったのかとか、薬剤師の死の場面とか、雪穂が身籠もったはずの子どもはとか、見ていて不可解さの残るシーンが見られます。
昭和の頃の映像の古いイメージはよく表現されていたように思えます。当時実際に流行った「聖子ちゃんカット」が、今見せられるとずいぶん異様に感じるのは、ちょっとショックでした。
(2011.1.29記)
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