庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「21世紀の資本」
ここがポイント
 富者・巨大企業への累進課税と資産課税の強化は、数十年前にはそれがふつうで公平と考えられていたはずだが…
 この作品が、何故竹書房提供なのか、じつはそこにいちばんインパクトがあったかも
    
 トマ・ピケティの経済学書を映画化したドキュメンタリー映画「21世紀の資本」を見てきました。
 公開3週目日曜、お上からの週末外出自粛指令が続く中、週末休館する映画館が圧倒的多数となっている状況の下で、週末の上映を継続する今や貴重な映画館ヒューマントラストシネマ有楽町シアター1(162席)午後2時の上映は4割くらい(間隔を空けての座席指定のため、販売対象座席数からすると8割以上か)の入り。

 第1次世界大戦以降を中心に、時には産業革命あたりまでを振り返る歴史映像に、トマ・ピケティ自身や経済学者らのコメントを組み合わせ、所得・資産の格差の拡大とその固定が語られていくというスタイルの作品です。

 開始早々、というよりも開始直前に「TAKESHOBO(竹書房)」の大きなクレジットが入ります。えっ、提供竹書房って…、ここがいちばんインパクトがあったかも。原著は、私は読む気力も出なくて、実際読んでないんですが、私のおぼろげな記憶では、確かみすず書房だったんじゃ…まさか、あの竹書房が経済学の専門書を出していたのか、いや、そんなはずは…

 作品の中で、学生を使って、コイントスで富者と貧者に組み分けして富者に圧倒的に有利な不公正なルール(ゲームの各場面で同じことをしても富者は貧者より2倍点数を稼げる)でゲームをさせると、富者に当たった学生は例外なく尊大な態度を取り、勝った原因はツキではなく自分の実力と考えたという紹介があります。理由なく優遇を受けていると、それに慣れてそれを当然視し、それが自分の実力だと誤解しうぬぼれてしまい、恵まれない境遇の他者を理解も共感もせず蔑むようになりかねない、いやそうなる可能性が高いということですね。心しておきたいところです。

 格差を拡大し、かつその格差を固定する(貧者が成り上がる可能性がきわめて低い)現代社会の是正方法について、ピケティは、富者・巨大企業への累進課税と資産課税(特に相続税)の強化を薦めています。近世以降、中産階級が拡大した例外的な時期だった第2次世界大戦後の高度成長期には、世界中でそれが公平だと、考えられ、日本でも実施されていた(日本の戦後税制のスタートとなったシャウプ勧告の基本的姿勢ですね)のに、近年は経済界(大企業)を優遇しすり寄る政治家たち(新自由主義とかいう連中)に投げ捨てられ顧みられなくなった考え方ですけど。アップルやグーグル、フェイスブックなどの多国籍企業が巨額の利益を得ながら税を免れる様を批判し、多国籍企業の本社がどこに置かれようが、どのような法的技巧が施されようが、全体の売上の例えば10%がフランスで売り上げていれば全利益の10%に対してフランス政府が課税できるようにすればいいと論じています。消費税を上げてその分を(口先では社会保障に使うなどといいながら、実際には)丸々法人税減税に充てるような格差拡大と固定を是とする大企業にだけ奉仕する政治家には、絶対に見向きもされない提言ですが、正しいところをついていると思います。
(2020.4.5記)

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