庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「チェ 39歳別れの手紙」

 「2009年はチェとチェで始まる」の後半「チェ 39歳別れの手紙」を見てきました。
 早々にロードショー打ち切りの日程も示されていますが、封切り2週目日曜日小さなスクリーンとはいえ6〜7割の入り。暗くて地味な政治テーマの映画としては健闘していると言ってよいと思います。

 第2部はさすがに、チェ・ゲバラってこんな人の説明映像はなしで、すぐ本編でした。
 史実を忠実になぞる映画ですから、ボリビア行き後は明るい材料がほとんどない挫折と絶望の日々の暗い映画となることが見る前から明らかです。コマーシャル的に言えば、タイトルにもした、ゲバラのカストロへの別れの手紙が、数少ない売りで、これを気を持たせて引っ張るかと思いきや、冒頭から全文紹介してしまいました。このあたり、潔い感じ。
 ゲバラの手紙は、史実ですから変えようもないところですが、キューバ革命に成功し革命政権の大臣の地位にあるゲバラがその地位を擲って再度一兵士として異国でのゲリラ戦に身を投じるその動機が「今世界の他の国々が、私のささやかな助力を求めている」だけしか書かれていません。映画の中でも、ボリビアの農民や鉱夫たちが搾取され病院もなく教育も受けられない「状況」を語るだけです。革命政権の重鎮となったゲバラが、一兵士に戻るその決断は、最も感動を呼びゲバラの人間としての偉大さを感じさせるところです。少なくとも私にとっては。それ以上の資料がない以上、描き得なかったのでしょうけど、その部分がちょっとあっさりし過ぎていたなというのが、ないものねだりの不満です。
 「真の革命であれば、勝利か死しかないのだ」というのも、あの時代の気分を表しているのでしょう。ゲバラが書いたのでなければ、精神主義的で英雄主義に過ぎると評したくなる言葉が、成功した革命政権を出て一兵士としてゲリラ活動に戻る者の口から出ればこそ説得力があります。
 映画でも、戦闘よりも、根拠地作り、兵士の人間関係作り、農民との信頼関係作りに腐心するゲバラと、派手な戦闘をやりたがるゲリラを対比して描いているのが、印象的でまた地に足がついた感じがしました。
 ボリビアに向かうゲバラの心情として唯一描かれた、頭をそり別人に変装してボリビアに出発する前に、妻に膝枕してもらうゲバラが、とても印象的でした。

 ボリビアに潜入した後は、武装闘争に反対するボリビア共産党から支援の約束を撤回され、政府軍から山賊扱いで情報を回され、農民からは外国人は信じないという態度を見せられます。キューバ革命ではわずか82人で上陸して政府軍との戦闘で12人にまで減ってもジャングルでの根拠地作りに成功し農民の信頼を勝ち得て人民の支援を得ゲリラ志願者がどんどん増えて巻き返して行けたのですが、肝心の人民の支援を得られず、キューバより厳しい自然環境の中で食料や医薬品の補給に苦しみゲリラの参加者もなく、全く展望が得られません。政府軍の士気が上がらず、初期に戦闘で相手を投降させられることは同じでも、キューバでは投降した政府軍の兵士がゲリラに参加したのに、ボリビアではただ武器を置いて帰ってしまいゲリラ参加者は出てきません。そのときのゲバラの疲弊したむなしい表情が象徴的でした。
 ボリビアの農民の悲惨な状況を解決しようとしてゲリラに身を投じたゲバラが農民への説得を続けても当の農民の支持を得られずに孤立してゆく姿は、哀れであるとともに政治というものを考えさせられます。
 捕虜として捉えられた後、縛られたまま処刑されるゲバラの最期も、比較的淡々と描かれています。映画としての盛り上がりに欠ける流れですが、ゲバラという人物に思い入れがある限りは、沁みる映画だと思います。

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