庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「小さいおうち」
ここがポイント
 日中戦争下も浮かれて暮らす小市民の日常描写は、戦争への嫌悪感・恐怖感を希薄化させはしないか
 上司の妻に手を出しながらその自宅を平然と訪れ女中にも色目を使う無節操な間男を好意的に描かれても…

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 昭和初期の小市民の昂揚した日々と有閑マダムの不倫を描いた映画「小さいおうち」を見てきました。
 封切り2週目土曜日映画サービスデー、新宿ピカデリースクリーン6(232席)午前10時の上映は9割くらいの入り。

 昭和初期、雪深い米沢から東京に女中奉公に出た布宮タキ(黒木華)は、最初の主人の紹介で東京郊外の丘の上に立つ赤い煉瓦屋根のしゃれた家に住む平井家に奉公することになる。おもちゃ会社に勤める平井雅樹(片岡孝太郎)を会社の社長や同僚、部下たちが尋ねて声高に議論や放談がなされる中、場になじめないデザイン部門の新人板倉正治(吉岡秀隆)は抜け出して雅樹の息子の恭一(秋山聡→市川福太郎)の部屋に行き絵本を読んでやるうちに寝込んでしまい、上司らが去った後雅樹の妻時子(松たか子)と談笑していた。嵐の夜、電車の運休で雅樹が出張から帰れなくなったことを知らせに平井家を訪れた正治は、風雨にばたつく雨戸の釘付けをした後時子から泊まっていくよう求められ、夜半にラッチが壊れてバタバタする玄関のドアを固定しているところに現れた時子に口づけされ立ち尽くした。雅樹から取引先の縁者との見合いを断る正治を説得するよう指示された時子は、正治の下宿を度々訪ねるが…というお話。

 昭和初期の中産階級の小市民たちが、洋風の文化を楽しみながら比較的優雅に昂揚した浮かれた日常を過ごし、日中戦争を機会に金儲けを企み議論し、南京陥落に大喜びしといった様子を描き、それを現在の老人となったタキ(倍賞千恵子)が手記に書いて現在の若者の健史(妻夫木聡)に日中戦争中、2・26事件の頃の暗い世の中でそんなうれしそうで明るい生活してたはずがないと言わせて、意外かもしれないが実は…というように浮かび上がらせています。
 こういう描写が戦争への嫌悪感・恐怖感を希薄化し、戦勝に浮かれる小市民を描くことで1億総懺悔的に上層部の戦争責任を相対的に薄め免罪していくことにつながるのか、明るい世相の中でも戦争はやってくる・進んでいくと警戒心を強める方向に働くのかは議論がありうるのかもしれません。私は現在の世相からすると、前者の思いを強くするのですが。

 夫の部下に誘いかける時子のいかにも罪悪感のない風情、上司の妻に手を出しながら平然とその上司と不倫相手の自宅を訪れる正治の厚かましさに、私は呆然とします。これも小市民のしたたかさなのでしょうか。上司の妻に手を出してそれでも平然と仕事を続けその上司の自宅を訪れる上に、それを重々承知のタキにも色目を使うこの人物は、私には無節操と厚顔無恥の極みに見えますが、正治に思いを寄せるタキの語りで伝えられるために好意的に描かれています。そうすると、映画のニュアンスとしては、不倫の勧めというようなことになるでしょうか。
(2014.2.3記)

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