◆たぶん週1エッセイ◆
映画「シンデレラ」
ストーリーへの納得感は高められているが、イントゥ・ザ・ウッズでグリム童話系のシニカルな展開を見た後で、ペロー童話系のファンタジーを見せられても…
まぁ「エルサのサプライズ」で喜びに浸るエルサとアナが見れたので、それでいいか
ディズニーがアニメ化で大成功した「シンデレラ」の実写版映画「シンデレラ」を見てきました。
封切り2週目日曜日、新宿ピカデリースクリーン2(301席)午前9時40分の上映は8割くらいの入り。観客の年齢層はばらけていますが、多数派は女性同士、次いでカップル。
裕福な家庭で何不自由なく幸せな日々を送っていたエラ(リリー・ジェームズ)は、死の病に見舞われた母(ヘイリー・アトウェル)から、「勇気と優しさ」を忘れないよう言い残された。母の死後父(ベン・チャップリン)は、2人の子持ちのトレメイン夫人(ケイト・ブランシェット)と再婚した。派手好きのトレメイン夫人は毎晩のようにパーティーを開いたが、エラはなじめず、同様に飽きて仕事をする父から、お前のことを心配している、死んだ母を今も愛していると慰められる。その光景をトレメイン夫人が密かに見つめていた。遠くに仕事の旅に出る父に、土産の希望を聞かれて最初に肩に当たった木の枝を持ち帰るよう求めたエラは、その後木の枝を手にした父の従者から、父の死を知らされる。未亡人となったトレメイン夫人は使用人を全員解雇し、エラにすべての家事をさせ、屋根裏部屋で暖をとることも出来ないエラは暖炉の燃え残りに寄り添って寝て灰まみれになる。その姿を見たアナスタシア(ホリデイ・グレインジャー)とドリゼラ(ソフィー・マクシェラ)はエラを灰まみれのエラ/シンデレラと呼ぶようになった。ある日、いじめに耐えかねて馬に乗り森を駆けていたエラは、狩りをする「見習のキット」と名乗る若者(王子:リチャード・マッデン)と出会い、鹿を殺さないように求めた。王宮に帰り、父王(デレク・ジャコビ)から舞踏会で后選びをして他国の王妃と結婚することを求められた王子は、舞踏会で后選びをするが国中のすべての娘を招待したいと申し出る。舞踏会のお触れを聞いたトレメイン夫人は借金まみれの生活からの脱出の機会と喜び、エラは城の舞踏会に行けば「見習のキット」に会えると胸をときめかせるが…というお話。
「イントゥ・ザ・ウッズ」(アメリカでは2014年12月27日公開、日本では2015年3月14日公開)、「シンデレラ」(アメリカでは2015年3月13日公開、日本では2015年4月25日公開)と、連続してシンデレラを登場させたディズニーですが、「イントゥ・ザ・ウッズ」ではグリム童話に比較的忠実に描き、「シンデレラ」ではペロー童話の線というか、ディズニーアニメの線で描き、お話がかなり違っています。シニカルで厳しい展開のグリム童話系と甘いファンタジーのペロー童話系を続けて見せるのは興行戦略としていかがなものか、そしてもしあえてそうするなら順番が逆じゃないかと、私は思ってしまうのですが。
ペロー童話の構成で描きながら、唯一とも言えるグリム童話特有のエピソードを入れて、シンデレラに旅立つ父に対して最初に肩に当たった木の枝を持ち帰るよう求めさせたのはなぜでしょう。グリム童話では、父が持ち帰ったハシバミの枝を母の墓に植えてそのハシバミの木を灰かぶりの守護者とする流れですが、この作品では後のエピソードにつながらず浮いています。
ペロー童話とも、そしてディズニーアニメとも違う重要な点として、今回、エラが舞踏会の前にすでに王子と会っており、ともに相手に惹かれていたというエピソードと、エラに対し思いやりを見せ死んだ元妻を思うエラ父の姿を睨むトレメイン夫人のエピソードが加わっています。いずれもなぜそうなったか(なぜ王子がシンデレラに惹かれたのか、なぜトレメイン夫人がエラを憎んだのか)を説明する人間ドラマを付け加え、納得感を得やすくしたものと言えるでしょう。しかし、後者は、どうも「マレフィセント」の2匹目のドジョウを狙っている感じがしますし、それにしては中途半端に思えました。
ささやかな点ですが、ペロー童話のシンデレラで、カボチャの馬車やトカゲの従者等の魔法が解けてもガラスの靴はなぜそのままなのかという、最大の疑問について、魔女が、「靴の魔法は得意なの」と言っているのに納得してしまいました。そうか、他の魔法は得意じゃないからあまり長くもたないが、靴の魔法は得意だから…って、まぁ都合のいい後付けではありますが。
本編開始前に、「アナと雪の女王」の後日談短編アニメ「エルサのサプライズ」が同時上映されています。そちらが目当ての観客も、たぶん相当数いたかと思います。「アナと雪の女王」を見ていれば、姉から拒絶されて育ったアナ、もしくはアナを間違って傷つけないために拒絶せざるを得なかったエルサの心の痛みが、記憶に残っていますから、エルサがアナのためにアナの誕生日のサプライズを用意し、それを受けてアナが感激するという展開だけで、温かな気持ちになれます。ほぼそれだけの短編ですが、観客の満足度は割と高いでしょう。
(2015.5.3記)
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